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3つの選択肢

ちょい長めです。

 ギルド裏の訓練所に移動して待つことたったの3秒、予想よりもめっさ早く試験官は現れた。


「ほう? 試験官の俺より先に来て待ってるとは昇級試験を受ける嵌めになった割にはやるじゃねーか」

「はぁ……どうも」


 おかしいな……受付のお姉さんは先行って待っとけって言ってたし、この場に俺が先にいるのって普通の事なんじゃ?


「あん? その反応……お前まさか俺が誰だか分かってないな?」

「そりゃ初対面ですし……」

「かーっ、これだから田舎者は! 俺は瞬撃のゼダンっつてここらじゃ名の知れたBランクの冒険者なんだぜ?」

「なんか速そうな二つ名っすね」

「反応薄いな。Bランクだぞ? 二つ名持ちだぞ?」

「Aランクに上がってから自慢してください」

「ぬぐ、Dランクにもなれてない癖に生意気な……だがお前の言う事も一理ある。男ならやっぱりAランク目指さなきゃだよな! 俺は今年こそ昇級してみせるぜ!」

「頑張ってくださいっす」

「おう! それじゃまたな!」


 瞬撃の二つ名が示す通りの素早さで試験官は颯爽と去っていった。

 ……。

 …………。

 ………………俺の試験は!?


「ちょっ待ちやがれ!」


 慌てて後を追い掛けるが既に彼の姿は何処にもない。何故よりにもよってAGI特化っぽい奴が試験官だったのか……他のステータスに振ってる奴だったら見失わずに済んだものを!


「ええい人混みが邪魔だ! 空から探すしかねーな」


 天翔天駆で空高く駆け上がり地上を高速で動く物体を探し出す。

 猫、犬、ガキ、変態と衛兵……駄目だ見当たらねぇ! どっかの建物に入っちまったのか? 考えろ俺、ついさっき出会ったばかりのあのおっさんが次に向かいそうな場所は何処か!


「むむ!」


 直感的な閃き!

 あの試験官は今年こそ昇級してみせるぜ!と言って去って行った。つまり俺との会話で何故かやる気が増し増しになっている。やる気を出した冒険者が行く所と言えばたぶんギルドだ! 新しくクエストを受けて暴れに行くんじゃないか!?


「あの足の速さだ、もうギルドにはいないだろう。となると……いた!」


 猛烈なスピードで南門に向かう男が一人、奴が試験官に違いない!


「逃がすかよォ!」


 普段のように平行に滑空するのでは到底アレに追い付くことはできない。なので少し角度をつけて重力を味方に加速する。だがこれだけではまだまだ追い付けない。

 そこで次の手段、と言っても別段特別な事じゃない。天翔天駆を使って更に加速するだけだ。ついでに空気抵抗を気持ち程度でも減らすべくいつドロップしたのかもわからないランスを眼前に構えることで俺は今、一条の流星となった!


「待ちやがれェ!!!」

「む、殺気ッ!?」

「チッ、外したか……!」


 ああ、当てちゃダメだったな。ギリギリ回避してくれて助かったぜ。


「お前は……さっきの田舎者か。まさか俺のクエストに同行しようってんしゃないだろうな? 早く高ランクのクエストを受注したいと言う気持ちは分からんでもないがな、BランクのクエストはEランクのひよっこにこなせる程甘いクエストじゃないぞ。きちんと自分のランクを上げてから挑むんだな」

「そのランクを上げる為の試験をあんたが見てくれるんだろ!?」

「んん? あー、そうだったそうだった! いやすまんな。ついテンションが上がって忘れてたわ。しかしBランク冒険者の俺の走りに追い付けるくらいだしもう合格でいいよな? うん、合格ってことで」

「んな適当な……俺が必死に追い掛けた意味がないじゃねーか……」

「いやいや、必死に追いかけたからこその合格だぞ? だがお前が納得いかないってんなら手短に試験を受けさせてやろう」

「えっ、いや合格なら別に――」

「試験内容は三択だ! 採取、討伐、試合! さあ好きな物を選べ!」

「話聞けよ!」


 ちくしょう、この人完全に試験モードになっちまったよ。

 しかし三択ねぇ? なんかチュートリアルの時みたいな内容だな。あの時と違ってどれか一つでクリアってのもありがたい。

 やっぱりこの3つの中から選ぶなら採取だろうか? ストレージの中に目的のアイテムが眠ってそうだし。と、今までの俺ならこんな安直な理由から採取を選択していたことだろう。だが俺は学んだ! もうこんな単純なトラップには引っかからないぜ!


