畑のポテトと渚のガンマン
ポテトの群れとウォーヘッドが交戦を開始してから20分が経過した。
レベル40のモンスターの群れは弱点属性である火の弾丸を受けてなお仲間の死体を踏み越えてウォーヘッドに迫り来る。
「苦戦してるなウォーヘッド」
「話掛けるなライリーフ! 無駄口叩いてる余裕なんざねーんだよォ! だークソッ、銃のMPが尽きやがった!?」
本命の装備を渡そうと話しかけるも、必死の形相でポテトを撃退し続けるウォーヘッドは聞く耳を持たない。この戦闘に勝てば数百万も値切れる訳だし当然の反応か……。
だがそれも想定内だ。それを見越してとあるスキルを装備作成の片手間に習得した。と言うか装備作るよりも大変だった気もする。
クインティアから普段の二丁拳銃に持ち変え奮闘し続けるウォーヘッドを尻目に俺は声の調子を整える。
「んっんん……あー、あー。もう少し低い方がいいか? あー、あー、よし」
俺が新たに習得したスキル、変声はある程度自由に声を変えることができるスキルだ。スキルレベルが上昇すればその自由度は更に増し、異性の声であっても自在に再現できるのだとか。
おっと、スキルの説明をしている間にウォーヘッドが追い詰められているじゃないか。そろそろ考える余裕もなくなってくる頃合いだ、悪魔が契約を持ちかけるには絶好のタイミングだろう。
「力が……力が欲しいか……?」
「あァ!? くれるってんなら貰ってやるよ!」
「その言葉……後悔するなよ」
よし、思ってた以上に簡単に頷いてくれた! これでウォーヘッドの装備に干渉できる!
「フハハハハ、受け取れウォーヘッド! お前が承認したことで、この装備は俺の手から離れ世に出る事と相成った! 強制☆変身ッ!」
「おおおお!?」
強制☆変身、それは以前ダンジョンでアルバスに仕掛けた手品を使った装備の交換を更に進化させ、俺の持っている装備を相手に送り付けることで実現した禁断の技!
安心してほしい。アイテムのやり取りが発生する関係上、送り付ける相手の承認が必要だから悪用は出来ない。
それにしても……。
「……なん、はぁぁぁあ!?」
「ネタ装備のつもりだったのに予想外に似合ってるじゃないかウォーヘッド! 今あんた最高に輝いてるよ!」
きっとビーチの視線を独占できるぞ!
ちなみに渡した装備はこんな感じね。
アイテム
ハイドロスプラッシャー PM
ATK200 耐久値2200/2200 MP25000/25000
圧縮水冷弾
要求ステータス:STR400 DEX500
おそらく世界で最も凶悪な水鉄砲
巨大な純魔結晶を内蔵しているため長時間の戦闘でも弾切れの心配はほぼ必要ない
フルオートで弾丸をばら蒔くアサルトモード、超射程を実現したスナイプモードの二種類を手元のレバーで切り替えることができる
銃本体に少量のオリハルコンが練り込まれているため鈍器としても使用可能
紳士の一張羅・ブラックブーメラン PM
DEF350 耐久値1200/1200
AGI+50 MND+100 LUK+20
視線誘導 魅了・小
※男性専用装備
紳士の愛用する水着
黒きトライアングルは海辺の視線を独占すること間違い無し!
適度な締め付けが空気抵抗を軽減し素早い動きを可能にする
魅惑のギャランドゥ PM
DEF500 耐久値1600/1600
STR+200 MND+40
物理ダメージ軽減・中
※男性専用装備
男らしさを彩る大胆な一品
まるで地肌から生えているかのような自然な着け心地
ワイルド&セクシーな魅力をあなたに
至高のビーチサンダル PM
DEF50 耐久値800/800
AGI+240
水面歩行 地形影響軽減・大
あらゆる地形に対応したビーチサンダル
短時間であればマグマ上でも走り回れるぞ!
狙撃手のサングラス ★★★
DEF20 耐久値500/500
DEX+20
視力強化・小
シックなデザインのサングラス
光から目を保護するだけでなく視力も強化してくれる
アロハマント ★★
DEF10 耐久値220/220
一見するとアロハシャツのように見えるマント
袖は通せるがボタンは存在しない
後半の手抜きっぷりには目を瞑ってほしい。集中力がもたなかったってのもあるけど、さすがに良い素材が足りなかったんだ。錬成の上位変換で揃えるって手も時間が足りなくて使えなかった。
それはさておきこの装備の威力を見せてもらおうか!
「さあ渚の変……怪人ウォーヘッドよ、敵を蹴散らせぇい!」
「誰が怪人だ! てか今変人って言いかけたろ!?」
「細かいことは気にするな! ゲームは楽しんでなんぼだろ?」
「そりゃそうだが、くっポテトが……!」
襲い来るポテト達の前にウォーヘッドは会話を中断し応戦せざるを得なかった。ポテト達は植物型モンスターなので水属性のダメージは半減する。半減するのだが……。
ドッドッドッ!
「な、なんて火力してんだこの水鉄砲……たったの三発でスマッシュポテトがくたばったぞ!?」
「作っといてなんだが、俺もドン引きですわ」
硬い筈のポテトに穴が空いただと……? PM装備とは言え威力高過ぎじゃね?
「これなら5分と掛からず一掃できる……けど見た目が激しく腑に落ちねぇ!」
「畑で水着だもんな。アホじゃね?」
「お前が着せたんだろうが!」
こんなやりとりをしていてもポテト達はみるみるうちに減って行く。地面に潜んでいたソラ忍達も焦って飛び出てくるが、ウォーヘッドに近づく暇もなく蜂の巣にされている。
「こいつで、最後!」
「お~、まさか本当に5分で一掃するとはな。よくやった渚の変じ……怪人ウォーヘッドよ」
「だから誰が変人だコラ。にしてもとんでもない装備を作ったもんだなライリーフ」
「まあな。あ、もうちょい顎引いて腰に手を当ててみようか」
「ん? ああ……って何故撮影する!?」
「ライト達にも見せてやろうかと」
「わざわざ見せんでいい!」
「え? あー、そうだよな。これからも使うんだしわざわざスクショすることなかったか」
「は……?」
「それ、遅れたけど厄災戦の報酬ね。装備一式」
「……はぁ!? 見た目はアレだけどPM装備4つもか!?」
うんうん。そう、アレな見た目だからこそ渡すのだ。それにウォーヘッドのステータスじゃハイドロスプラッシャーだけ渡しても装備出来ないからな!
装備する為には最低でもギャランドゥを装備しなければならない。そしてギャランドゥはあの見た目でアクセサリーではなく体装備、必然的に半裸にならざるを得ない恐ろしい装備なのだ!
「そして半裸になるならブーメランな水着でも気にならない筈!」
「気になるわ! 何をどう納得したのか知らねぇがどうしてそうなる!」
「おやぁ……? あの火力を体感しておいて今さら元の装備に戻れるんですかい?」
「ぬ、ぐっ、それは……」
「水鉄砲以外も見た目に目を瞑ればステータスをかなり底上げしてくれる物ばかり。使わない手はないでしょうよ!」
「ぐ、ぎぎ……この外道がァ!」
この日より、ウォーヘッドの知名度は飛躍的に上昇した。




