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畑の異変

「では最後に、来週は月曜から3日間の林間合宿だ。しっかり荷物の準備をして遅刻しないように」

「「「「え~……」」」」


 帰りのホームルームで告げられた行事に、俺達のテンションは下がった。

 そう言えば去年もこの時期に二年の先輩達がいなくなったような記憶がうっすらあるが、まさか合宿をさせられていたなんてな。

 先生がこの時期に合宿をやる理由を説明してくれたが、ゴールデンウィークなんて長い休みで遊んだ分勉強に集中しろってことらしい。二年だけなのは中弛みの時期だからだとさ。


「めんどいなー」

「おれバックレよっかな」

「檜山、その場合は夏休みまで毎日放課後が補習で潰れることになるぞ。それでもいいならサボればいいさ」

「げっ、マジかよ!?」

「まあそう言う訳だ、真面目に合宿に参加するんだな。それじゃこれでホームルームは終了だ。なるべく寄り道せずに帰れよー」


 家に帰ったら忘れない内に荷物の準備をしないとな。持っていくのはジャージと筆記用具と3日分の着替えって所か。後は適当に夜中に遊べるものでも用意するべき……いや、他の連中が持ってくるだろうしいいか。

 そんなことを考えながら帰りの支度をしていると光介が話かけてきた。


「合宿かー。3日間もスプルド出来ないのは辛いよなー」

「たしか今は獣王国でクエストこなしてるんだっけか?」

「そーそー。国を跨いで転移門を使えるようにする為のクエストなんだけど結構ハードでさ。土日で終わらせて来週はファースに戻ろうと思ったんだけどなぁ……」

「何でファース? 別に戻ってくる必要ないだろ」

「いやいやあるって! 今回はフィーネがどうしても獣王国で話題の鳥スープが食べたいって言うから付き合ってついていったんだけどさ、ぶっちゃけ出入り自由な悠のホームを拠点にして深いエリア探索した方が儲かるんだよね!」

「ぶっちゃけたなー。まあ別に構わないけど」


 ブラウニーさんが1日で建ててくれた立派過ぎる家は1人で使うには広すぎる。後々他のプレイヤーの誰かがクランシステムを解放してくれた時に、光介……ライト達とクランを作ってクランハウスにでもするのが妥当だろう。てかまだ俺もあの家の中を覗いてすらいないんだけどね!


「あっそうだ、鳥スープの店の鳥達も悠の知り合いなんだろ?」

「その鳥って自分を鍋で煮てたりする?」

「ああ、自分を煮込んでる」

「確実に知り合いだわ」


 あいつらもやるもんだな。巣だってからそんなに時間は経っていないのに話題になるような店を出すなんて……うん、まあ、インパクトはあるもんな。主にビジュアル的に。


「スープ美味かった?」

「おう、めちゃくちゃ美味かったぜ! 鍋で煮込まれてる鳥が自分でスープを器によそってるのを見た時はドン引きしたけどな!」

「シュールな光景だもんなー」


 煮込まれながら真剣な表情でスープの味をみる鳥、今思い出しても不思議な光景だ。どうして俺はあんな摩訶不思議な生態系をした鳥を生み出してしまったのだろうか……。鳥ガーハッピーとは比べるまでもなく安全だからいいんだけどさ。


「でな、その鳥達がシフォンさんにテイムされてたんだよ。私達で師匠を越える!とか言ってさ」

「へぇシフォンが……って俺、別にシフォンの師匠じゃないんだけど?」

「師匠呼びなのは鳥達のが移ったんじゃね?」

「だとしてもなぁ……たぶんスキルレベル関係なかったらシフォンの方が料理上手そうなのに師匠って呼ばれるのはなぁ……」


 俺と違ってお菓子作りも上手いだろうし、そうでなくとも腕前は姉さんと同じかそれ以上だろう。そんな人から師匠なんて呼ばれるのはちょっと居心地が悪いし、再会した時に師匠呼びしてきたら止めるようにお願いせねば……。







 それから暫く教室で雑談してから家路についた。途中でスプルドを持ってる他のクラスメイトも会話に混ざってきたんだが、よくよく考えればあいつらはあの高いVRマシーンの本体を買ったんだよな。俺は運良く懸賞でゲット出来たからいいけど、きっと辛く厳しい生活だったのだろう。買い食いする友人を尻目に涎を垂らし、発売された漫画や小説の新刊も我慢し娯楽を断つ日々……想像するだけで恐ろしいぜ。タダで本体とソフトを手に入れたなんて奴らに知られた日には吊るされかねん、秘匿せねば。


「ただいま~。ん?」


 なんかすごく食欲をそそるいい匂いがする。母さんはまだ帰って来てないし、姉さんが料理してるのかな? なんにせよ今日はいつもより長めにゲームができそうだ。俺は自分の部屋に入ると帰りにコンビニに寄って買ったコーラで軽く水分補給を済ませ、さっそくゲームにログインした。


(あ、旦那! 起きたんですね)

「よおノクティス。何か用か?」

(はい。実はブラウニーさんから伝言を頼まれてやして)

「ブラウニーさんが?」

(なんでも最近畑の芋が収穫出来なくなったみたいでしてね、旦那にどうにかしてほしいみたいなんでさぁ)

「畑か……」


 畑は結構前にチキンランナーの牧場と一緒に作った物だ。牧場も畑も管理は暇をもて余した町の老人達がやっているので俺はあまり見に行くことはないんだが、ちょうどいい機会だし確認にすることにした。


「ノクティス、ラクスとはもう会ったか?」

(ええ会いやしたよ。ルクスを見た時も思いやしたが、同じ鳥ガーハッピーでこうも見た目が変わるものかと驚きやしたぜ)

「だよなー。ルクスは羽の色が派手なだけだからまだ分からなくもないけど、ラクスはほとんど鳥の形をした水晶だもんな。そう言えばラクスはルクスに襲いかかったりはしてないだろうな……?」

(別にしてやせんぜ?)

「そっか、それならよかったよ。ラクスはキラキラした物を集めたり食べたりするのが好きみたいだったからさ」


 そんな話をしているとラクスとルクスもやって来た。


(ルクスの羽は好みの対象外ですマスター。下品な黄金より神秘的な宝石の輝きを私は好みます)

(ラクス! それは我が下品だと言いたいのか!)

(え? その成金趣味で上品なつもりだったのですか? 一度じっくり鏡に映る自身の姿を観察してみては?)

(ぐぬぅ、言わせておけば! そう言う貴様はどうなのだ!)

(キラキラしていて素晴らしかったです。とても美味しそうでした)

(そ、そうか……)

「仲良くじゃれてるみたいだな」

(ま、あっしらは兄弟ですからね。っと、そろそろ問題の畑に到着ですぜ)

「どれどれ……これは!?」


 まさか畑がこんなことになっているなんて……。これは早急に解決しなければならないが、これでは俺は物理的に手出しすることが出来ない。

 この問題の解決には他のプレイヤーを頼るのが一番だな。ウォーヘッドがログインしてきたら頼んで……いや、いいことを思いついた。さっそく作業に取り掛からねば!

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