PKとPKとMPK
回復する悪役、以前趣味スレを覗いた時に見た名前だ。まさかその正体がNPCだと思っていた知り合いだとは思わなかったぜ。
「ウハハハハ! サイクロンスイング!」
「くぅっ! ウィークネスファング」
たしか回復が通じなかった相手に襲いかかるんだったっけ? カインだけが狙われているのは4人の中で1人だけダメージを受けていなかったからか。
回復断ってたら俺も狙われてたろうしラッキーだ。今のうちに逃げよう。
「うぅ、石ころ一つでダウンとか……なっ、回復する悪役!? カイン一体どういう状況だ!」
「っベー! 変人PKの癖にカインと互角かよ!」
「お前達! 起きたならさっさと獲物を追え!」
「神の愛から目を背けてはいけないィ!!」
森を抜け草原を突っ切ればファースにたどり着く。そして森を抜けるまで後少し、これならもう連中を撒けたと思ったんだけど……。
「くそ、何処行きやがったあの野郎」
先回りしているとは思わなかった。ステータスに差があるとは思っていたが、まさか後から走り出した奴に抜かれるなんて。
回復する悪役の相手をしているカインは置いといて、いるのはルーカスだけでオーバルはまだ来ていない……となるとやっぱりオーバルは大したことなさそうだ。
でもこれだと挟み撃ちに合う可能性があるわけか。面倒だけど山から回り込んで帰った方がいいかもな。
物音を立てないようにゆっくり慎重に歩を進める俺だったが、その甲斐虚しく補足されてしまったらしい。別々の方向から3つの反応が俺目掛けて向かって来るのを感知が捉えた。
「くそ! 包囲攻撃か!」
ルーカスは見当違いの方向を探している。てことはオーバルに見つかったのか?
ダッシュでその場を離れたが、攻撃には追尾性能があるみたいで俺をピッタリ追いかけてくる。
「逃げても無駄だってか!?」
なら迎撃してやんよ!
3つの攻撃は反応からして同時ではなくタイミングをずらして着弾するタイプだ。順番に叩き落とせばノーダメージ!
「そこ!」
「きゅい!」
「は? うごっ、にょわぁ!?」
何て見事なコンビネーション、同時じゃなかったのは他2体の攻撃を確実に当てるためだったか。今ので回復してもらった分のHPが消え去り【ウォーキング・デッド】が1回使用されてしまった。
てか何でこんな所にキックラビットがいるんだよ! ここは出現エリアじゃない。まさかあいつ、テイマーだったのか?
(あー、にんげんだー)
(久しぶりー)
(リベンジ来たー?)
「へ?」
この声、こいつらもしかして!
「あの時の子兎達か! オーバルの野郎にテイムされてたとはな……」
(違うー)
(縄張り増やしたー)
(天下統一ー?)
えっ、普通にエンカウントしただけ? 縄張り増やしたって言うけど、そんなことで出現エリアから外れること出来るのだろうか? ちょっと鑑定してみよう。
モンスター
三位一体のラビッツ Lv58
キックラビットから進化したユニークモンスター
脳波をリンクさせることで完璧なコンビネーション攻撃を仕掛けてくる
ユニークモンスターに進化しているだと!? どんだけ強くなってんだよ子兎達!
約2ヶ月であのボスに並ぶ進化を遂げるとは恐ろしいポテンシャルだ。そもそも何でプレイヤーが闊歩するフィールドで2ヶ月も生き延びてるのこいつら……?
(そろそろいいー?)
(攻撃再開ー)
(またのお越しをお待ちします)
「待て待て! 俺はお前達と戦うつもりはないから!」
(問答無用ー)
(今宵の兎は血に飢えているー)
(弱肉強食ー)
可愛い見た目に反してなんて物騒な兎達なんだ。お前ら草食なんだから血なんて求めるなよ!
「草食? そうだ! 人参をあげるから見逃してくれ!」
(((ニンジン?)))
