VS.名も無き悪意の化身
俺はそっと手持ちのアイテムを確認する。
ボスモンスターとのバトルがある可能性は想定していたので、ある程度のアイテムの持ち合わせはある。けれども相手がレイドモンスターともなれば、この程度の準備では到底足りない。
そもそもなんでレイドモンスターなんだよ! 一人のプレイヤーが受注しているクエストに出現していい規模のモンスターじゃないだろうが!
「落ち着け俺、逆に考えるんだ。むしろレイドで良かったと」
あれがレイドモンスターなおかげで、やって来た騎士達と共闘してもステータスの低下は起きていない。何より奴らはソフィアが率いる精鋭騎士だ。俺がソロ、あるいはパーティーで挑む状況よりもずっと勝率は高い筈!
「魔法、放て!!」
『ハハハハハ! 効かねェなァ!!』
「なっ、魔法が跳ね返されているだと!?」
そこらのプレイヤーよりもずっと強い筈の騎士達の攻撃が効いていない。ある魔法は吸収され、またある魔法は反射されている。あいつには魔法による攻撃は通用しないってのか……?
「駄目だ……今の奴に生半可な魔法は逆効果になる」
「ん? シリウス君あの能力についてなんか知ってんの?」
「あれは私が作り上げた術式だ。自身の力を下回る魔法を吸収し力に変え、力の拮抗する魔法をも反射する。そして力を上回る魔法に対してはその効力を低下させる術式だ」
「なんだそのチート効果……」
自分の力量次第とはいえ、一つの術式でデメリット無しにほぼ全ての魔法に対抗できるのズルくない? しかもそれが奪われてるってことは、あの巨体相手に物理的な手段のみで対抗しなきゃならないって事だろ? 無理ゲーが過ぎるぜおい。
「ああクソ、どうしろってんだよ……」
「あの術式を停止させる手段ならある」
「え、マジで!」
「私が死ぬことだ」
「は……?」
「あの術式の根底は、私の命の輝きだ。奪われていようともそれは変わらない。故に、私が死ねばあの術式は停止する」
真剣な瞳で見つめてくるシリウス君。
ええ……? 俺が殺せってこと? やりたくねぇ……。
「それは最後の手段に取っとけよ。騎士達の強さを信じて、今は大人しくしとけ」
「だが!」
「うるさい! せっかく呪いが自分から離れてってくれたんだ、家に帰らねーでどうするよ?」
「それ、は……」
シリウス君に死なれると受けてるクエストが失敗になりかねない。報酬の金はあまり必要ではないが、公爵家、ひいては国からの評価が下がるのはファースに居を構える身としては避けておきたい。
むっ! ダイヤさんが前線に加わっている。しかもあのボス相手に魔法は悪手だと分かっているだろうに、変身したままの姿だ。
「いくよフェア! 煌めくは雷炎の華」
『ハハハハハ! 無駄無駄ァ! オレに魔法は効か――グァァァア!? ば、バカな!? 何故オレにダメージがッ!』
「教えてあげるわ。魔法少女の魔法、それは愛の力! それを阻むことなんて誰にもできやしないのよ!!」
なんと! 魔法少女にはそんな力があったのか!
「見ろよシリウス君、あれが理不尽を更なる理不尽で塗り潰す魔法少女ってやつだぜ!」
「う、嘘だ……私の組み上げた防御術式が一切機能していないだなんて! あ、いや、いい。今はいい。後で改良を施さねばならないが、悪神にダメージが通るなら何の問題もない!」
「お、先の事考える元気が出てきたか。その調子でどんどん前向きになってこうぜ?」
「あ、ああ。だが彼女一人が魔法でダメージを与えられても、騎士達の攻撃が届かないのでは……」
「まあ、物理縛りじゃじり貧だろうな」
俺も前に出て撹乱するか? つってもあの手の数だと効果は薄いだろうし……ん? ソフィアが何かやってるな。何やってんだろ?
「蒼き聖剣よ。我が祈りに応え、我が同胞に邪悪を祓う力を授けたまえ……蒼き守護の聖域!」
ソフィアの足元から巨大な魔法陣が展開される。するとどうしたことだろう、その魔法陣の内側に立っていた騎士達の武器が蒼く輝きだしたではないか。
『ハァ!? なんで聖剣使いなんて混じってやがるんだァ!!』
「おお、さすがはソフィア様! 我らの剣にまで聖なる力を授けてしまわれるとは!」
「この期を逃すな! 総員、一気呵成に攻め立てろ!!」
「「「応!!」」」
魔法が効かず、敵の巨大さ故に攻めあぐねていた騎士達が怒涛の勢いで駆け出して行く。その光景をポカーンと見つめていたら、ソフィアと目が合った。
ソフィアは頼もしい顔つきで微笑みながら、手にした聖剣をこちらに掲げてきたので、俺も頼もしげな顔つきをしつつサムズアップを返した。
「あの剣、俺が作ったんだ」
「そ、それは凄いな。あの支援能力は国宝クラスだぞ」
「ね、凄いよね。俺もあんなことできるなんて今初めて知ったわ」
「ええ……?」
あの聖剣、威力は高いけど自己バフと回復くらいしかできなかった気がするんだけどなぁ。剣としちゃあ十分過ぎる性能ではあったけど、ここまでブッ飛んではいなかった筈だ。
あ、待てよ? もしかして鑑定結果偽装されてたとかか? 男じゃ効果すら正しく読み取れないって可能性も、あの聖剣の材料的にあり得る。どれだけ男のこと嫌いなんだよ、ブルーソードユニコーンは……。
「隙だらけだぜ、化け物」
『ぐぉぉぉお……!!』
いつの間にかボーガンの爺さんが、名も無き悪意の化身の左腕の内の一本を斬り飛ばしていた。
ソフィアの持つ聖剣で強化された騎士達の攻撃も中々のモノのようで、奴の三本あるHPバーの内の一本が既に削り切られようとしている。
他のレイドモンスターがどうなのかは知らないが、名も無き悪意の化身のHPはかなり低いような気がする。それが極端に高い魔法耐性のせいなのか、はたまた復活したてで本調子ではないのか……。どちらにせよ、このままなら余裕で勝てそうだな。いやぁ、騎士達と一緒で本当に良かった。
『クソが! 調子こいてんじゃねェ!! 堕落と衰退の羽音!!』
「ぐっ、これは……!」
「なんだ? 急に、力が抜けて……」
『ハハハハハ! 聖剣の加護だろうが関係ねェ! オレに近づく程にテメェらの力は低下していくんだよォ!!』
魔法効かないのに近接戦闘挑むとデバフだと!? なんて性格悪い設定してやがんだ! これじゃダイヤさんしかまともに戦えないじゃねーか!
「……あ? おいおい、いくら何でもそれは反則だろ!!」
名も無き悪意の化身のHPバーが、四本に増えている。しかも削った筈のHPが徐々に回復していっているではないか。
『まだまだ他所の封印から力は流れてくるんでなァ、時間が経つ程にオレはより強くなっていくのさ! ヒャハハハハハ、この調子なら最後には神だった頃よりも強くなれそうだぜ!!』




