VS.名も無き悪意の化身3
黒の波動が全方位に放たれる。
その波動を回避する術はなく、その場にいた誰もが等しく波動を浴びることになった。
「今のは……?」
「状態異常もステータスの低下もないみたいだけど……」
少なくともダイヤさんと俺には何も起きていない。効果をレジストした感覚はなかったので、何かしらの影響を受けているとは思うんだが……。
「な、なんだこれは!?」
「ジョブが変更されているだと!?」
「なんだって?」
騎士達が気付いた異常、それはジョブの強制変更のようだった。しかし俺とダイヤさんのジョブはそのままだ。プレイヤーには効果がない……とは考えられないんだけど、それ以外に何か理由があるのだろうか?
『ヒヒャハハハァ!! テメェらのジョブは全て降格してやった! これでさっきみてェな大技は使えねェ!』
ジョブの降格!? つまりあれか? 上級ジョブなら中級ジョブに、中級ジョブなら下級ジョブに強制変更されてるって事なのか!?
「そりゃ俺はなんともないわけだ……」
「私も、変身中だから効果がなかったのね」
現在の俺のジョブはダンジョンマスター。上中下の何れの級にも当てはまらない特殊なジョブだ。そしてダイヤさんは変身中なので、ジョブ、種族共に魔法少女へと変化している。魔法少女のジョブは、種族魔法少女の基本職なのでそれより下は存在しない。
俺達には効果がなかったが、これは思ったより厄介な技かもしれない。と言うのも、ジョブは下級よりも中級が、中級よりも上級の方が、あらゆる面で補正が大きくなる。
アーツの威力、スキルの効果、そして通常攻撃にも影響してくる。同じ攻撃でも、これからは威力が一~二割は低下していると思った方がいいだろう。それを指して未熟な過去とはよく言ったものだ。
そしてまだ良くない事がある。ジョブが下位の物に降格したと言うことは、ジョブに就いている時にのみ使用できていた強力なアーツやスキルは完全に使えなくなっているだろう。騎士達が名も無き悪意の化身がダウンした時に放った攻撃の多くは、就いていたジョブに由来する物だったろうしな。
ここからはステータスの低下、ジョブ変更による弱体化、そして必殺の一撃を封じられた状態での戦いになる。残りのHPはたったの一本と半分だってのに、どんどん勝利が遠ざかっていくみたいだ。
「……性格悪い作りしやがって」
シリウス君がいなければ、ここに更にHP回復とゲージ追加があったのを考えると、腐っても元神なのだと認めざるを得ない超性能だ。唯一の救いは、戦線が崩壊するレベルの大火力範囲攻撃を撃ってこないところだな。
そう思ったのもつかの間、名も無き悪意の化身は更なる行動に移った。
『さァ供物を喰い荒らせ、オレの眷属共!』
ここにきて眷属召還だと!? 大幅に弱体化した上で、大量の取り巻きまで相手にしなければならないなんて!
「ごめんライリーフくん、さすがにもう魔力が持たないわ」
「マジですか……」
聖剣の加護とアーツの連打で削り切れると思ったんだが、どうやら考えが甘かったらしい。息切れした状態で、この局面を乗り越える為には――。
「ダイヤさん、下に下ろすんで魔力回復に集中してください」
「取り巻きも出てきたことだし、変身を解いて戦った方がいいんじゃないかしら?」
「大丈夫です、雑魚は全部俺が相手するんで」
「……やれるの?」
「やってみせますよ。あ、ところでダイヤさん」
「何?」
「俺とあたし、一人称で好きなのはどっちですか?」
質問の意図をはかりかね、きょとんとした顔をするダイヤさん。まあ、いきなりこんな事を聞かれても意味不明だろう。けれどこれは大切な質問だ。一人でテンション上げるより、周りも巻き込んで盛大にやる方が楽しいからな。
ダイヤさんと別れ、肝心要の相棒を呼び寄せる。
「来い、アーデ!」
『はいはーい。ってうわ、何これクライマックス?』
「クライマックスもクライマックス。美味しい役目をぶん取る為に、まずはお掃除から始めんぜ?」
きっちりかっちり定められた台本は性に合わないが、アドリブだったら大得意だ。経験値におあつらえ向きの雑魚共が湧いたなら、それを糧にいっちょギャンブルと洒落込もうじゃねーの!
「騎士達! 雑魚なんて無視して構わず本体を叩け!」
「バカか! この数を無視などできん!」
「雑魚は俺が全部引き受ける!」
そう言い放ちながら、雷召嵐武を起動。空を駆け回りながら、雑魚共に向けてトマホークを投げつける。
アーツも使用していないので、当然ながらこれだけでは倒せない。しかし攻撃を受けた雑魚共は、ヘイトを俺へと集中させる。
「ちっ、こっちについて来ないのもいるか。おーい、余裕があったらこっちに投げ飛ばしてくれ!」
「残ったのは我らで処理する! その数だ、死ぬんじゃないぞ!」
いや、俺の経験値タンク取らないでよ……なんて口が裂けても言えない雰囲気だ。
まあいい。これだけの数を倒せれば、きっと目当ての力には手が届く。そう信じて戦おうか!
「変身!」
この状況を好転させる為に必要な物、それは魔法少女の魔法!
今は役立たずの魔法しか使えないが、新たな魔法が未来を切り開くと信じて――。
「さあ雑魚共、愛と勇気とその他諸々! 使えるもんは何でも使うこのあたし、魔法少女ライリーちゃんが相手だぜ!」