「そう人参だ! こいつも血のように赤……くはないがそれっぽい色だし、食べても美味しいんだぞ!」
言いながらストレージ内の残り物を引っ張り出す。兎に人参とは我ながらなんと安直な作戦だと思わなくもないが、王道故に効果も絶大だろう。
(食べものー?)
(ポリポリー)
(リンゴの方が好きー)
「くっ、フルーツは今切らしてて……」
「見つけたァ! ルーカスこっちだ!」
げっ、オーバルに見つかったか! こいつには勝てると思うけど、ルーカスまで来られたら勝てない。
「……相手はPKだもんな。先に仕掛けてきたあいつらが悪い。なぁ兎達よ、お前らまだ血に飢えてる?」
(((飢えてるー)))
「ならあっちから走って来てるギョロ目なんてどうだ? 倒してくれたらフルーツを山盛りでプレゼントしてやるぜ?」
(フルーツ?)
(リンゴあるー?)
(新鮮ー?)
「もちろん。それでも足りなきゃあっちから来るデカ物を倒すのもいい」
あれ? ルーカスめっちゃ足早くね? もうオーバルに追い付きそうなんだけど。
(おお~おっきいー)
(強そー)
(あれ倒すー)
(((美味しい美味しい経験値ー!)))
血に飢えているってまんまレベル上げ的な意味だったのか。
兎達は目を輝かせてこの場にいる3人の中で最も強いであろうルーカスへと向かっていった。
「ぐわ!? キックラビットがなんでこんな所に! くそ、鬱陶しい!」
「何やってんだよルーカス! そんなの無視しろって!」
「くっ、こいつら普通のキックラビットより強え!」
「あいつのテイムモンスターか!?」
「残念だけどそれは外れだ。1人じゃ勝てそうにないからな。MPK、だっけ? 仕掛けさせてもらったぜ」
「卑怯だぞテメェ!」
「先に3人で1人にPK仕掛けて来たお前らには言われたかないね」
ユニークモンスターとは言えベースがキックラビットな兎達はそう長くは持たないだろう。オーバルをさっさと片付けて俺もあっちに混ざってやらないとな。
「来いよオーバル。今度はきっちり止め刺してやる」
「クソが! 生産系の癖に生意気なんだよォ! ビーストクロー!!」
オーバルがアーツを発動させながら迫り来るが、兎達のおかげで再び憤怒の逆鱗が発動している俺にとってはいい的でしかない。
「遅い!」
「ガッ!?」
「良いこと教えてやるよ。アーツ使ってる最中ならどのタイミングで攻撃してもカウンター扱いになるんだぜ?」
再び顔面に木刀をくらいスタンしたオーバルに追撃を加える。倒れている相手に容赦なく木刀を振るい続けているのを端から見られたらかなり酷い奴に思われる気がするが、HPが残っている限り手は緩めない。
「く、くそ! やめ、ルーカス! 助けてくれルーカス!」
「自分でなんとかしろ! ぐぉっ、この野郎!」
おお、兎達が予想以上に強い! 3方向からの攻撃で翻弄しつつ確実にHPを奪っていく姿が頼もし過ぎるぜ!
「それはそれとして止めだ!」
「チクショー!!!」
後はルーカスをなんとかすれば……!
「ハァ……ハァ……ちっ、オーバルはやられたか」
「遅ぇぞカイン!」
馬鹿な! カインがここに来たってことは回復する悪役さんが負けたのか!?
「ウコイサベナツモ……これで本当に自爆してくれるとは思わなかった。自爆に巻き込まれてHPをかなり削られたが、アンタを殺る分には問題無い」
カインが据わった目でゆっくりと近寄ってくる。
さてはお前もかなりおねむだな? アドベントに入った時から俺を観察しているなら無理もない。お互いの睡眠の為にもそろそろ決着を着けようか!




