グルメフェス開催直前
「え? 勝ったら試練クリア? 違う違う、ボクが満足するまで一緒に遊ぶことがクリア条件だよ!」
「なんでだよ!?」
「勝ったらクリアなんて何処にも書いてないだろー?」
「うっ、確かに……」
「それにしても負けるなんて思わなかったなぁ。フォルに頼んでた歓楽島でのクエスト君受けなかったしさ」
「フォル婆に? そんな話されなかったけどな」
確か頼まれたのはホームに温泉追加しろって事だった。
「ちゃんとゲームで負かす所までは上手くいってたのにあのバニーガールが邪魔しちゃったからねー」
「フォル婆とゲームなんてしてないぞ?」
「え? やだなーしてたじゃん。変則ルールのポーカー」
「うん?」
ポーカーは地下に落とされる前に謎の美女としかしていない筈……。
「はぁ!? あれってフォル婆だったのか!?」
「そうだよ。聞いてなかったのかい? フォルは運命を導く原初の巫女だからね。と言うか君さっきフォルのカード使ってきたじゃんか」
まさか運命の巫女のカードか!?
デッキから取り出してイラストを見てみると、確かにカジノで出会った謎の美女にそっくりだ。
フォル婆ってLRのモデルになるくらい凄い人だったのか……どうりで魔法やら体術やらキレッキレな訳だ。てかなんでそんな人がファースなんかにいるんだよ?
「そんなことより早く2戦目始めようよ! 負けるとやっぱり悔しいからね!」
「え? ああうん」
「ふふふ、今夜は寝かせないぜ!」
そう言うセリフは可愛い女の子から言われたい、なんて考えながら適当に返事をしてしまったのが運の尽き。まさか本当に夜通しカードバトルに付き合わされることになるとは思わなかったぜ……。
「ん、うぁ……やっべ、もう昼過ぎじゃん!」
今日は夕方からアドベントで屋台を出さなきゃいけないのに準備の時間があと2時間ちょっとしかない! 急いでログインせねば!
「あっ、やっと来たわね」
「おせーぞライ」
「悪い、ショタ神が朝まで寝かせてくれなかったせいなんだ」
「その話詳しく」ガシッ
「!?」
ま、マルティさんが何故ここに!? くそ、MND極振りの癖に何て力だ。意思の力がシステムを凌駕したとでも言うのか!
「腐腐腐、そろそろマントが出来てる頃かと思って来てみたら思わぬ収穫だよ。さあじっくり聞かせておくれ!」
「カードゲームで対戦する試練に手間取っただけですからね?」
「はは! それだけの筈ないだろう? 恥ずかしがらずに膝に乗せたり一緒にお風呂に入ったりしたと告白してしまいなさい。あぁ、是非ともその場に居合わせたかった!」
「妄想で事実を侵食するのやめてくれません!?」
「より尊いほうが真実でいいじゃないか? つまりボクの妄想こそが真実であり正義だ」
「暴論にも程がある! ってこんな漫才してる場合じゃなかった。さっさとアドベント行って屋台の準備始めないと」
「ああそうだったね、せっかくだしボクも手伝ってあげるよ。報酬はさっきの話を詳しく教えてくれることとその話を元にした本を出す許可でヨロシク」
くっ、またしても俺がモデルのBL本を産み出そうと言うのか。だが1冊も2冊も同じ事、その程度で労働力が確保できるなら安いもんだぜ!
「分かりました。お願いします」
「腐腐腐、契約成立だね」
「話が終わったならアドベントに急ごうぜライ。フィーネとマロンちゃんが先に行って場所確保してくれてんだよ」
「お、マジか。スゲー助かるわ」
「後でちゃんとお礼言うのよ?」
「んなこと言われなくても分かってるって!」
俺、ライト、リリィ、ルル、マルティさんでパーティを組み、早速アドベントへ向かう為に移動を開始した。
「おーいライ、そっちじゃなくてこっちだ」
「アドベントならこっちであってるだろ?」
「実は昨日の内にちょっとしたクエストをクリアしてな。そっちから向かうよりずっと早く着くんだよ」
「……? あ、もしかして転移門修復したのか!?」
「正解! これでここに来る為の時間も短縮できるようになったって訳よ」
「ライ君のホームもあるし、これからもちょくちょく来ることになるだろうから早めに直しておいた方がいいと思ったのよ」
「あたしらに感謝するっすよライ?」
ああ、心から感謝しよう。だが悲しいかな俺はまだ転移門の使用条件を満たしていない。なので皆と一緒にアドベントに行くことは出来ないのだ。
「早くCランク冒険者になっとくんだった……」
「嘘だろライ……? まさかまだEランクのままなのか!?」
「始めたばかりのマロンちゃんでももうDランクなのよ?」
「すまねぇ……すまねぇ……!」
「あっ、ちょっと!」
俺はリリィの制止の声を振り切り、パーティから離脱してアドベントへと駆け出した。
「ゼェ……ゼェ……へへ、もうMPスッカラカンだぜ……」
「まったく、ちゃんとクエスト受けて冒険者ランク上げておかないから苦労するのよ?」
「おっしゃる通りで……」
アドベントの門の前で待っていたリリィに怒られながらフィーネ達が確保してくれているスペースへと移動し始めたその時だった。
「……?」
「ライ君? いきなり立ち止まってどうしたの?」
「何か今感知系のスキルが反応したっぽいんだけど……気のせいか」
「屋台が待ちきれないプレイヤーにでも見られていたんじゃない? ライ君の料理凄く美味しいもの。さ、皆待ってるんだから急ぎましょ」
「おう、そうだな」
グルメフェスの開催まで残り30分しかない。これじゃギリギリ料理の完成間に合わないかもなぁ。と、そんな焦りもあって俺は違和感を覚えたこと自体を忘れてしまったのだった。




