補充作業
昨日は最後の最後になんであんな真似をしてしまったのだろうか? 我ながらアホすぎる。
ともあれ今日も今日とてゲームにログイン。土曜なので時間はいっぱいあるけれど、やらなきゃいけないこともまた多い。何から手をつけようか。
「おや、お帰りでしたかマイロード」
「ようバニーちゃん。金儲けは順調か?」
「うふふ、それはもう笑いが止まらない程度には」
「ちなみに具体的な金額は?」
「こんな感じですね」
うっわ……もうこんな儲けてるのか。オープンしてからたった数日で億ってあんた……。
「悪どいことしてないだろうな?」
「失礼な! 私の事をなんだと思ってるんですか!」
「守銭奴」
「くっ、この上なく正しい認識! ハァ……私の認識はさておくとして、この利益はマイロードの作った仕掛けによる所が大きいんですよ?」
「えっ、俺か? なんかやってたっけ?」
「ダンジョンですよダンジョン! あのダンジョンに入る為にはマイロードの店で売り買いしなければならないでしょう?」
「そうだな」
「あと、素材系のアイテムの買取り価格を相場より少し高めに設定もしていましたね?」
そんな設定したっけ? まあバニーちゃんがそう言うなら設定したんだろう。金ならあるんだし、他のプレイヤーが勝手にアイテム納品してくれれば楽じゃね?とかそんな感じの考えで。
「それがどうした?」
「ダンジョンに潜った方が売りに来るんですよ、アイテムを」
「そうだろうな」
「そしてまたダンジョンに潜りに行くんです」
「だろうな。……ん?」
「気付きましたか?」
うちで買い物した奴がダンジョンに潜って、そいつがうちで素材売って、またチケット貰ってダンジョン潜って……あれ? 無限ループかな?
「いや待て! それだけじゃ利益になんねーだろ!」
「そうですね。それだけなら素材が増えるばかりで、お金はどんどん出ていく事になります。ですがマイロード、貴方やブラウニー様はその素材を加工した商品を売っているんですよ?」
「……そんなに売れてんの?」
「先ほどの数字を見た通りです。品質は確かですからね、飛ぶように売れますよ。人気なのは食品類と魔導小銃ですね」
おかしいな……店に並べてる魔導小銃なんて、ウォーヘッドに作ってやったやつからだいぶ劣化した性能の物の筈なのに。
料理は分かるが、あんな高いだけで微妙な性能の物でも買われていくとは思わなかった。
「まあ当然の結果ですね。帝国の魔弾銃はあまり市場に出回りませんし、仮に売っていたとしても型落ちの旧式がいいところ。それと比べればマイロードの作り上げた魔導小銃は破格の性能をしていますし、多少値が張ったところで手に入れようとする方達は後を絶たないでしょう」
「バニーちゃん、もし知ってたらでいいんだけどさ、ぶっちゃけ帝国産の最新モデルと比べたらどう?」
「そうですね……好みの問題もあるでしょうが、私は魔導小銃の方が性能は上だと思います。連射性能は比べるまでもないですし、なにより自分のMPを気にせず使えるのが大きいかと」
「ああ、帝国のって魔力結晶入ってないんだっけ」
「少なくとも、外に向けて販売されている物には付いていなかった筈です」
「それじゃあ付いてるのもあるかもしれないってことか」
「魔力結晶搭載型があったとしても、マイロードの魔導小銃の方が優れているとは思いますけどね。なのですぐに売り切れにならない数をお願いしますね?」
「とりあえず、量産できるだけしておくよ」
こうして午前中の予定はアイテム作成に決まったのでしたとさ。
災厄戦で使いきった石のトマホークをメニュー画面からオートで量産しつつ、銃作りに勤しむ。百挺も作る頃には飽きも出てきて、ついつい遊び始めてしまい、無駄に高い完成度を誇るガラクタが新たに作られていた。
アイテム
魔光剣銃・ソードバレリア ★★★★
ATK30 耐久値150/150 MP500/500
光撃弾 モードチェンジ・銃/剣
