合宿3日目 ~とある少女の苦悩~
――空港、とあるプライベートジェットにて――
「ミスター、今回の長期休暇はいかがでしたか?」
「もちろん楽しめたとも、とくに後半はね。知人が余ったからと寄越してきたVRのゲームで、素晴らしい出会いがあったのさ」
「おや、ではまた新たなスターが世に出ることに?」
「ノンノンノン、私はプライベートに仕事を持ち込んだりはしないよ。まあ、それも考えなかった訳ではないがね? 限られたコミュニティでこそ輝く才能というものもある、そう思い直して声は掛けなかったよ」
あくまでもゲームはゲーム、リアルとは違う。ついふざけていろいろと吹き込んでしまった結果、彼女が思わぬ掘り出し物に化けたとしてもだ。自分から進んでスターやアイドルを目指すような娘だったなら話は違ったろうが、当の本人がその道を望んでいないとあっては仕方がない。
しかしまあ、生真面目にファンの相手をし続けていた彼女の姿。どうしてこうなった、と頭を抱えながらも偶像を演じ続けていた姿を思い返すと、自然に頬が緩んでしまう。
「グッドラック、ヒメチャン。君の冒険をもっと近くで眺めていたかったよ」
――side???――
「……くしゅん」
「ん? 委員長、風邪でもひいた?」
「んーん。今のはたぶん誰かに噂された感じ」
「そんなの分かるのか。スゲーな」
私、雪村小姫は、現在ちょっとした苦行に耐えている。
学校の行事でやって来た合宿。三日目の今日は、たまたま同じ日に宿泊施設を使っていた女子高との交流学習をしている。うん、それはいい。いいんだけど、何故か同じ班になったメンバーが、私を除いて全員同じゲームの知り合いってどういうこと?
まあ、女子高側のメンバーも三人ともいい人だったし、極力ゲームの話題を出さないようにしてくれているのもありがたい。
ただ……ただ違うんです。本当に辛いのは、そのゲームを私もやってるのに、ゲーム内の私のキャラがアレなせいで話題に混ざれないこと! 話せばほぼ確実にゲーム内で会う流れができかねないこの状況、絶対にバレる訳にはいかない!
「いやー。にしてもさ、こういう自然に囲まれた場所歩いてるとさ、ちょっとワクワクしない?」
「分かるぜ悠。採取アイテムとか自然に探しちゃうよな!」
「ん。モンスターも」
「こういうのをゲーム脳って言うんすかね?」
「ゲームの話は無しって決めたでしょ! ごめんなさいね、委員長さん」
「いえ。あと委員長はやめてください」
見知らぬ山道とか新しいアイテムゲットできるかもって? くっそ分かるわ、その気持ち。ただし話題に混ざれずにフラストレーションを貯めてる私を前にこの会話を始めた稲葉君は許さん。
はぁ……仮に、そう仮に女子高側の三人に知られるだけならまだ構わない。けどうちの学校から一緒の班になった二人には、死んでも知られたくない。
稲葉悠二と赤木光介。この二人は中学からの付き合いで、定期的に委員長ネタで絡んでくる。そんな二人に新鮮なネタを提供してなるものか! まあそもそもの話、私が普通にゲームをプレイしていたなら会話に混ざれた筈なんだけど……。
いったいどこで道を踏み外してしまったのだろう。 戦闘力皆無なキャラクターでゲームをスタートしてしまった辺り? それとも胡散臭いおじさんをつい助けてしまったところ? いいえ、やっぱり一番はその胡散臭いおじさんの口車に載せられて、気がついたらそこそこ有名なプレイヤーになってしまっていたことだろう。過去に戻れるなら、自分をおもいっきりぶん殴って正気に戻したい。と、思いもしたけど、あのときの私は間違いなく正気だったので意味がない。
「くっ、あの胡散臭いおじさんに変なカリスマさえなければ……!」
「胡散臭いのにカリスマなおじさんって何さ?」
「独り言だから聞き流して……」
「いや、めっちゃ気になるんだけど。胡散臭いおじさんがどんなカリスマ的スキルもってるん? 教えてくれよ委員長……知りたすぎて今夜眠れなくなるじゃんか!」
「メジェド様に寝かしつけてもらえばいいでしょ!」
「おいおい、うちのメジェド様の光は結構眩しいんだぞ? よけいに寝れなくなるわ!」
あのおじさんについて口頭で説明するのは難しい。そして説明すると必然的にスプルドの話題に繋がってしまうので、なんとか稲葉君の興味を他に向けないと!
「そ、そもそもメジェド様って何なの?」
「え、委員長知らないのか? あのエジプト神話一のゆるキャラを」
「はい! あたしも知らないっす!」
「ん。私も」
「マジかよ……どうりで誰からも欲しがられなかった訳だぜ。光介、メジェド様について詳しく説明してあげなさい」
「えっ、俺が!? えー、あのー、頭からシーツ被ったみたいな見た目の神様だぜ!」
「バカ野郎! そんな雑な説明でメジェド様の魅力が伝わるかッ! もっと他にあるだろ? 目からビーム出せるとか、主食が人間の心臓とかさぁ!」
「全然ゆるキャラじゃないじゃないっすか!」
「ゆるキャラなのは見た目だけだものね、メジェド様……」
メジェド様のおかげで、おじさんのことから稲葉君の意識がそれたのは思惑どうりだけど、本当にメジェド様ってなんなんだろう。
本日は書籍版の発売日です!
皆さんお買い上げくださいましたでしょうか?
特集ページなんかも作っていただけていたりするので、詳しくは作者の活動報告を覗いてみてください。
本屋に行ったり、ネット通販が面倒だって人は、電子書籍としても販売しているのでそちらをどうぞ♪
おまけ
・胡散臭いおじさんについて
プレイヤーネーム『怪しくナイヨー』
「ワタシ、怪しくナイヨー」と言いながら近づいて来る。怪しい。
「本当に怪しくナイヨー。本当ダヨー」と言って迫ってくる。とても怪しい。
実際はゲームの進め方が分からなくなり、他のプレイヤーにやり方を訪ねているだけなのだが、見た目と表情と言動で怪しまれてしまった悲しきおじさん。
プレイヤーネームからして狙ってるだろとツッコミを受けるとニヤリと意味ありげに笑う。物凄く怪しい。
本業は世界をまたにかけるカリスマプロデューサー。彼の手掛けたスター達のもたらす経済効果は、数百兆ドルはくだらないと言われている。
委員長のゲーム内での記録を捏造した結果産み出されたキャラ。
今後本編に関わりそうにないけどやたらキャラが濃くて執筆の邪魔をしてくるため、無理やり登場させて供養することにした。
投稿が遅れた原因の一つ。




