ガチャを求めて
拗ねた王様の小言を聞き終えた俺は城から解放された。後は帰るだけなのだが……
「このままファースに帰るのはちょっと勿体ないよな?」
「ニャー?」
城での用事も済んだ今、普段は建築クエストのせいでファース周辺のマップでしか活動できない俺にも久しぶりの自由が訪れたのだ。
「クックック、帰りの案内を付けなかったのが間違いだぜ」
「ニャ……」
「いいんだよ。何か適当な土産でも買っていけば許してくれるって」
セレネは乗り気じゃないみたいだが、このチャンスを逃すわけにはいかない。なんたって俺のストレージでずっと放置されてるガチャチケットを漸く使えそうなんだからな!
「てことでやって来たぜ怪しい商館!」
いつか王都にたどり着いた時の為にあらかじめライトに場所を教えてもらっていたのだ!
「お邪魔しまーす! ガチャ引きに来ましたー!」
シーン……
「もぬけの殻だと……?」
おかしいな。ライトの話だと見た目はお化けでも出てきそうな雰囲気の商館だけど、扉の先は別の場所に繋がってるってことだったんだが……?
「ん? おいあんた、また会ったな。そんな所で何やってんだ?」
「え? いや、ちょっとガチャ引きにきたんだけどやってないみたいで」
てか誰だこの人? 向こうは俺のこと知ってるみたいだけど、全く思い出せない。
「ガチャ? ああ、引き忘れたのか。もうそこは景品交換会場には繋がってないぞ」
「なん、だと……?」
「今からガチャが引きたいって事なら……歓楽島・バルカナルを目指すしかないだろうな」
「歓楽島ってカジノとかあるって所だよな」
「もともとそこと繋がってたって話だぜ。ま、たどり着ければガチャくらい引けるだろ。……っといけね、人を待たせてるんだった。じゃーな!」
「あ、ちょっと! ……うーん、誰だったんだろう?」
しかし、これはなかなか有益な情報が手に入ったんじゃないか?
歓楽島バルカナル。そこに行けばガチャを引ける。
ガチャを引いて王都を散策したらおとなしく帰る予定だったが、島を探しガチャを引いて遊んでから帰るに予定変更するっきゃないな!
なに、帰りはリターンホームを使えば一瞬なんだ。一週間ほどバカンスしても怒られないって。
それに、歓楽島バルカナルに行方不明のシリウス君に関する情報が無いとも限らない。どのみち調査は必須なのだからしょーがないよね!
「となるとまずは島へ向かう手段を調べなきゃな。セレネ、ちょっとうるさい所に行くけど我慢してくれよ?」
「ンニャ?」
俺が向かった先は王都の冒険者ギルドだ。酒場と迷ったが、俺もギルドの一員ではあるので楽に情報が手に入りそうな冒険者ギルドに決めたのだ。
「到着っと」
いい感じに賑わってるねぇ。冒険者ギルドの本部があるアドベント並みに活気がある。
「ニャーゥ……」
「あはは、さっさと用件済ませて出るから我慢してくれって」
さーて、情報は何処のカウンターで聞けばいいんだったかな?
「んー、わかんねぇや。適当に並ぶか」
とりあえず一番短い列に並ぶことにしよう。違ったとしてもその時は何処に並ぶのか聞けばいいだけだしな。
「――でよ、その時のあいつの顔ときたら傑作だっぜ!」
「ガハハ! ウォールアントの群れに囲まれちゃあのスカシ野郎も形無しだわな!」
「けっ! 俺だけいいとこ見逃しちまったのかよ……」
……。
ナチュラルにオッサン達に横入りされた。
前の人が進んでスペースが空くタイミングを完璧に理解したこの横入りのしかた……間違いない、こいつら横入りのプロだ!
「ガハハハハハ! ……あ? なに見てンだガキぃ? 何か文句でもあんのかオイ!」
おお、しかも流れるように難癖まで付けてきやがった! こっちはまだ何も言ってないし、並んでいれば前を見ているなんて当たり前の事なのに!
「素晴らしいまでの素行不良冒険者っぷりだぜ……!」
「あぁん!? ケンカ売ってンのかテメェ!」
「おい、落ち着けよ……お前見たところDランク辺りの駆け出しだろ? 先輩相手に礼儀がなってねぇんじゃねーか?」
くっ、ダメだ。このおいしいシチュエーションは我慢できない! 久しぶりにやってしまおう!
「ふっ、Dランク? どうやらあんたの目は節穴のようだな」
「なんだと……?」
「この俺をどう見ればDランクなんぞに間違えられるのか、是非とも御教授願いたいものだな」
言葉と同時に龍呪の眼光を発動する。
「うっ……」
「ヒッ!?」
「ぬぐぅ……!」
テンプレ冒険者は威圧や重力の影響でガクガクだ。
「ククッ、よく聞け。俺のランクは……」
「ら、ランクは……?」
「……Eだ!」
「「「E!?……E?」」」
「ふっ、ふふふ……あーっはっは! なんだよその顔? 俺を笑い殺す気かってーの!」
龍呪の眼光を解除する。いやー、やっぱり茶番劇は最高だぜ! あー、でもライトがいればもっと話を広げながら楽しめたろうなぁ。ちょっと惜しい事をした。
「う、嘘だろ? 今のは駆け出しのガキに出せるような威圧感じゃなかった! あんた、一体何者だ……?」
「ただのプレイヤーだよ。威圧感はスキル使っただけだし」
「スキル……威圧の眼光か? いや待て、ギルド内でスキル使うなんて馬鹿か!」
「そ、そうだぜ! いくら俺らが横入りしたからってやっていいことと悪いことがあるだろうが!」
「おいおい、横入りしたことまで自分から認めるのかよ?」
「あっ」
綺麗に自滅したなこいつ。でも自滅は俺もだ。
騒ぎを起こしたことで、俺達4人と1匹はギルドから仲良く叩き出されてしまった。
とばっちりを食らったセレネからの視線がとても痛い。爪が肩に食い込んで物理的にも痛い。
これは、ギルドで情報ゲットできなかったから酒場に行こう!なんて言い出せないなぁ……。
おまけ
・プレイヤー ナナシ
モブ顔のプレイヤー。
アドベントの冒険者ギルド、屋台、そして今回と都合3回目の登場。
名前の由来はそのまんまで名無しから。
おまけ2
・ウォールアント
顔が壁のように四角い体長一メートル程の蟻型モンスター。
集団で集まり即席の城塞を築いて外敵を追い返す。
獲物を囲み逃げ場を無くした後で酸を吐きつける攻撃は強力。