光属性の弾丸を放つ魔弾銃。
銃身の変形ギミックを使用すると内部の術式が変化し、
魔力の刃が銃口より伸びる。
めっちゃかっこいい。実用性は皆無だけど、ガションって変形させてからトリガー引くと光る剣が出てくる感じが最高である。ギリギリ王都周辺のモンスターと渡り合えるかどうか程度の威力なのが、本当に悔やまれるぜ。
一応ネタ枠の新商品ってことで店に並べてみよう。価格は魔導小銃の1.5倍のぼったくりプライス! いくらかっこよくても、まず買うやつはいないだろうな。
さてと、次は飯関連の補充だな。リャパリャパ炒め、ホネナシチキン、カレー……あとは販売用のスパイスセット。大量生産の効果で、こっちはそう時間を掛けることなく作り終わる。
おっと、飯と言えば忘れちゃならないのがうちのペット達への貢ぎ物だ。奴らは飯に釣られてテイムされたようなものなので、これを怠るわけにはいかない。
ダンジョンの鳥ガーハッピー達には昨日捕った川魚の塩焼きを作って、子ウサギ達にはフルーツタルト辺りを作ってやるか。デザート系はそこまで作り慣れてないが、奴らのフルーツへの執着を考えるに、多少完成度は低くとも普通の料理を出すより喜ばれるだろう。
「ん、こんなもんか」
出来上がった料理をペット達に届けたら、装備を整えて封呪の洞穴に戻ろう。問題は遊園地内を徘徊する子ウサギ達を捕捉できるかだな。簡単に見つかるといいんだけど……。
「いないし……」
奴ら自由すぎる。一通り遊園地内を見て回ったが、何処にも見当たらない。セレネにも探すのを手伝ってもらってるのにみつからないんだから隠れるの上手すぎだ。
『たっだいまー!』
「ん? おうアーデ、外の世界は堪能できたか?」
『うん! この遊園地、だっけ? おもしろいよね! やっぱり君と契約して外に出てよかったよ!』
「そっか。ところで子ウサギ見なかった? 三匹で行動してて背中に羽生えてるやつ」
『あ、それならさっき見たよ。あっちの路地裏』
「路地裏……?」
何故当園のマスコットキャラが路地裏なんぞに? そう思いつつ、アーデの言う路地裏を覗いてみた。
『もっとフルーツ』
『まだ隠してるでしょー?』
『早く出せ出せー』
「ああん! 蹴らないでウサギちゃん! 出します、出しますから!」
あいつら、喝上げなんてしてんのかよ! てか襲われている側が嬉しそうなのはなんでだ!?
「ちょっと君、次は僕の番なんだけど? 横から入んないでちゃんと並んでもらえる?」
「えっ、はい……」
つい生返事を返してしまったが、並ぶってどういう事だ? うわ、よく見たら本当に列が出来てる! 何こいつら? まさかうちの子ウサギに喝上げされる為に並んでるの!? れ、レベル高ぇ……。
『次の獲物来たー』
『フルーツ寄越せー』
『食べさせろー』
俺はそっとその場を後にした。
『いいの? あの子達に何か用があったんじゃない?』
「いい。それよりもダンジョン行くぞ」
ウサギ達の事は忘れよう。アレとは関わっちゃいけない。
『ダンジョンかー。モンスターがいっぱいいる所だよね? 何か狙ってるアイテムでもあるの?』
「いいや? 俺のダンジョンだから戦闘は無いぞ。あ、でも世界樹の採取スポット巡りはしなきゃか」
『……なんて?』
「なかなか数集められないからさ、毎日コツコツ貯めてんのよ」
『生えてるの!? ダンジョンに!? 嘘でしょ!?』
アーデが信じられないみたいなので、先にポテトの里へと向かう。うん、今日ものどかだ。
『本当に世界樹だ……』
「な? わりと普通に育つもんなんだよ」
『そうなんだ……。ところでさ、あの動くお芋ってなんなの?』
「気がついたら畑ですくすく育っていたモンスターだな」
『畑耕してるけど……?』
「そりゃ芋だもの、子育てに畑は必須だろうよ」
『ごめん、うちはちょっと頭が痛くなってきたよ……』
頭あるんだ。いや、光る球体にしか見えないのは俺の魔法少女適性が低いからなんだろうけど。
