騎士、動く
お待たせしました
一日経過して今日は金曜日、昨日はアイテム作りだけで終わってしまったが悔いはない。あー、早く魔力貯まんねーかなぁ!
とりあえず、今日の予定はセレネとモンスター討伐をしようと思っている。やっぱりあの謎の美少女の正体が気になるからだ。どうすればイベントが進むのか分かんないけど、連れ歩いてバトルすりゃ親密度とかなつき度的な数値が上がって進展があるのはゲームなら鉄板だろう。
そう思いつつログインした訳だが、肝心のセレネが見当たらない。いつもならその辺で日向ぼっこでもしてるのに何故だ?
「セレネー? セレネさーん、どこ行っちゃったんだー?」
いない、いない、ここにもいない。タイミング悪く縄張りのパトロールの時間と被ってしまったのだろうか。仕方ない、ホームの外まで足を伸ばしてみるか。
「見つけたぜェ小僧」
「ぐえ!?」
突然厳つい爺さんに首根っこを掴まれ捕獲される俺。いったいなんなんだ!?
「おう小僧、こんな面白そうな物作った癖に友人の嬢ちゃんを招待しやがらねぇたァどう言う了見してんだ? おかげで嬢ちゃんが拗ねちまったじゃねェか!」
「何の話!? てかあんた誰だよ!」
「ああん? 城の正門で会ったのを忘れたってのか?」
城? 正門? 城になんか数える程度しか出向いてないし、その限られた回数の中でこの爺さんとエンカウントしたと!? まるで覚えてねぇ!
「いや分かんねーよ!」
「何ィ? ……そういや特に自己紹介とかしてなかったか」
「ほらー!」
「まあいい。とりあえず小僧、大人しくついて来い」
そう言って爺さんは俺を引きずりながら移動し始めた。ついて来いとはなんだったのか…あ、思い出した。城に修繕費払いに行った時に絡んできた騎士の上司かこの爺さん。ってことは、嬢ちゃんってのはソフィアのことだな。いっけね、歓楽島のお土産すら渡せてないじゃん。
「おう、フォル婆はいるか!」
「あら、珍しい。国一番の剣士様が私に何の御用かしら?」
爺さんに引きずられているうちにたどり着いたのは、ファースの公民館……もとい神殿だった。
「元、だ。間違えんじゃねェよ。にしてもなんだその姿は? ババアの振りは止めたのかよ」
「別に、振りって訳でもないんだけど……そうね、今はその日の気分で変えてるわ」
ファッション感覚で見た目年齢を変化させるとは、さすが神様連中と同世代な婆さんだぜ。
「よく分からんが面倒なことを。まあいい、それよりこの小僧を騎士にしてくれ」
「自分でやればいいじゃない」
「生憎と今の俺にその権限はなくてな。急いでるからさっさとやってくれや」
「ふぅ、まあいいわ。こっちとしても都合がいいしやってあげましょう。ライ坊、ジョブ変えるから大人しくしてなさいね」
そう言ってフォル婆は俺の額に指を押し当て、小さく二三言呟いた。
「はい終わり。これでライ坊は正式にこの国の騎士になったよ」
「は……?」
「おう、助かったぜ。これで晴れてなんの問題もなく参加させられるってもんよ。それじゃ行くぞ」
「あ、おい、ちょっと待てよ爺さん! フォル婆! 正式にってどういうこと!? 普通の騎士のジョブに変えたんじゃないのか!?」
「安心しなさいな、ちょっと普通の騎士よりも上のジョブに就けただけだから」
「うちの国じゃ騎士ってのは、守護騎士より上のジョブに就いた連中だけだからな。領主なんざやってんだから、このくらいでいちいち騒ぐなや」
引っ張る爺さんに抵抗しつつフォル婆に投げ掛けた疑問、それには驚愕の答えが帰って来た。中級職にすらまともに手をつけていないのに、いきなり上級職にされても困るんですけど! いや、そんなことよりもだ。
「領主? 誰が? 俺が!?」
「あん? 違ったか? この前そんな報告が来てたんだがなァ」
「あってるよ。私が申請しておいたから」
「なにやってんのさフォル婆!?」
「だってファースの半分はライ坊の土地だしぃ? 復興もいい感じに進んで、私が管理するのはめんどくさ……んっんん、大きすぎる規模になったから、正式に領主を決めなきゃなって思って決めちゃった」
テヘペロするフォル婆はまるで悪びれていない。クソが、若い状態だから普通に可愛いのがムカつく!
「ニャー?」
「あっセレネ、お前こんな所にいたのか! お前が全然見つからなかったせいで、なんか衝撃の事態が起こりまくってんだかんな!」
「ニャ……?」
それ私が悪いの……?と困惑するセレネ。
分かってるとも、今のは俺の八つ当たりだ。でもさ、セレネがすぐに見つかってたら、爺さんに拘束されることもなく、のんびりとモンスター討伐ができてたんだぜ? 文句の一つや二つ出ても仕方がないじゃんよ。
「あ、ちょっと待てよ! もしかしてこの爺さんがここに来たのって俺が領主になったからか!?」
「ハハハッ! 察しがいいな小僧。さすがにこの国に所属してない奴を騎士にするわけにもいかねェからな、いやァ本当に助かったぜ」
「フォル婆ァ!!」
やはりお前のせいか!とフォル婆を睨み付けると、さすがに申し訳ないと思ったのか目を反らされる。しかし、次の瞬間ボフンと音をたてて煙がフォル婆を包み込んだ。その煙が晴れたとき、そこに立っていたのはどう見ても幼女なフォル婆。そしてこう言い放った。
「フォルちっちゃいからそーいうむつかしいのよくわかんなーい」
「ぬがーっ! なーにがちっちゃいからわかんなーいだチクショウ!」
「話が終わったんなら行くぞ」
「待って! セレネ、一緒に来てくれ! いや来て下さいっ!」
予定は多少狂ったが、せめてセレネのイベントも同時進行で進めさせてもらうぜ!
「ニャー……?」
「そんな嫌そうな顔しないで頼むよ、な? これから行く所にはソフィアもいるんだ」
その一言がとどめとなり、セレネは踵を返して去っていく。
「しまった! ソフィアは構いすぎるから苦手だったか!」
迂闊! あまりにも迂闊! 余計なこと言わなければギリギリついて来てくれそうだったのに!
「セレネちゃん、ライ坊と一緒に行かないなら私達と女子会?ってやつにいきましょう」
「ニャ」
目を少し離したら元の美女モードに戻っているフォル婆。動物と神話級のお年寄りが参加する女子会とはいったい……。
「ちなみにそれ、他のメンバーは?」
「レーレイとウェネア、それからメルキアちゃんとアイシャちゃんね」
「うわー、想像してたよりやベーや」
アイシャさんはプレイヤーだからまだ分かるけど、メルキアは何をやらかしてこのメンバーとお茶することになったんだろう。チビッ子ダンジョンマスターの未来を憂いつつ、俺は目的地まで爺さんに担がれて行くのだった。




