財宝選びとテイルステーキ
「えっと、とりあえずお宝選ぼライリーフ」
ファフニールの何とも言えない最後にはマロンもさすがに触れないか。
「その前にドロップの確認だ。肉は手に入ったか?」
「んー、鱗と爪と牙しかないや。ライリーフは?」
「ちょっと待ってろ、今確認するから」
俺のストレージに追加されてるのは逆鱗と翼膜と眼晶……お、尻尾があるじゃないか!
「喜べ、ファースに戻ったらドラゴンのテールステーキが食えるぞ!」
「やったぁ! ……ってそうだライリーフ! アンタ無事だったならなんですぐに出てこなかったんだよ!」
「え? ああ、ブレス食らった時のことか。実は吹き飛ばされた拍子に壁の財宝の中に埋もれちゃってさぁ、あれで結構重いから抜け出すのに苦労したんだぜ?」
「そんな間抜けな状況だったのかよ!? あ"~クソ、心配してほんと損したぜ……」
「あはは、わるかったよ」
それにしても心配してくれてたのか。俺が戦線に復帰した時は脇目も振らずにファフニールに攻撃してたから、てっきり竜とタイマン最高!とか考えてたのかと思ったんだけどなぁ。なんで生きてんだよ、とか言われたし。
「ライリーフ、さっさとお宝選んでステーキ食べるぞ」
「ああ。って言ってもこの中から3つしか選べないとなると迷うな」
ここに転移してきた時にも言ったように、床も壁も隙間なく金銀財宝で覆われている。帰還までの制限時間がなかったらファフニールが言っていたようにずっと悩んでしまいそうだ。
「んなの適当でいいんだよ! さっさと選んでステーキ!」
「ちょ、急かすなっての!」
マロンめ、足下のコイン3枚に即決するとはなんて男らしいんだ。俺も男らしく即決したい所だが、それはそれこれはこれ。鑑定なんて便利なスキルを持っているのに活用しない手はないだろ!
「は~や~く~!」
「分かったからちょっと待てってば! えーと、どれどれ?」
アイテム
黄金竜の財宝 ???
鑑定不能
黄金竜の財宝 ???
鑑定不能
黄金竜の財宝 ???
鑑定不能
黄金竜の財宝 ???
鑑定不能
おのれ猪口才な……。でも鑑定持ちが荒稼ぎしかねないから仕方ないのか。コルはもう十分な程に持ってるし、俺もマロンに習って近くに落ちてたコインにしておこう。
「うっし、帰るか」
「うん!」
洞窟から転移すると、そこは地図を使用した場所だった。
料理のバフも地味に残っていたので、俺達は適当に木を伐採しながらファースへ向かうことに。
「よっ! ほっ! ふぅ……やっぱりSTR上がってると木を切り倒すまでの時間が短くていいな」
「だな! どれも一撃で切り倒せてスゲー楽しい!」
「ハルバートってそういう武器だっけ……?」
マロンが腕を振るう度に、スコーンスコーンと木々が伐採されて行く。そしてその切断面のなんと滑らかな事でしょう。日の光を反射してキラキラ輝いてやがるぜ。
「所でなんでまた木材集めがしたいだなんて言い出したんだ?」
「アタシもちゃんとした防具買いたくてさ。木材集めのクエストで少しでもお金貯めようと思ったんだ」
「へー。でもファフニール倒したんだし装備買い揃えられるくらいのコルは貯まってる筈だぞ?」
「えっ!? うわ本当だ、20万コルもある!」
ちなみに俺は12万しか増えてなかった。どうやら討伐報酬でレベル×10万コルと与えたダメージに応じたコルが貰えてるっぽいな。
「むぅ、知ってたなら教えてくれてもいいじゃんか!」
「ハハハ、これからはイベント概要くらいちゃんと読もうな」
「うへぇ、めんどくさ……」
金の心配がないならばこんな所にもう用はないとばかりにマロンはファースへ向かって歩き出した。