「そうだ、確認しておきたいことがあるんだけどさ」
『なに?』
「変身って離れてても出来るのか?」
『無理だよ。けど、離れててもうちらは呼ばれれば変身装具を通して転移できるから、普段別行動でも問題はない、かな?』
「おっ、そうなのか? いやー、それを聞いて安心したぜ」
『うん?』
「アーデ、勝手に出歩いてもいいから普段はここで生活してくれ。正直視界の隅でずっとピカピカ光ってるのはちょっと鬱陶しい」
『いろいろ酷くない!? 世界樹の側で生活できるのはちょっと嬉しいけど、回りがモンスターだらけじゃん!』
「大丈夫、奴らは温厚なポテトだ。きっと仲良くしてくれるさ」
『本当にぃ……?』
なにしろダンジョンでの活動を出稼ぎと認識しているような連中だ。父帝闘男爵と首領・フライドが鳥ガーハッピー達の軍門に下った今となっては、危険なポテトなど存在しない。
ほら、その証拠にこちらに気づいて近づいてきたポテトを見てみなさいよ。満面の笑みでホクホクのポテトを差し出しててきたじゃないの。調理されたポテトの魂が、その怨念でモンスターに転生したっていう設定からはバリバリ矛盾してるけど、こいつはいいポテトモンスターに違いない。
「うん、旨い」
『ポテトがポテトを調理してるのおかしくない? ってなんで平然と食べてるの!?』
「世の中には自分を鍋で煮込んでスープの出汁をとる鳥だっているんだぜ? ポテトを調理するポテトだっていても不思議じゃないだろ」
『そんな鳥いないよ!』
「いるんだなぁこれが。しかも今獣王国で一番ホットな店で働いてんだぜ?」
クッキングバード・レギオンの店、いつか俺も食べに行きたいもんだ。あいつらはシフォンと一緒に行動しているみたいだし、もう俺が作るよりも旨い料理を作れるようになってんじゃないかな?
『そ、そうなの? 里の外って変わってるんだね。あ、ポテト美味しい……』
「友好の印も受け取ったんだ、アーデはここの新たな住人としてポテト達に挨拶してくるように」
『ハァ、分かったよ。よろしくね、ポテト君』
こうしてアーデはポテトの村の一員となった。それを見送りながら、俺はダンジョンマスターの部屋へと転移する。
「ノクティス、ルクス、ラクス。飯もって来たぞー」
(あ、旦那! 今日はどんな料理ですかい?)
「川魚の塩焼きだな」
(ふん、いつもと比べると地味だな。もっと豪華な食事を寄越すがいい)
「おう、ルクスはいらないみたいだからノクティスとラクスで食っていいぞ」
(やったぜ!)
(待て! 食べないとは言っていないぞ!?)
(マスター、キラキラは? キラキラが足りません)
「ほれ水晶」
(良きキラキラ、いただきます)
(くっ、何故ラクスの要求だけ通るのだ……)
ラクスには飯の他に宝石や水晶を渡すことを約束している。自分からテイムされたルクスとは違うのだよ。
少しして食欲に負けたルクスが羽を差し出して来たので、ちゃんと塩焼きは食べさせてやった。
「ダンジョンの方は順調か?」
(問題無いですぜ。挑んで来る連中も多いし、ポイントもガッポリ貯まってまさぁ!)
(我らに挑まず帰るのが不満だがな)
(キラキラも日々育っています)
「ふむふむ」
確かに新しく階層を増やせるくらいにはポイントが貯まってるな。まあ、階層を任せられるようなボスモンスターがいないのでまだ増やさないが。
ノクティス達二階層のボスに挑戦するプレイヤーがいないのは……一回挑めば無理ゲーだって分かるししゃーないわな。
「三割くらい世界樹に使うとして、後はお前らの好きにしていいぞ」
(おっ、そいつぁ太っ腹ですねぇ! まあ、あっしは特に何かしたいってのもないんですが)
(我もだな。使っても配下の補充くらいか)
(キラキラを増やします。いっぱい増やします)
今でもラクスがボスを勤めるエリアは一面水晶に覆われてるってのに、まだ増やそうってのかよ。ラクスはブレないなぁ……。




