騎士のお仕事 6
完全復活ッ!! ハッハーッ、ラーメンの力ってスゲー! まるで原始時代に刻まれた太古の記憶が目覚めたかのような解き放たれた気分だぜ!
この体に熱く滾る狩猟本能が、大物を狙えと囁いている。具体的に言うならば、そうマンモスを!
ゲームにログインしたら騎士達と行動することになるだろうが、今日はガンガン攻めてあわよくばマンモスを発見してやるぜ!
「とう!」
「む、起きたか」
馬車の荷台にでも放り込まれているかと思っていたが、意外にも俺の体はベッドの上にあった。スプリングが効いていていい跳ね起き方ができたぜ。勢いそのままに、見張りの兄ちゃんに挨拶して現状を把握しよう。
「どもっす! それでここは何処なんで?」
「ここは森の広場に築いた拠点の一室だ。にしてもお前、むちゃくちゃ元気だな」
「有り余るエネルギーが解放の時を待ちわびてるのさ!」
「そうか。ならさっさと表に出て仕事をこなしてくれ」
「応よ!」
てってってーっと外へ向かって走り出す。
しかしあれだな、なんか騎士達から殺気を向けられなくなった気がする。それどころか俺を見る目が優しい。不気味だ。
「あ、ライリーフ君! 起きたのですね! 体はもう大丈夫ですか?」
「おうソフィア、心も体も漲ってるぜぃ!」
「あれだけの障気を浴びながら何ともないなんて……本当に大丈夫なんですか?」
「大丈夫大丈夫、だいたいの事は一回寝れば元通りだから」
「それは知っていますが、この地で計測されたよりも数段濃い障気を纏っていたので心配なんです」
なるほど、騎士達の態度が軟化したのはそれが理由か。
残留しているだけで草木を枯らす程の障気、それをより強く纏って戻って来た俺は、それだけの死闘を繰り広げたと思われているのだろう。実際は自爆みたいなものだけど、あえて訂正はするまい。
「そんな事より仕事だ仕事! 俺は何をすればいい?」
「そうですね……では、前回と同様に私と森の深部を探索しましょう」
「狩りだな? 任せろ!」
「ええと、強力なモンスターに出くわせばそうなりますね」
マンモスが俺を待っている!
装備は……む、剣が全部ダメになってるな。防具もガタガタだ。作り直したいところだが、手元に材料がない。トマホークも使い果たして、残っている武器は短槍のみ、か。
まあいい、理想としては通常サイズの槍があれば良かったが、短槍でも槍は槍。マンモスを狩るに相応しい武器だ。大物を仕留めて目指せマンガ肉!
「行くぞソフィア! マンモスが俺達を待っている!!」
「この辺りにマンモスは出なかったと思うのですが…… あ、ちょっと待ってください! 先に指揮の引き継ぎをしないといけないんです! 聞いてますか!?」
「ウラーラーラーッ!!」
道なき道を北へと突き進む。野生の勘が、こちらに大物がいると囁くのだ。
暫く歩き続け、めぼしいモンスターが見当たらず、そろそろ引き返そうその時、ガサガサと大きな音をたてて茂みが揺れたではないか。
「む!」
「何か来ますね……」
俺とソフィアは臨戦態勢で茂みを睨む。
何時でも来い、今宵の俺は血に飢えている!
しかし待てど暮らせどモンスターは姿を見せない。これはいったいどうしたことか?
「……! 上です!」
「何ィ!?」
「グルァァゥ!!」
わざと大きな音をたてて俺達の意識を茂みへと誘導し、警戒が薄くなった頭上からの奇襲。俺一人だったら絶対に気づけなかったことだろう、ソフィアに感謝する。
「ぐぬああ……!」
まあ、気づけたところで避けられないんだけどね!
「くっ、見事な奇襲だと褒めてやろう……ん? こいつは!」
「ライリーフ君は下がってください。私が倒します!」
「グルルルル……」
「いいやソフィア、ここは俺にやらせてくれ!」
襲い掛かって来たモンスター、その姿にテンションが上がる。何故なら奴は、奴の姿はマンモスにも引けを取らない原始時代を象徴する獣によく似ていたのだから!
