モンスターだって恋がしたい!
殴る、殴る、殴る、お互いただひたすら拳をぶつけ合う。
鬼は動く度に炭化した甲殻が砕け飛び散り、防御力が下がっていく。
なのにどうだ、俺が有利になる気配がまるでない。
理由は幾つかあるが、一言でまとめるならキメラだからになるかな。
キメラは様々なモンスターの肉体と能力を継ぎ接ぎして無理やり一つにまとめたモンスターだ。
これはレアモンスターから称号やスキルと言う形で能力を奪うプレイヤーとある意味では似ているかもしれない……ただここに一つ、大きな差が生じることを除いては。
前提条件として俺達プレイヤーはこの世界においてかなり弱い部類の生物だ。その弱さを称号やスキル、幾つものジョブを育てることで補っている。
故に能力を新たに手に入れることが容易であり、その能力にも制限が設けられていたりする。
だがこいつは違う。
元よりプレイヤーなんて比較にならないほどの強靭な肉体を持ち、その上で本来手にすることの無い幾つもの能力を獲得している。
いやー、鬼がいい装備着てるだけだと思って殴り合いに持ち込んだのは完全に失敗だったわ。
「フンヌゥ!」
「ぐぉっ……てりゃ!」
「ぬ、ムン!」
ちっ! HPが0から変わらないせいで後どれだけダメージを与えればいいのか分からないのが地味に辛い。
しかも徐々に火傷が治りはじめてやがるし、それに伴ってスピードもパワーも上がってきやがった。
「このっ! なんでダメージ与える前より速くなってんだよ!?」
「それもまた貴様と同じよ!」
こ、こいつ……逆境系のスキルも持ってんのかよ!
HP1で踏ん張ってる俺には関係ないが、他のプレイヤー達にとっては悪夢だろう。
「こなくそ! そろそろMP切れとけよ!」
「フハハハハ! まだまだこれからよ!」
ガツン!
うん? 何か今硬い物を殴った感触が……。
「はぁ!? 甲殻再生すんのかよ!?」
「クク、ただ再生しただけではないぞ? 炎への耐性を獲得した甲殻だ。先程の戦法は通じん!」
「あーもう! 本当に俺のバカ!」
ちくしょー! どんどん難易度が上がっていきやがる!
てか踏ん張り効果に逆境でステータス上昇、更に再生する鎧って普段の俺じゃんか! しかもLUK特化じゃない分完全に上位互換じゃないですかやだー!
「ぬおぉ! より厄介になる前に手数で潰す!」
「クハハハハハ! 良い、良い闘いダァ!」
ヤバい、ヤバいヤバいヤバい! 憤怒の逆鱗のステータス上昇だけじゃ捌ききれない!
何か、何か俺に残された手は無いものか……。
あ、龍呪の眼光使えばいいんじゃん! ステータス減少+重力倍増で動きが鈍った所を雷召嵐武とラックバーストを使って削りきる。
「はーっはっは! 勝利への道筋が完全に見えたぜ! 食らいやがれ、龍呪の眼光ゥ!」
「フン!」
「ぺぎゅら!?」
鬼の拳が一切スピードを緩めることなく俺の顔面を打ち抜いた。
ば、バカな、効いていないだと!? いったい何故……ってしまった、今日はもう船の警備員相手に使ってたじゃねーか。
『ご覧下さい皆様! さっきまであんなに優勢だったにも関わらず無様に転げ回っています! いいぞー、もっとやっちゃいなさいオーガナイト!』
バニーちゃん、ちょっと俺を煽る時生き生きしすぎじゃないか?
はっ! もしかして俺のこと好きなのか!? 男子小学生が好きな子イジメちゃうみたいな、そんな感じの心理なのでは?
