VS.悪神?
「くっ!」
力を奪った。悪神のその言葉を信じなかったのか、シリウスは魔法による攻撃に打って出た。それは炎と風の二重属性の魔法のようで、かなりの熱量を秘めていた。
『クヒヒ、なんだそりゃ?』
しかしその魔法は悪神に当たる前に、その力を失い消え去ってしまう。
「そん、な……」
『人生最後に使うにしちゃァ何の意味もない魔法だったな。そんじゃそろそろ死んどけや』
「ぁ……」
悪神は無造作にその腕を振るう。虫でも払うかのような仕草であったが、その腕に込められた魔力は膨大で、シリウスはそれを呆然とした様子で受け入れる。
「っしょいやァァァ! ギリギリセーフッ!!」
『あァ……?』
「き、君は……」
「ボケッとしてんなよシリウス君よぉ、あんた危うく死ぬ所だったぞ?」
颯爽と駆けつけシリウス君の窮地を救ったイケメンは誰か? 当然俺だ!
ギリギリのタイミングで魔法陣の効果が消えたので、全速力でタックルして攻撃範囲からシリウス君を退かしたのだ。
ちなみに、結構な勢いで突っ込んだのに、シリウス君はノーダメージっぽくて地味にショックだったりする。ステータスが足りないよ……。
と、ふざけてはみたものの……正直ちょっとヤバい。
さっきの攻撃かどうかも怪しい雑な一撃、それが振るわれた方に目を向ければ、そこには人一人を殺そうとしたにしてはあまりに規格外な破壊の跡が刻まれていた。
『そういや外にはコーデル王国の騎士連中がいるんだったな。わざわざガキ一人探す為にご苦労なこったぜ』
面倒くさそうにそう呟いた悪神だったが、その表情が愉しげに歪む。
『いいこと思いついたぜ! シリウス・エイルターナー、テメェを助けたそのガキに感謝するんだな。特別にお前を殺さないでおいてやるよ』
「へぇ、意外と優しいのね。そんじゃさっさと帰ろうぜシリウス君」
念のため逃走を選択してみる。
『まずは騎士共を皆殺しにする。そんで次はコーデル王国を滅ぼそう! シリウス・エイルターナー……テメェは最後に殺してやるよ。テメェのせいで誰もいなくなったコーデル王国の跡地でなァ。ヒヒヒャハハハァ!!』
こ、これは逃げられそうにない。殺さないでおくのはシリウス君のみのようで、俺もがっつり殺害対象として認識されている。
騎士達がまだ到着していない状況で戦闘開始は悪手! どうにか、どうにかして時間を稼がなければ!
「う、嘘だ……僕のせいで王国が……」
「ちょ、シリウス君!? 諦めるの早くないか!? よく考えてみろ、あいつが王国を滅ぼせるわけないじゃん! そうだろ悪神!」
『オレにはやれないだと? ヒヒヒ、なんでそう思う?』
「決まってる。お前は神かもしれないが、所詮は戦いに敗れた敗北者! 対して王国側には五神が揃い踏みときたもんだ、それを突破してお前が王国を滅ぼせる道理はないだろ。どうだ反論してみろや!」
面識ある神の顔を思い返してみると、なんだか少し不安になるがアレでも神は神! グーヌートなんて戦いの神なんだし、悪神なんて余裕で撃退できるだろうよ!
『フッ……』
「あん?」
『フヒヒ、ヒィヒャハハハッ! 神、神、神、神ィ!! シリウス・エイルターナーと違って少しは頭が回るじゃねェかテメェ。だがそれは間違いだ。神は動かねェ! いや、動きたくても動けないのさ!』
「なんだと……?」
動けない? あいつら割りと自由に活動してるように見えるんだけど、肝心な時に動けない制約でもあるってのか!?
『テメェはこの世界でいくつの都市や国が滅んでいったか知ってるか? かつての栄華は見る影もねェ廃墟と化した街にだって、そこを守護する神の一柱くらいはいたのさ』
ニヤニヤと笑いながら悪神は語り続ける。
『神はいたのに滅んだ、その理由は簡単だ。単純に連中が迫りくる脅威に対して手が出せなかっただけの事。神はな、絶大な力を誇る代わりに無闇矢鱈と力を振るえなくなるんだよ。それが世界のルールってやつだ』
悪神はふと目を細め、ため息を一つ吐く。
『昔は違った……誰も彼もが自由に力を振るって好き勝手やれたってのによぉ? 今となっちゃァ同じ神が相手か、災厄の化け物くらいにしか力を振るえねェ』
「なら……! ならば我らの神はお前を止める為に動ける筈だ!」
『シリウス・エイルターナー……そう答えを焦んなよ? このオレが、せっかくそいつの時間稼ぎに付き合ってやってんだぜ? まあいい、そろそろ十分だろう』
悪神は愉しげに通路の方へと目を向けた。多くの足音と鎧の擦れる音がする、騎士達がもうすぐ到着するのだろう。
『名前を奪われ、力を削ぎ落とされたオレを世界は神とは認めない。もともとなりたくてなったもんでもないんでなァ、枷から解き放たれて清々しい気分だぜ!』
「ちょっと待て。神じゃないから神が動けないのは納得した、だけどお前が力を失ってるってんなら王国だって攻め落とせやしないんじゃないか?」
『ヒハハハハ、そうとも! 本当ならもっと時間が掛かる予定だったんだぜ? でもなァ、オレの胸に埋め込まれたコイツが見えるか?』
「……精霊族の秘宝」
『ヘェ……コイツはそんな大層な物だったか。本当に良い拾い物してくれたもんだぜ、シリウス・エイルターナー!』
その瞬間、悪神の胸に埋まった精霊族の秘宝がドクンと脈打った。
『コイツに秘められた力は共鳴! 封印が何処にあろうともう関係ねェ、オレの復活に呼応して全ての力は解き放たれオレへと集う!! フフ、フハハハハハハハッ!!』
徐々に悪神の体が巨大化し、その姿は人から異形へと移り変わっていく。
長く歪な六つの腕、背中からは屍のように朽ちた三対の悪魔のような翼。口から覗く乱杭歯は鮫のように鋭く、乱れた長髪が炎のように揺らめいている。頭部には大小様々な角が生え、まるで王冠のようだ。
額が裂け、そこから第三の眼が現れる。燃えるように真っ赤な瞳は魔眼の類いのようで、見られただけで足がすくむ。
「な、なんだこの化け物は!?」
『騎士様方は漸くのご到着かァ? そんじゃ始めるぜ、このオレの復活祭を! 供物のテメェらはせいぜい足掻いてオレを楽しませてみせるんだなァ。ヒィヒャハハハハハ!』
《レイドモンスター、叙事詩級。名も無き悪意の化身との戦闘が開始されました》
《最大参加人数は100名です》
《現在の参加人数は43名です》
ちょっ、レイドモンスターだなんて聞いてないんですけど!?
おまけ
レイドモンスターの種類
・民話級
一番規模の小さいレイドモンスター。
参加できる人数は20人規模の物から80人規模の物まである。
・叙事詩級
普通に出てくる中じゃかなり強いレイドモンスター。
参加できる人数は100人規模の物から500人規模の物まである。
・神話級
出現する方が珍しいレイドモンスター。
参加人数はどれも無制限である。
鳥さんことヴィルゾーヴもここに分類される。
・その他
詳細不明。