モンスター
ファルシオンタイガー Lv47
森に潜む狡猾な狩猟者
その巨大な牙で狙った獲物を切り裂き食らう
サーベルではなくファルシオンか!
確かに以前博物館で見た骨格標本の物よりも、分厚く立派な牙をしている。相手にとって不足無し、見事打ち倒して勇士とならん!
「いざ勝負ッ!」
漢たるもの、正面から挑まずしてなんとする。小細工なんぞ弄する暇があるのなら、一歩でも前へ出て、一撃でも多く槍を振るうべし!
手にした短槍のリーチは普通の槍よりも短いが、それでも剣よりは広い。即ち、正面戦闘においては奴よりも俺が優位!
「ふんっ!」
牽制の一振りを、ファルシオンタイガーは後ろに跳ぶことで回避した。最初の奇襲で憤怒の逆鱗は発動しているが、まだ三割もHPが残っている状態だと強化倍率が足りず、AGIの差が如実に現れている。
このままでは、かなりタイミングよく攻撃を仕掛けないと当たらない。カウンター狙いの戦術で何とかするか、或いはもう一撃ファルシオンタイガーからの攻撃を受けて憤怒の逆鱗の強化倍率を最大値まで引き上げて速度に対抗できるようにしなくては。
いや、何もどちらかを選ぶ必要はないな。カウンター狙いの途中でミスって攻撃くらうだろうし、それまではわざと攻撃を受ける事もないだろう。
「グルルォォ!」
「なんのッ!」
牙にばかり目が行きがちになるが、三メートルはありそうな巨体を支え、地面を走るかのように木にも登れるあの四肢から繰り出される攻撃も強力だ。
それに加えてあの鞭のようにしなる尻尾も厄介だ。尻尾自体で攻撃してくることは少ないのだが、石や木片を拾えるほど器用で、拾った物を投げて囮や牽制に使ってくる。まったく、鑑定で見た説明にあった通りの狡猾さだぜ。
襲い来るファルシオンタイガーに何度かカウンターで攻撃を当ててはいるものの、やはりステータスの差から大したダメージにはなっていない。ギリギリ避け続けられる攻撃しか飛んでこない事で、膠着状態に陥りかけている。このまま時間を掛けていては、俺がプレゼントした聖剣に手を伸ばしてうずうずしているソフィアが参戦しかねない。
「ぐっ……ぬああ!!」
「ギャンッ」
比較的弱めな攻撃を見極め、わざとくらってからのカウンター。これまでで一番のダメージに、ファルシオンタイガーが警戒した目で距離をとる。
すかさず俺は距離を詰め、突きを放つ。HPが1になり、憤怒の逆鱗の効果は最大値になっている。それでもファルシオンタイガーの方が素早く、槍が直撃することはなかった。しかしこの攻撃は、奴の視界の片方を奪いさった。左目を掠めたのである。
「グルルァァ!!」
片方の視界を奪われたファルシオンタイガーは激昂し、これまで以上の勢いで攻撃を仕掛けてくる。それは激しく荒々しい攻撃であり、これまでの狡猾さとは一線を画す、野性を生きる獣本来の力強さがあった。
ぶるり、と背が震える。恐怖からではなく、興奮からくる武者震いで。
これだ! この荒々しき獣、それを屠ってこその勇士! 俺は今、原始の闘争の中にいるッ!!
しかし忘れてはいけない、ここは剣と魔法の世界を模したゲームであることを。ならばこそ、その恩恵を十全に発揮するべく俺は動く!
「天翔天駆!」
地を駆け回り、木々を跳躍し、俺を食い殺さんと迫るファルシオンタイガーの攻撃を避け、俺は空へと駆け上がる。
ステータスが上昇しても、それだけで勝負を決することはできない。通常の攻撃でHPを削り切るのなら、それ相応の手数がいるし時間も掛かる。それらをスパッと解決してくれるのが、魔法とアーツだ。
現在俺が使える魔法は生活魔法のみ。それはダンジョンの謎解きギミックや、アイテム作成の補助に使える程度の物。下準備をしてものすごーくMPを消費すればモンスターにダメージも与えられるが、今回は下準備の時間がないので却下。
なのでここはアーツの出番だ。昨日修得した始まりの鮭獲りのな!
