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合宿1日目

 女子高の生徒も同じ宿泊施設を使う!そこにはきっと新たな出会いとロマンスが!とテンションを上げていた俺達を待ちうけていたのは、無慈悲な別棟宣告だった。


「ちくしょう!救いはないのか!?」

「残り香を嗅ぐことすらゆるされんとは……!」

「俺達はこれから三日間何を楽しみに生きていけばいいんだ……」

「がっかりしすぎて食欲なくなったわ。弁当たったの三つしか喉を通らねぇ」

「めっちゃ食っとるやんけ」


 俺達南無三高校は東館、そして蝶望藍茉……これなんて読むんだ?とりあえず、このなんちゃら女子高の人達は西館に宿泊することになっている。野郎共の嘆きもわからなくはないが、君ら忘れてない?俺ら普通に共学なんだぜ?そんなあからさまに落ち込んでみせるのは、うちの学校の女子からの好感度を失うことになる。


「ケッ、これだからうちの野郎共は……」

「あたしらは女子じゃねーってか?あ?」

「うぐ、ひっぐ……新たなおにゃのこと出会えるとおもったのに……!」

「ひょわぁ!ちょっ、泣きながら胸揉むのやめてくれる!?」


 ほれみろ。若干一名野郎共と同じメンタルしてる変態がいるが、軒並み好感度だだ下がりだ。


「コラお前達、騒いでないでさっさと席に着け」


 呆れ顔で注意をしつつ、先生がプリントを配る。問題集って訳ではなく、どうやら3日間のスケジュールが書かれた物のようだ。


「うげっ、わかっちゃいたけど勉強ばっかだな」

「夕飯食った後にテスト!?勘弁してくれよー!」

「自由時間少なくね?」


 室内のそこかしこから不満の声が上がるも教師陣はまるで意に介さない。既に決定されたこのスケジュールから、追加で自由時間をもぎ取るのは難しい。下手に行動を起こせば逆に自由時間を削られ勉強の時間に変えられかねない。


「不満なのはわかるがきちんとやれよ?その分ちゃんとお楽しみも用意してあるからな」


 お楽しみねぇ?

 どれだけ聞いても先生方は内容を教えてくれなかったが、どうせ最終日辺りにバーベキューやるとかありきたりな物だろうし、それでやる気出せってのは俺達のことを安く見すぎだ。なにより重石君がいる関係上、飯関連では学校側が用意した食材の量で満足出来ないことが確定している。俺達を満足させたくばその三倍は持ってこいってやつだ、主に肉をな!

 お楽しみとやらの内容を想像しながら机に向かい続けたが、やっぱりそれだけでは無理がある。ものの二、三十分で俺の集中力は途切れた。関係ないこと想像しながらだからはなから集中できてないとか言ってくれるなよ?これでもノートは完璧にとってあるから。

 場所は変われどやってることはいつもの授業とそう変わらない。せっかくの合宿だってのに、なんかもったいない気がする。もっと遊び心に溢れる授業をしてくれたっていいんだぜ?





 何事もなく合宿1日目が終わろうとしている。強いて印象に残ったことを上げるとするなら夕食のバイキングが美味かったくらいか。それもその後に待ち受けていたテストのせいでテンションだだ下がりだけどな。

 なんちゃら女子高の生徒とも接触できなかったし、マジでつまらん合宿だぜ。


「そろそろ風呂の時間か……光介、風呂場ってどこだっけ?」

「本館の一階って言ってた気がする」

「わざわざ別の棟まで移動しなきゃいけないのか。めんどくせー」

「ふふん、わかってないな稲葉。移動するからいいんじゃないか」


 話掛けてきたのは同じ部屋になったクラスメイトの寺田だ。いったい移動することのどこがいいと言うのか。


「わからないって顔してるね」

「うん」

「風呂場が本館にしかないってことは、つまり西館に宿泊している場合でも本館を利用するってことだろ?」

「そりゃそうだわな」


 だからなんだって感じだが……。


「そ、そう言うことか!」

「そりゃワンチャンあるかもしれねーな!」

「え?何が?」


 会話を聞いていた同じ部屋の他二名は何かに気がついたようで鼻息が荒くなる。今のワードのどこにそんなテンション上がる要素が?


「悠、西館には今どんな連中が泊まってる?」

「んだよ、光介も今ので何か分かったのか?西館に今泊まってるのは……っ!?」

「どうやら答えにたどり着いたようだね」


 そう、そうだよ!西館には今なんちゃら女子高の連中が泊まっている!そして彼女達も風呂を利用する際は本館に顔を出すしかない。それはつまりタイミングさえ合えば、彼女達と接触が可能と言うこと。

 はっはー!そりゃ後藤も渡仲も鼻息が荒くなる筈だぜ!


「寺田……移動があるって最高だな!」

「さあ行こう皆、桃源郷はすぐそこにある!」

「おうよ!」

「くーぅ!緊張してきたぜ!」

「チラ見できるかもしれないだけで緊張すんなし」


 俺達は笑い合いながら風呂場へと向かう。その歩みに迷いはなく、勉強漬けの疲れを一切感じさせない力強い歩みだった。そして――


「……」

「……」

「……」


 男達は無言で湯船に浸かっている。その表情は先程までの力強さが嘘だったかのように疲れきっていた。


「……入浴時間、掠りもしてなかったな」

「……そだね」

「はぁ……」


 期待に胸を膨らませていた分、ダメージは大きくなる。今の男湯は敗残兵のような雰囲気を醸し出す者達が溢れている。

 俺達は、今朝の一件から何も学んでいなかった。

クラスのイカれたメンバー(一部)を紹介するぜ!


重石(おもいし) 大尊(だいそん)

身長二メートル、体重180キロの巨漢。

エベレストにでも登るの?って量の荷物を担いで合宿に参加。中身は九割九分が弁当である。(未来の技術で常温放置しても弁当の中身は一週間は傷まないぞ!)

合宿1日目終了時点で弁当は残り半分まで減ってしまった。食欲無いとか嘘じゃん。


根本(ねもと) (かなで)

女子にセクハラすることを生き甲斐にしている変態。通称エロメガネ先輩。

別に百合でもなければダブりでもない。


寺田(てらだ) 真吾(しんご)

高いIQを持つと噂されている男。

英検、漢検、珠算三級の実力者。

……割りと普通では?


後藤(ごとう) (まこと)

主人公と同じ部屋になったメンバーの一人。

ひょろい見た目に惑わされるな!こいつはリンゴを片手で握り潰せるぞ!


渡仲(となか) (りく)

主人公と同じ部屋になったメンバーの一人。

産まれてから今までの人生で、一度もじゃんけんに勝ったことがない。

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