あのまま木を切り続けていれば何かしらスキルを覚えられそうなのに、勿体ないなぁ。けど当の本人にやる気がないなら仕方ないか。
「ようライ! 遊びに来たぜ!」
「あいむはんぐりー」
「久しぶりね」
「おお、いらっしゃい……って3人だけ?」
ファースに戻るとライトとフィーネとリリィが来ていた。来るならフレンドコールでも入れてくれれば待ってたのに。
「ウォーヘッドは社会人だから仕事中だな」
「ルルは部活の助っ人頼まれたって言ってたわね」
「ティナは家族旅行」
「部活の助っ人って……今どきそんなことってあるのか?」
「あるみたいだぜ? 俺達からすりゃここよりよっぽどファンタジーだよなー」
ついでにウォーヘッドが年上だと判明したせいで次会った時どう話せばいいか迷うな。やっぱり敬語使った方がいいだろうか? それとも頼まれてた魔導拳銃を黒塗りの厳ついのにして、ついでにグラサンもプレゼントして三下ムーヴ? 実に悩ましい。
「ところでライ、その後ろに引っ付いてる子誰?」
「ん? ああ、こいつはマロン。俺を逆ナンしてきた新人だ」
「な!? 誰もそんなことしてないだろ!」
「ほほう? ライを逆ナンするとは見掛けによらず肉食系か?」
「気を付けろよライト。こう見えてファフニールすら食い荒らす猛獣だぜ?」
「誰が猛獣だアホ!」
「えっ、お前ら二人でファフニール倒したのか!? スゲーなマロンちゃん。ライの攻撃ショボいし殆ど1人で倒したってことだろ?」
「うっ……ま、まあな! でもライリーフだって凄かったんだかんな!」
擁護してくれるのはありがたいが、マロンの卓越した動きと比べるとゴミみたいなもんだからあまり張り合わないで欲しい。あんなのただのスキルとステータスの暴力だからさ。
「ライ、ご飯」
「フィーネは本当にぶれないなぁ」
「ライ君、何か変わったアイテム手に入れた?」
「なんで?」
「本当は午後からこっちに来る予定だったんだけど、急にフィーネがファースに行くって言い始めたものだから……」
「私の直感が告げている。ライはとびっきりの食材を手に入れて今から料理しようとしていると……!」
す、鋭い。フィーネが言っているのは間違いなく黄金竜の尻尾のことだろう。なんて優れた嗅覚! 的確にご馳走をハントするその直感力はまさに野生のそれだ。しかし女の子としてそれはどうなのだろうか?
「おいお前! ドラゴンステーキはアタシとライリーフの物だ! 横からしゃしゃり出てくんなよな!」
マロン、自分からゲットした獲物をバラしてどうするよ。そんな事言ったらフィーネ以外も食い付くぞ?
「ドラゴンステーキ!? マジかよライ! 俺も食いたい!」
「ファンタジーの定番よね。私もちょっと気になるかも……」
「ダメだって言ってんだろ!」
「落ち着けよマロン。とりあえず尻尾を取り出してみて小さかったら俺らだけで食べよう。んでさ、大きかったら皆にも分けてやろうぜ。な?」
「……分かった」
あ、いけね。俺の分はセレネ達にも食わせてやらなきゃだから小さかったら殆ど肉食えないじゃん。頼むから大きめの尻尾でありますように!
「よし、それじゃ取り出すぞー。せーの……ほっ、いぃ!?」
ズズーン……
大きめの尻尾がいいとは願ったが、これは大きすぎだろ!
俺のストレージから飛び出したのは明らかに根本から切断されたファフニールの尻尾そのものだった。
そして広場でもないのにそんなものを取り出せば……
「あ、あぁ……俺の仮設ホームが!」
巨大な尻尾に押し潰されて見るも無惨な姿になってしまったホームがそこにはあった。
次回、ドラゴンステーキ実食&財宝の鑑定です。