「……なら試合で合否を決めて貰おうか」

「ほう? この3つから試合を選択するとは随分な自信じゃないか」


 何故試合を選んだのか? それは他2つの選択肢を選んでいた場合に待ち受ける困難を回避するためだ!

 例えば採取を選んだとするだろ? するとこうなる。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「採取で!」

「いいだろう。今から一時間以内に薬草と魔力草を20本集めて来い!」

「それならもう手元にあるぜ!」

「馬鹿者が! 試験なんだから今から集めた物以外は認めん! もちろん買った物もだ! 試験官舐めんなよ? 草の鮮度見分けられるから不正なんてしたら一発で分かるからな!」

「ちっ、無駄に優秀な試験官め!」

「ふはははは! 分かったら急いで探すんだな! 既に3分も経っているぞ?」

「ちくしょー! 覚えてろよー!」


なんてこった、いくら探しても薬草の最後の1本が見当たらねぇ! これも、これも違う! ならこいつか!?


ギイイィィィィィヤァァァァアアアアアアアアア!!!!!


「クソが! 何故あんな所にマンドラゴラがッ!」



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 そして試験時間を過ぎるまで草を抜く度にマンドラゴラで死に戻りし続ける恐ろしい未来が待っていた筈だ。

 次に討伐だが、これを選んだとするとこうなる。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「勿論討伐で!」

「いいだろう。では明日までにビッグスライム20体とキックラビット20体、そしてファットバイソン一体を討伐して来い!」

「余裕だぜ!」


 兎とスライムは直ぐに倒せたし後は牛探すだけとか楽勝にも程があるぜ。お、あんな所に居やがったか。サクッと倒してDランクに昇級するぜ!


「ブルル……」

「デブい牛よ、お前に恨みはないが俺が試験に合格するための礎になってもらうぞ! セャーッ!」

「ブモ?」

「な、なんだ今の感触は……? まるで分厚いゴムの塊でも殴ったみてーな感触だったぜ。はっ、まさか!?」


モンスター

マッシブバイソン Lv80


 やはり別種のモンスターだったか。しかしなんてこった……この一見肥満体型にみえる牛はその実全身が肥大化した筋肉の鎧で覆われているとでも言うのか?

 討伐ターゲットではない以上、こんなバケモノと無駄に戦って時間を浪費するのは得策とは言えない。ここは逃げの一手だ。


「とう! あの巨体だ、きっと足は遅い筈! このまま逃げ切らせてもらうぜ!」

「ブルルォォオオ!」

「は、速い!? なんてスピードなんだ……あんな突進を食らったらまたドラグディザスターさんが修理期間に入っちまうじゃねーか!」

「ブモォォオオ!」

「やば、追いつかれアーッ!」



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 てな具合にボコボコにされて、何故かファットバイソンを探す先々に待ち受けて俺を撃退し続けるのだ。最悪途中でユニークに進化するなんて事もあり得る。

 こんな未来を避けるためにはやはり試合を選択するのがベストなのさ。それに、採取と討伐は時間掛かりそうだから待たせてる皆に悪いしな。


「試合のルールを教えてくれ」

「ふむ、そうだな……なら俺に一撃でもまともな攻撃を当てられたら合格にしてやろう」

「制限時間は?」

「ない。お前がギブアップするまで付き合ってやるぞ」

「一撃当てるくらいでギブアップなんかするかよ」

「フフフ、それは楽しみだ。では早速始め――る前にこの装備を着けてくれ」

「これは?」

「万が一怪我なんてしたら危ないからな。殺傷力の低い訓練用の装備だ」

「へ、へぇ……そうなのか」


 まずいまずいまずい、普段の装備が使えないだと!? ステータスの差は幻影水晶の剣の能力で補うつもりだったのにどうしてこうなった!

 装備の補正無しの俺のステータスなんてゴミみたいな数値だぞ? あのスピードの相手に攻撃当てられるのか?


