迷走する少女
お子様ランチを作り終え、フィーネが持ってきた食材の下拵えを粗方終えた頃、ライト達がやって来た。あ、マロンもいるじゃん。
「ずいぶん遅かったな」
「わるいわるい、ちょっと寄り道しちまってさ」
「ああ、なるほどね」
どうやらショッピングモールに立ち寄っていたようだ。
俺が見届けることなく終わったオープン初日は、かなり混雑していてゆっくり見て回れなかったと言っていたし、目的地までの通り道にあるとなれば寄らない手はないだろう。
合宿でゲームにログインできていなかったリリィ、ルル、ライトの三人がほくほく顔なので、良いアイテムを買えたんだろうな。
反対に膨れっ面なのがティナである。狙ってたアイテムでも逃したんだろうか?
「よう、どうしたんだティナ?」
「……ズルいです」
「え?」
「皆さんだけ一緒に遊んでたなんてズルいです!」
「遊んでたって……ああ、合宿のことか? 学校の行事だししゃーないじゃん。俺らもまさかリアルで出会うとは思ってなかったし」
「むぅぅ、私も高校生だったら一緒に遊べたのに……」
本当に唐突だったとはいえ、いつものメンバーでオフ会してたみたいなものだし、ティナが羨ましいと思うのも分かる。でもそれならウォーヘッドも同じ立場だと思うんだが、そこんとこどうなんだろ?
「ウォーさんは社会人だから別です。子供の気持ちを失ってしまった大人には私の気持ちなんてわかりません」
「なんで俺ディスられてんの……?」
「体毛もじゃもじゃだからだろ」
「その装備作ったのはお前だろうが、ライリーフ!」
でも性能に屈して使ってるのはウォーヘッドだ、俺は悪くない。あれで装備した時の見た目さえ良ければ、俺の分も作っていたところなんだが……いやはや実に惜しい装備だった。
「なにキレてんだよ兄貴。あれ格好いいじゃんか」
「えっ、いや、そうか……?」
「え~っ? あれはないよマロンちゃん」
「んなことないって! 漢らしくていいじゃんか!」
なんと、あの装備に理解を示す者がいようとは……。
「てかウォーヘッド、この二人と一緒のパーティーであれ使ったのかよ? リアルなら事案だぜ?」
「うるさい、俺だって使うつもりはなかったんだよ! たまたま残弾が少ない時にレアボスがエンカウントして、たまたまそいつが物理ダメージ通りづらかったから仕方なく使っただけだ」
「あれはなかなかの強敵でしたよね。見た目はともかく、ウォーさんが水鉄砲使ってくれてなかったら、たぶん弾切れじゃなくても倒せなかったと思います」
「ふーん?」
残弾が少ない時にエンカウントしたって話だが、普通の装備でも使える方の銃だってかなり高スペックに仕上がっていた筈だ。そこらのボス程度なら、行動さえ分かっていればソロでも余裕で完封できるとウォーヘッドも太鼓判を押していた。それなのに水鉄砲を使わざるをえなかった程のボスとなると、相当奥のエリアまで進んだってことか。後で使わない素材売ってもらおっと。
「あ、そうだ! ライリーフさん、これ、靴、ありがとうございました!」
「ん? ああ、それ俺が作ったんだっけか。使い心地はどうよ?」
「可愛いし、付いてる能力もいい感じで使いやすいです」
災厄戦の報酬、他のメンバーには直接手渡ししたけど、あの時はティナだけ家族旅行だかなんだかでログインしてなかったんだったっけ。気に入ってくれてるようでよかった。
「……でも、思えばこの靴を直接受け取れなかったあの時から、イベントに一緒に参加できなくなった気がするんです」
「そうか? 基本ソロでうろうろしてる俺の方が、一緒に何かする機会は少ないとおもうぞ」
「でも! ライリーフさんは大きめのイベントには絶対いるじゃないですか! 自分からイベント主催もしてるし!」
ティナの言うほどイベントに参加してたっけ? あ、主催ってなると屋台とかも含まれてるのか。となると、グルメフェスにカード大会、後は厄災戦もか? たしかに大きめのイベントには顔出してる……てかほぼ主催者側だわ。カード大会とか二度とやりたくないけどな、準備の手間的に。
「それで、大きめのイベントに参加してないと、皆さんの私に対する印象が薄くなっちゃう気がするんです……」
「ええ? さすがにそれはないだろ」
「だから決めました、私は皆さんの妹キャラになるって!」
「ははは、突拍子もないな。でも俺は好きだぞ、そういうの」
パーティーの中で一番年下だからとか、そんな安易な理由だろう。しかし! お兄ちゃんとか呼んでもらえるなら安易でもいいじゃない!
「ふっ、それは無理」
「え? フィーネなんで……って、あー! またそんなに口の回り汚して! 綺麗に食べなきゃだめでしょ、もー!」
「んむむむ。ん、これが答え」
「え? なにが?」
「なるほどな」
フィーネがフライングで料理を食べはじめていることは、ひとまず置いておくとして。いくら年下であろうとも、お子様オーラで上をいく猛者がいてはそれも形無し。しっかり者タイプの妹も無しではないが、フィーネの世話を焼くティナの姿は妹と言うよりも母のそれ。かつての先人達が残した概念で言うところの、バブみこそが相応しいと言えるだろう。今までは分からなかったが、なかなかに趣深い。
「これからはママとお呼びしてもよろしいかな?」
「なんでですか!?」
「ママー」
「フィーネまで!?」
「てか、ガチ妹のアタシを差し置いて妹キャラは百年早いぜ!」