「ごめんなバニーちゃん、俺はMじゃないから虐められても嬉しくないんだわ。きっと他にいい人見つかるから俺のことは諦めてくれ」
『何をどうしたらそんな台詞が出てくるのよ!?』
「バニーさん、まさかこんな奴がタイプだったとは……フラれてしまったようですが心を強く持ってください」
『オーガナイト!? 貴方まで何を言い出してるんです!』
む、鬼の瞳の奥に先程までとは異なる静かな闘志が燃え上がっているのが見てとれる。
「バニーさん、オレは貴女の心を傷つけたこいつを絶対に倒してみせます! なのでどうか、オレが勝ったら……オレとつ、番いになって下さい!」
『えっ、ごめんなさい、生理的に受け付けないのでお断りです。と言うかモンスターな時点で論外です』
「カハッ……!」
「隙ありーッ!」
雷召嵐武と天翔天駆を使って一気に鬼の顔面に肉薄し、膝蹴りを顎にぶち当てる。
鬼は精神的ダメージと肉体的ダメージで気絶した!
俺はすかさず着地し、鬼の足を掴んで天井まで一気に駆け昇った。
いつもの鎧じゃないからMPがガリガリ削れていくが、ここまで持てば十分だ!
「フィナーレの時間だぜ!」
空中でのジャイアントスイングだ!
俺はMPが続くギリギリまで回転を加速させ、最後のMPを使って横回転から縦回転へと体勢を変化させた。
最後の仕上げにバーストラック、そして回転と落下の勢いをそのままに、鬼を地面におもいっきり叩きつける。
ズドォォォォォン!!!
「ゴ……ァ……」
凄まじい土煙の中に、モンスターが消滅する時のエフェクトが混ざっている。
ありがとうバニーちゃん! この闘い、バニーちゃんがいなければ負けていたのは俺だったかもしれない。
『そ、そんな……これじゃ私の臨時ボーナスが……はっ、お、オーナー! 何故生きて、じゃなかった。これはその、ちょっとした手違いでして! あ、ちょ、いやん! 服が伸びちゃいますよぅ!……ごめんなさい、ごめんなさい! もうふざけないからクビにしないでください! いーやー! クビはイヤー! ちくしょー! 覚えてなさいよ、ライリーフ・エイルターナー!』
……バニーちゃん、強く生きてくれ。
いつも読んで頂きありがとうございます。
おまけ
・バニーちゃん
歓楽島のカジノに勤務しているバニーガール。
別に兎の獣人ではない。
非常に高い看破スキルを所持しており、あらゆるイカサマを見抜くスペシャリストにしてエリートだった。
主人公の爆勝ちをイカサマだと思ってしまったのが運の尽き。
プライドと自尊心を満たすために色々やった結果職を失った。
・オーガナイトレクイエム
カジノ側の最高戦力。
グラップルオーガをベースに5体のレアモンスターを合体させたキメラモンスター。
能力
・地獄廻り
HPが0の時、全てのステータスが大幅に上昇する逆境系の能力。
・鬼気迫る根性
グラップルオーガのスキル。
HPが0になった場合MPを消費して行動を可能にするスキル。
ダメージを受けなくても発動中はMPを消費し続ける。
・暗殺者の矜持
アサシンタイガーのスキル。
自身の攻撃でクリティカルヒが発生した場合、与えたダメージ分MPを回復する。
地味にクリティカル発生率も上昇する。
・超越再生
アルティメットビートル・ギカントエンペラーのスキル。
甲殻が破壊された時、その攻撃に対する高い耐性を獲得して再生する。
・剣聖技
ブルーソードユニコーンのスキル。
文字通り、剣聖の如き剣捌きを再現できる。
オーガナイトの場合は一撃で全てを砕く剛の剣だった。
・ダメージコンバートサイクロン
サイクロンタートルのスキル。
甲羅に受けたダメージを蓄積し回転力に代える。
が、甲殻がものすごーく頑丈なので基本オーガナイトは使用しない。
カジノは半分運営がしきってるのでレアモンスター達は倒されてもすぐに復活する。
ある意味ダンジョンのモンスターみたいな感じです。