「ん? どうした? 始まる前からギブアップか?」

「なわけあるか! ほら装備付け替えたんだからさっさと始めてくれ!」

「はっはっは、そっちのタイミングで何時でも始めて構わないぞ」

「なら速攻!」

「遅い!」

「なんのッ!」


 全然攻撃が当たらねぇ!

 何処に打ち込んでも紙一重で避けられてしまう。しかもこいつ俺の攻撃見てから動いてないか!?


「ほらほらどうした? そんな攻撃じゃ一生俺に当たらないぞー?」

「舐めんな!」

「おっと、惜しかったな。動きに無駄がなければ今の攻撃は当たっていたかもしれないぞ」

「ぐぬぬぬぬ……」


 なーにが動きに無駄がなければだ、俺の身体制御のレベルは25だぞ? 見てろよこの野郎……憤怒の逆鱗が発動したら雷召嵐武も使って一気に勝負を決めてやる! 憤怒の逆鱗さえ発動すれば……って待てよ? 俺、試合始めてから一切攻撃されてないんじゃね?


「ヘイ試験官! なんでそっちから攻撃してこねーんだよ!」

「そりゃ攻撃するまでもないからな。しっかり俺の動きを捉えて攻撃を当てられるならそれだけで十分合格基準なんだからわざわざ難易度上げる事もないだろ」

「余計なお世話だチクショウ!」

「負けず嫌いな奴だなぁ。だが嫌いじゃないぞ、お前みたいな奴が冒険者として成功したりするからな!」

「そいつはどうも!」





「んぁ? おーライリーフ、やっと戻ってきたか」

「どうだった!?」

「一応合格できたぜ……」


 まさかどのルートを選んでも苦労することになろうとは……。

 正攻法では一切当たる気がしなかったので生活魔法と手品をフルに活用した奇策でどうにか一撃当てる事が出来たが、それでも一時間近く掛っちまったけどな。


「やったなライリーフ! でも遅いからアケノさんログアウトしちゃったぞ!」

「マジか。なんか悪いことしちゃったな」


 今度会ったら何かお詫びせねば。サポート系のジョブだって言ってたし杖でも作って渡すか? それとも格闘戦用の装備の方がいいか?


「今日はとりあえず後一つか二つクエストやって解散にするか」

「すまんウォーヘッド、マロンもせっかく手伝ってくれたのにあんまり遊べなくて」

「んなこと気にすんなよ。いつもの事だろ?」

「アタシも気にしてないぞ! 早くクエスト受けに行こうぜ!」

「おう。あ、合格の報告もしに行かないと」

「おいおい、一番大切な事忘れてんじゃねーよ」

「また試験受けることになっちゃうぞ!」

「それは勘弁してほしいわ……」


 忘れる前に気がついて本当によかった。次に同じ事することになってもクリアする自信ないからな。

 さて、俺達は報告ついでに本日最後のクエストを受けにギルドに向かったのだが……。


「おめでとうございますライリーフ様。試験の結果、冒険者ランクはCランクになりました」

「えっ!?」

「こちらが転移門の使用許可証です」

「あ、どうも……じゃなくて何で!?」

「試験官を勤めたゼダン様から推薦があり、試験の結果からDランクを大きく越える実力を持っていると判断された為です」


 まさかの飛び級である! ふへへ、これで自由に転移門使いたい放題だぜ!


「よかったなライリーフ。これで移動の度に一人で置いていかれることもなくなるな」

「いいな~。アタシも早くCランクになって転移門使えるようにしたい!」

「マロンはまだファースとアドベントしか行き来してないんだから急ぐことないんじゃないか?」

「それでも早く使えたほうが便利じゃんか! てことで兄貴とライリーフは明日アタシのクエスト手伝ってよね!」

「おう、任せとけ」

「ま、可愛い妹の頼みじゃ断れないしな。明日本格的にクエストこなすなら今日はもうクエスト受けるの止めておくか?」

「そうだな、今日はもうログアウトするか」


 明日やるなら、とすっかり3人共ログアウトする気になっていたのだが……今日は本当にタイミングが悪い事が続くもんだ。新しくトラブルが舞い込んで来やがった。


「「ああーーーッ!!」」


 俺達を指差して大声を上げる見知らぬ二人組が現れたのだ。


「見つけたぞエイルターナー!」

「見つけたわよエイルターナー!」


 訂正、どうやら俺達ではなく俺個人に用があるみたいだ。心当たり? そんなのあるわけないじゃん。

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