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合宿3日目

 昨日は達成感と共に一日を終えられると思ったんだが、そんなことはなかった。

 説教からは早めに解放されたものの、その後先生方との入浴という地獄がまっていたのだ。

 俺達が先生の背中を流し、先生が俺達の背中を流す絵面の酷さよ。その場にいた誰もが無言で湯に浸かり、どうしてこうなった、と渋い顔をしていた。そして遅れて入ってきた鬼導先生の雄大すぎる姿に、男として圧倒的な敗北感を感じるはめに。

 そんな精神的ダメージを受けたおかげか、一日目の夜とは違ってちゃんと眠れたのが救いである。悪夢にうなされなくて本当によかったぜ。

 そんなこんなで始まった合宿三日目。午前中は昨日までと同じく、問題集やプリントを解くことに費やされた。

 昼食は対重石君用に昨日の夕食から仕込みを続けた豪華なものとなっており、これには皆驚いていたな。調理作業を担当した施設のスタッフ達が、さも戦場帰りかのような風格を漂わせながら整列していて、挑戦的な目で重石君を迎え入れたのだ。その三十分後には重石君に蹂躙される料理を見て膝から崩れ落ちていたが、かっこよかったぞ。

 そして食後、何故か俺達はジャージに着替えさせられて、施設の外に並ばされていた。


「生徒諸君。初日に説明したように、お楽しみの時間だ!」

「何やるんですかー?」

「それはまだ秘密だ。まずはクジを引いて、書かれている番号の班で集まってくれ」


 先頭の生徒に箱が渡され、順番にクジを引いていく。

 俺が引いたクジの番号は32、ずいぶん細かく分けるな。


「32の人いるー?」

「なんだ、悠と一緒か」

「ここでも光介と同じ班か……いや、気は楽でいいんだけどさぁ」


 たまには別々にならないものだろうか。


「他は誰だろうな?」

「あっちで47とか言ってるし、番号の数から考えてあと一人くらいだよな」

「私よ」

「お前は!」

「委員長!」

「みたところ他はクラスも結構バラけてるのに、私達だけ同じクラスで固まっちゃったわね」

「目新しさがないな」

「だな」


 同じクラスどころか、同じ中学出身でもある。しかも全員ずっと同じクラス。これから何をするにせよ、対戦形式のものであればチームワーク的には頭一つ抜けているんじゃないかな?


「勝とうぜ」

「ああ、俺達ならやれるさ!」

「脈絡もなく変な方向に持っていくのやめてくれる?」

「その通りだ委員長、あんたが勝利の鍵だぜ!」

「サポートは俺達に任せてくれよな!」

「勝ち負け以前にまだなにするのかもきいてないでしょうが」


 くっ、突然の寸劇にもドライな反応しやがるじゃねーの。やっぱり中学時代に見慣れてるせいか、心地好いツッコミが返ってこない。せめてもう少しだけ勢いを足してくれたなら……いや、それは贅沢か。戸惑ったり無視されたりしないだけでも十分だろう。


「班ごとに分かれたな? それじゃ班の中から代表して一名、こっちのクジを引きに来てくれ」


 またクジ引きか。いったい何をするつもりなんだろうか?


「誰が行く?」

「委員長でいいんじゃね?」

「だな。委員長よろしく」

「別にいいけど……」


 今度のクジはA、B、Cの三種類。委員長が引いてきたのはCだった。


「よし、全班引き終わったな? ではAを引いた班は鬼導先生に、Bを引いた班は根倉先生に従って移動するように。Cを引いた班はこのまま待機だ」


 Aを引いた班は施設の中に入って行き、Bを引いた班がむかったのは……昨日カレー作った調理場か? ますます何をするのか分からなくなってきた。


「……さて、そろそろ何をするか説明しなくてはならないか。皆、心して聞くように。とくに男子!」


 そりゃ女子と比べて不真面目な奴は多いけど、これから何をするのか一切分からない状態で説明聞かない奴はいないと思うんだが……何故に説明が始まる前から釘さされなきゃならないんだ?


