名前被り?
恐らくこれが今年最後の投稿になると思います。
読者の皆様、良いお年を!
「見つけたぞエイルターナー!」
「見つけたわよエイルターナー!」
そう言ってズカズカと此方へ向かってくる男女。どちらの顔にも見覚えはないんだけど何の用だ? なんか怒ってる感じだしかかわり合いになりたくないんだけど。
「何か用か?」
「何か用かだとこの野郎!」
「あんたのせいでクエスト失敗しちゃったじゃないの! せっかくレアモンスターと戦うチャンスだったのに!」
「はぁ……?」
レアモンスターなんてまるで覚えがないぞ。あ、ファースからこっちに移動した時に出くわしたゴリラの事か? んー、でもあいつはレアモンスターじゃなくてネームドモンスターだったし違うよな。
「二人共待ってよ~」
「いきなり失礼だってば」
追加でまた男女二人がやって来た。どうやらイチャモンつけてきた奴等と四人でパーティを組んでいるらしい。先に来た二人を宥めようとしてくれているのは有難いのだが、どちらも気が弱いみたいでストッパーとしての役割を果たせていない。もっとグイグイ行こうぜお二人さん!
「止めてくれるな相棒。男にはビシッと言わなきゃならねー時があるんだよ!」
「エイルも文句の一つくらいいってやりなさい! クエスト見つけたのはエイルなんだから!」
「えっと、私は別に……」
「二人共落ち着こ? こんな所で騒いだら迷惑だよ」
「そうだぞ、ギルドで騒ぐと摘まみ出されるんだ。大人しくしろよな?」
受付のお姉さんが本気を出せば大の男を四人まとめて放り投げる事が出来るってことは、以前チンピラ冒険者に絡まれた時に不本意ながら体験したから知っている。
「騒ぎの原因のあんたが言わないでくれる!?」
「原因て言われてもなぁ……こっちは何の事かさっぱりだし」
「なんにせよまずは移動しようや。マロン、お前は先にログアウトしていいぞ」
「なんでだよ兄貴? 喧嘩ならアタシも混ぜろし!」
「そんなだから先に寝てろって言ってんだよ!」
ごねるマロンをなんとか宥めて四人組と俺とウォーヘッドは人通りの少ない路地裏へと移動した。俺が何を言っても聞いてもらえそうにないので司会進行はウォーヘッドだ。
「それじゃ改めて詳しい話を聞かせてもらおうか?」
「「だからそこのエイルターナーが!」」
「おーっと、頭に血が上ってるお二人さんはお口にチャックしておきな。大人しそうなそっちの二人、なんでそこの二人がライリーフにキレてるのか説明してくれや」
「は、はい……」
「えっと、その……」
若干しどろもどろになりながら二人が語った内容は以下の通りだ。
この四人はパーティを組んでいて、エイルと言う大人しい方の女性プレイヤーがレアモンスターが出現するクエストを発見した。そこで当然四人でそのモンスターを倒しに向かったのだがモンスターは既に何者かによって倒された後で、クエストを依頼していたNPCの話によるとフード付きのマントを羽織った男が倒したらしい。その人物にNPCはお礼をしようとしたが不要と断られ、せめて名前だけでも教えてほしいと頼んだところ「エイルターナーだ」と言って去って行った。討伐目標のモンスターが倒されていたせいでクエストは失敗扱いになりモヤモヤした気分で次のクエストを受けにギルドに戻って来たらエイルターナーのプレイヤーネームが目に入り二人が飛び出して行った、と……。
「成る程な。どうだライリーフ? 何か心当たりはあるか?」
「うん、むっちゃあるわ」
「「やっぱり!!」」
「のわっ!? ちょ、落ち着けよ! そのマント君に心当たりがあるだけで別に俺は何もしてないからな!?」
「どうだか! 適当にはぐらかそうとしてるんじゃないの!?」
「だいたい名前が気に入らねぇ! なんでライリーフ・エイルターナーなんだよ!」
「はぁ? なんでいきなりプレイヤーネームにまでケチつけられなきゃなんねーのさ」
「俺達のネーム見れば分かるだろ!」
分かるだろって言われても俺表示されない設定に固定されてるし……。
「ウォーヘッド、こいつらの名前なんかあるのか?」
「あー……キレてる男の方が雷、女の方がリーフ。んでもって大人しい方の二人がターナーとエイルだ」
「わーお、見事に俺のプレイヤーネームのパーツじゃん! ……怒るような事かこれ?」
「俺とエイルが付き合ってて!」
「私とターナーが付き合ってるのよ!」
「つまり俺の名前だとパートナーが逆だから気に入らないと?」
「そうだ!」
「そうよ!」
く、下らねぇ……死ぬほどどうでもいい情報なんですけど……。
「気持ちは分かるが落ち着けライリーフ」
「何がだよ? 今めっちゃ呆れて脱力感に襲われてる所だぞ?」
「剣に手をかけながら言われても説得力がないぞ」
「ん? おっといけね、つい癖で」
「どんな癖だよ……」
リア充スレイヤーとして五体に刻まれた習性は直ぐには消えてくれない。
リア充滅ぶべし、カップル別つべしの掟に支配された身体は嫉妬と憎悪に狂う獣となりて地を駆けるのだ!と言っていた叔父さんは今何処で何をしているのだろうか……。まあ、あらゆる状況に対応した108つの逃走術の使い手だ。きっと元気にしているさ。
よし、現実逃避終わり。シリウス君に繋がる情報とあっては俺もみすみす見逃す訳にはいかない。本当ならダンジョン完成するまで放置しておきたかったんだがなぁ……。
「名前のことはどうでもいいから置いといて……そのクエスト受けた場所教えてもらえるか? あんた達の獲物横取りしたのたぶん俺が受けてるクエストで探してる奴なんだわ」
「何で私達が協力してあげなきゃならないのよ!」
「そうだそうだ! プレイヤーネームをライエイル・リーフターナーに変えてから出直して来い!」
「雷、それはいくら何でも無茶苦茶だよ……」
「リーフも少し落ち着こ? 勘違いで迷惑掛けちゃったんだからこれくらい協力してあげようよ」
「「でも!」」
「ちなみに依頼主はこの国の公爵でな、お礼はたんまり貰える。協力してくれるならあんた達にもお礼してくれるんじゃないかな?」
「ヒャッフー! アンタそれを先に言いなさいよね!」
「ほらぐずぐずしてねーでさっさと行こうぜ!」
……まあ、悪い奴らじゃないのだろう。
テンションMAXで走り去って行く二人を見送りながら俺は残っている二人に明日の約束を取り付けてログアウトした。




