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和解と勧誘

「にぃちゃんスッゲー! マジでゴブリンでもかてるんだな!」

「やったねにぃちゃん!」

「おにぃちゃんおめでとー」

「コングラッチュレーション、実に素晴らしいバトルだった。預かっていたカードは君の物だ」


 お帰り俺の聖剣使い。

 ふーん? 姫プレイヤーさんの当てたSRは乙女を護る聖獣……ユニコーンか。使い所は難しそうだけど、サポートとして使うならかなり強力な効果してるな。


「カード貸してくれてありがとな。これは返すぜ」

「おう! へへへ、このデッキならおれも大会でかてるかも……!」

「あー……そうだな、勝てるといいな」


 正直さっきの勝負もギリギリ勝てただけでこのデッキはそこまで強くない。ピン刺しのゴブリン将軍とゴブリンキングを運良く引けたからいいものの、カードパワーが低すぎる。

 本気でゴブリンデッキを組むなら将軍をあと2枚、そしてキングがあと1枚は欲しいかな。ただこの二種類のカードはゴブリンなのに地味にレアリティが高いので無理して組むもんじゃない気がするんだよなぁ……。


「おい、ヒメちゃんの当てたカード返せよ!」

「はぁ?」


 取り巻きBよ、さすがにそれはアホ過ぎないか? 取り巻きAが負けたから自分だけでも姫プレイヤーさんに良い所を見せようとしているのなら逆効果だと言わざるを得ない。お前が後ろを振り向けばゲンナリした姫プレイヤーさんの表情が目に入る筈だ。


「ストップだ。勝者にレアカードを、敗者は店から出ていくってルールを先に言い出したのは君達のほうだぞ。その横暴はカードショップの店員として見逃せないね」

「そうだよ。私は別に気にしてないからクエストでも受けに行こ?」


 割って入ったおっちゃんに合わせる形で姫プレイヤーさんが取り巻きBを宥める。だがそれでも彼は止まらなかった。


「ヒメちゃんが気にしなくても俺達が気にするんだよ! せっかくヒメちゃんが当てたレアカードをむざむざ渡す訳にはいかないんだ!」


 キッ!と俺を睨み付けてくる取り巻きBを止めたのは、なんと意外にも取り巻きAだった。


「やめろバンバンG! 勝者に負けた俺が悪いんだ。怒るなら俺に怒れ」

「ナスB……」

「ヒメちゃんもごめんな、こんなつまらねぇことに巻き込んじまって。本当はカードに興味がないことなんて最初から分かってたんだ……ったく、俺達はつくづくパトロン失格だぜ」

「そんな事ないよナスBさん!」

「いいやヒメちゃん、ナスBの言うとうりだ……今の俺達にヒメちゃんと遊ぶ資格なんてねぇ! もっと男上げてから出直してくるよ。行こうぜ、ナスB……」

「ああ……」

「ナスBさん、バンバンGさん……」


 ま、まずい! 本人達はいたって真面目に会話しているつもりなんだろうけど、俺には茶番劇やってるようにみえて体がウズウズしてしょうがない。このままでは乱入してしまいそうだ!


「おっと、忘れるところだった。店主さんもいきなり絡んじまって悪かったな。カードが欲しかったって理由でもあるんだが、このカードゲームの存在を教えてくれたあんたと戦ってみたかったんだ」


 !? 何のことかは分からないが、ここで俺に会話を振るとはナイスだ取り巻きAもといナスB! 絡んで来たことはこれで許しちゃうぜ!


「……ふっ、そうかい。で、戦ってみた感想は?」

「ゴブリンをあそこまで使いこなすとは思わなかった。ただ……」

「ただ?」

「次は借り物じゃない、店主さん自身が組み上げたデッキと戦いたい! 烏滸がましいのは承知の上だが、また俺とカードバトルして欲しい!」

「烏滸がましい、か……確かにな」

「……ッ」

「だがデッキを持つ者同士が出会ってしまったなら戦うしかない。次に会うときまでに強くなっておけ。俺のデッキはゴブリンデッキよりずっと強いぞ?」

「あ、ああ!」

「にぃちゃんまだデッキ組めるほどカードもってムゴォ!?」

「じゃましちゃダメだよいっくん!」

「いっくんくうきよも?」


 ナイスアシストだ二人共。後でジュースをもう1本買ってやろう。いっくんにはエスプレッソをご馳走してやろう。

 こうしてナスBは清々しい顔で、バンバンGは何処か腑に落ちない顔でカードショップを去って行った。


「あ、あの~……」

「何かなお嬢さん?」


 1人取り残された姫プレイヤーさんに話しかけられたが、茶番劇の余韻のせいでやたらキザったらしい返しになってしまった。恥ずいわー。


「もしこの後お暇でしたら私と一緒にクエストしませんか? 私、LUK特化なんで一緒にクエストすればレアドロップいっぱい手に入るんです。クラスタに入ってくれれば強い人と一緒にプレイもできて効率よくアイテムが集められますよ!」

「たしかヒメちゃんさん?のLUKって900ちょいだっけ? それじゃちょっと物足りないかなぁ」

「え……?」

「俺もLUK特化なんだよ。装備込みで大体1800くらいだっけかな?」

「わ、私の倍!? その割には装備が……あっ、いえ、その……ごめんなさい……」


 装備を更新する度にぶっ壊してるせいで、いまだに初心者装備を普段使いしているもんな。だからっていたたまれない物を見るような目を向けられる覚えはないぞ、ヒメちゃんさんよ?


「とりあえず俺は今日カードを買ったらファースに戻ってログアウトする予定だからまた機会があればだな」


 別に時間はあるけどクラスタに勧誘されるのは非常にめんどくさいのでパス。だってさっきの連中みたいなのとクラスタ内のルールを守って一緒にプレイしなきゃなんないんだろ? たまになら構わないけどいちいち拘束されたくはないし、一緒に遊ぶならライト達との方が断然気が楽だからな!


「約束ですよ?」

「……」


 なんとなくだけど言質取らせたくねぇな……どうにかやんわりとお断り出来ないものだろうか? けどもう機会があったらって言っちゃったしなぁ……。


「えっと……俺は基本ファースに引きこもってるからそうそう一緒に遊ぶ機会なんて来ないと思いますよ?」

「それでも構いません。偶然ゲームの中で再会できたら、なんだかロマンチックじゃないですか」

「は、ははは……そっすね……」


 この姫プレイヤー、中々に手強いな。

 サラリと紡がれる甘い台詞は野郎共の理性を溶かすには十分すぎる。

 恐ろしい、先程までパトロンの暴走で困り顔だった人物とは思えないプレイングだ。はっ! まさか、先程までの一連の流れを仕組んでいたのでは……?

 困り顔だったのは絡まれて困るであろう攻略対象の心に共感を与えるための演技だったとしたら……?

 うわ、考えたら鳥肌立っちゃったぜ。

 少し怖くなった俺はカードを全弾大人買いしてガキんちょ達と一緒に店から足早に離れた。

主人公の中でのヒメちゃんへの評価がラスボスっぽくなりましたが、当然ただの考え過ぎです。

姫プレイを極めた時、人は意識せずとも姫になることができるのです。

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