始まりの鮭獲り、このアーツの欠点は最初の溜め時間の長さと、攻撃方向が下向きな事だ。川で鮭に使うのであれば何の問題もないが、モンスター相手に使うとなるとどうしようもない。
そこで俺は考えました、このアーツの使い方を! アーツの発動に必要な時間を稼ぎ、尚且つ攻撃を命中させる方法を!
なんてことはない、ただ相手より上に待機していればいいんだよ。発動までの時間が稼げる程上空にな! 俺を追い掛ける事ができる相手なら、そのまま突っ込んで来たところにカウンターの一撃を叩き込める。追ってこれない相手には、天翔天駆を解除して、玉ヒュンの感覚と戦いながら攻めに転じる。
相手が遠距離攻撃の手段を持たず、尚且つ考え無しに突貫してくる、或いは手が届かずにボケーっとこっちのことを見上げ続けてくれるような、そんな限られた状況でしか成功しない作戦ではあったものの今回は成功した。
これまでの戦いで、ファルシオンタイガーの跳躍距離は把握している。俺が陣取ったのは木々の上空、しかも奴の跳躍がギリギリ届いてしまう距離だ。攻撃が届く場所にいる獲物を逃がす道理は無いだろう。ファルシオンタイガーは俺の思惑通り、残る右目を血走らせて追いかけて来たのだった。
「始まりの鮭獲り!」
槍を構え、力が溜まるのを待つ。余裕をもってアーツを発動したため、ファルシオンタイガーがここに到達するよりも、力が溜まる方が早い。
手に持つ槍が徐々に光を放ち始め、解き放たれる瞬間を今か今かと待ちわびている。
「グルルォォォ!!」
「どっせいッ!!」
雄々しく振るわれた槍が、ファルシオンタイガーの横っ面をジャストミート! クリティカルヒットの快音を響かせたカウンターの一撃は、目に見えてファルシオンタイガーのHPを削りとる!
俺からの反撃を受け、重力に身を任せるように落下するファルシオンタイガー。それをそのまま見送る程俺は甘くない。
「雷召嵐武ッ!」
雷と風を身に纏い、追撃に打って出る。
狙うは心臓。槍を突き立てつつ、空を蹴って地面へ向け更に加速!
途中でファルシオンタイガーが気絶から復帰したがもう遅い、勢いそのままに地面へと激突。槍が深く突き刺さり、落下のダメージもあってファルシオンタイガーのHPは0になった。
その代償に槍は砕けちり、俺も一回分死んでしまったが、達成感がこの身を満たしている。
ファルシオンタイガーが光の粒子となり消え去るのを見送ってから、俺は勝利の雄叫びを上げた。
「ウオーーーッ!!」
「お見事です。いつ加勢しようかと迷ったのですが……まさか一人で倒してしまうなんて」
「あ、ソフィア。えっと、その……すまん。なんか一人で楽しんじゃって」
「いえいえ、満足できましたか?」
「うん、満足!」
「次からは私も戦闘に参加しますからね? 私だって、この剣を早く試したいんですから」
「もちろん。まあその場合、俺が足引っ張らないように頑張らなきゃだけどな……ん?」
「これは……戦闘音でしょうか? 私達の他にもこんな森の奥深くまで進んでいる騎士がいるようですね。念のため合流しておきましょう」
音のする方へと向けて足を進める。
途中、何故かソフィアが音とは別の方へ向けて進んだりもしたが、なんとか音の出所に近づけている。次第に音が大きくなり、まもなく目的の場所に辿り着けるといったところでそいつは現れた。
黄金に靡く豊かな長髪。日の光を浴びキラキラと輝くその髪の持ち主は、慈愛と冷徹さを併せ持った眼差しで俺達を射抜く。
絶対的な支配者のオーラを放つそれは、ファブァッサァ!と髪を靡かせ威圧を一つ。あまりの衝撃に動けない俺達を見つめ、フンスと鼻を鳴らすのだった。
「ら、ラプンツェルコング……」
ソフィアの呟きを聞きながら理解する。その日俺は、最も美しい髪をしたゴリラに出会ったのだと。
最後のゴリラは作品を投稿し始めた頃に考えた古参モンスターです。