「いいか? 絶対さわぐなよ? 絶対だからな?」

「そんな言われなくても騒がねーよ!」

「俺達をなんだと思ってやがる!」

「そうか……ではこれから行う事の説明に入ろう。まず、当初予定していたレクリエーションからは大きく内容を変更することになった」

「そもそも元の内容すら知らねーって」

「そうだったな。元の内容は学食の一ヶ月無料券を賭けた、クラス対抗サバイバルゲームだったんだが――」


 学食無料券だと!? それも一ヶ月無料! 何故変更になったし!


「我々と同じく合宿に来ていた蝶望蘭茉(ちょうもうらんま)さんからの提案で、交流学習をすることになりました」


 シーンと静まり返る俺達。しかしそれは嵐の前の静けさである。

蝶望蘭茉さんとは、つまり女子高のこと。その事を脳が正しく認識した瞬間、野郎共は勝利の雄叫びを上げたのだ。


「「「「うおおおおお!!」」」」

「ええい、うるさい! 騒ぐなと言ったろうが!」


 昨日、覗き未遂の結果一足早く女子高の生徒を見ることができた俺だから断言しよう。雄叫びを上げるお前達は正しい! 何故ならば、蝶望蘭茉は女子のレベルが非常に高かったから! テンション上げるなって方が無理な話よ!


「ひとまず落ち着け! これ以上騒ぐなら交流学習は中止だぞ!」

「「「「「……」」」」」


 男子全員がキリッとした顔で黙る。そうなると、聞こえてくるのは女子達のヒソヒソ声の罵倒である。


「テメーら男子校にいるわけでもないのにテンション上げすぎだろうが」

「チッ、猿が」

「ふ、ふへへ……女子高、揉みごたえのあるおっぱいの群れ……」


 最後の、男子以上に欲望に忠実な呟きはエロメガネ先輩か。本当にぶれない人だな。


「おっ。来たみたいだぜ、悠」

「あ~、よきですな~」


 こっちが風下なので、心なしかいい香りがする気がする。

 やはり野郎が混じっていない女子100%の絵面は華やかで良い。そんな心持ちで眺めていると、昨日のちびっ子が目に入った。


「三ヵ所の中からここに来てくれるとは運がいい」

「何、悠? 知り合いでもいたのか?」

「あのはしっこにいるちっちゃい子さ、なんか俺のプレイヤーネーム知ってたんだわ」

「えっ、マジで? てかいつの間に抜け駆けして接触してやがった!」

「昨日ちょっとな」


 蝶望蘭茉の生徒も揃ったことで、より詳しい説明が始まった。俺達Cグループのレクリエーションは、施設の裏山のハイキングとのこと。コースがいくつもあり、チェックポイントに設置された問題を解いてまわる。正解数上位のグループには賞品が貰えるらしい。

 先生からの説明も終わり、クジの番号に従って南無三(うち)蝶望蘭茉(あっち)の合同の班を作ることに。


「32は……お?」

「よっ」

「おう、昨日ぶり」


 なんたる偶然、ちびっ子と同じ班になろうとは。これはなんで俺のプレイヤーネームを知ってたのか知るチャンス! と言うか他の二人も、なんか見覚えあるような……。


「あ! 昨日正座させられてた人じゃないっすか!」

「ん? んん~? 何故かしら、すごく見覚えのある顔のような気がするんだけど……」

「あ、そっちも?」

「ぷっ、あはははは! そりゃ悠のキャラネーム知ってる訳だわ!」


 光介が腹を抱えて笑っている。まさか、そういうことであってるのか……? 偶然にしてもやりすぎだろ!


「ん。改めてよろしく、ライ」

「お前フィーネかよ! んでもってそっちはリリィとルルだな!?」

「うぇ!? ライ!? てことはこっちはライトっすか!」

「おうよ!」

「まさかこんな形で会うことになるとは思わなかったわね」


 突発的に発生したオフ会空間。しかし忘れてはいけない、ここにはもう一人メンバーがいることを!


「疎外感がすごい……」

「あ、委員長すまん」

圧倒的ご都合主義ッ!



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