ギルティorノットギルティ
今回は少し長めです
「フィリックちゃん! フィリックちゃん!?」
「ブ、ブニャ……ウ」(交、尾が……したか……った)
「フィリックちゃーーーーんっ!」
おっふ。俺の素のステータスが低いおかげでHPはあまり減っていないみたいだが、地味にクリティカル判定で意識を刈り取ってしまった。
そもそも攻撃したこと自体がアウトな訳だからあのデブ猫が生きてようが死んでようが俺が処されるのは決定事項なのでは?
いやまだだ! 俺は最後まで無罪を諦めない!
「……陛下、どうか自分に弁明の機会を」
「うむ、聞くだけ聞いてやろう」
「陛下も王である以前に娘を持つ1人の親。可愛い娘に肉だるまが発情しながら向かって来れば、肉だるまを魔物の餌にでもしたくなることでしょう」
「……一理あるな」
「自分にとってセレネは眷属であり娘も同然なのです。本来なら八つ裂きにしてバーベキューにしたあとゴミ箱に叩き込みたい所を蹴りの一発で我慢した訳ですし、お互い水に流すという事でどうでしょう?」
「ふむ」
「そんな理屈が通ると思っているのですか!? お父様! この者を即刻打ち首にしましょう!」
ちっ、姫様を攻略しない限りうやむやにするのは難しいか。
「姫様、例えば自分が貴女に全裸で迫ったとしたらどうなりますか?」
「な!? 貴方が私に……? それは、その、まだお互いのこともよく知りませんし……なにより身分の差が……」///
「なんで乗り気なの!?」
姫様の思考回路が理解できない。そこは打ち首です!じゃないのか?
「この子は昔から押しに弱くてな。多少攻撃的な性格なのもそれを隠す為の擬態なのだ」
「想像しただけで落ちかけるとかチョロいってレベルじゃねーだろ……」
「うむ。余も将来が心配でならん」
あ、さらっと王様にタメ口をきいてしまった。まぁ王様怒ってないみたいだしセーフだよな?
その後宮廷魔導師が崩れた天井付近の過去の映像を時空間魔法で調べた所、デブ猫が梁の間に挟まって身動きが取れなくなっていたことが判明した。
もし俺がバタフライエフェクトを使っていなかった場合そのまま餓死していた可能性があり、蹴り飛ばしてしまったがデブ猫は気絶しただけで怪我もなかったことからギリギリ許してもらえることになったのだが……
「修繕費、ですか」
「うむ。お主がアーツで壊したのだから当然であろう。本来であれば罪に問う所ではあるが、フィリックが見つかったのはお主のアーツのおかげでもある。よって罪は不問とする代わりに修繕費の半分を支払ってもらいたい」
「半分……それって幾らくらいになるんでしょうか?」
「そうさな、ざっと500万コルと言ったところだろう」
「高っ!?」
天井の一部直すだけで1000万かよ! 俺が半分出すからって元より良くしようとか思ってないかこの国王?
「それって一括で払わないといけないのでしょうか?」
「余も冒険者相手にそこまで無茶は言わん。無論分割も可能だとも。そして国から出されているクエストをクリアすればその分減額もしよう」
つまり冒険者ギルドのクエストの中にある依頼主がコーデル王国の物をクリアしまくっていけば、減額され続けて最終的に1コルも払わなくてよくなるのか。
ただこれは国からのクエストが無尽蔵に出されていることが前提だし、そこまでクエストの数があるとも思えないんだよなぁ。
加えて俺はまだ冒険者ランクがEなので、国から出されているクエストがランクC以上だった場合は受けられない。
クエストを受けるためにクエストを……なんて面倒な連鎖が起きかねないし、地道に金を稼いだ方が楽かもしれないな。
都合の良いことに、週一で屋台をする約束もしてしまった所だ。料理の値段設定と入客次第では一月もしないで達成可能かもしれない。
「わかりました。このライリーフ・エイルターナー、500万コル耳を揃えてお支払い致しましょう」
「……エイルターナー?」
「あっ」
ついロールプレイのせいで口が滑ってしまった。ソフィアが何言っちゃってんのこの人!?みたいな顔でこっちを見ている。
「彼、今エイルターナーと言いまして?」
「まさか10年前に行方不明になった……」
「そう言われるとどことなく似ているような」
「彼の天才が戻ったと言うのか?」
周りの貴族達がざわめき出す。
せっかくソフィアがライリーフとしか報告していなかったのに、俺が自分から厄介事の種蒔いてどうするよ。
「ちっがーーーーう! こんなマヌケ面が私の息子であるものか!」
ドスドスと足音をたて、肩を怒らせながら1人の大柄な貴族が俺に向かって歩いて来た。
もしかしなくてもこの人がエイルターナー公爵か? 実際別人だから息子じゃないと否定されるのはいい、けどマヌケ面ってのはどお言うことだよオイ!
「見ろ、こののへーっとした締まりの無さを! 知性の欠片も感じられん! 息子は3歳の時からキリッとしたイケメンだったのだぞ!」
「知らねーよそんな事。けどおたくと俺は無関係だって事だけは同意してやるよ」
「当然だ。貴様のようなブサメンが我が一族から産まれる訳がないからなァ!」
「おたくだってぶくぶく太ってたいしてイケメンでもないでしょーが!」
「ふん。かつて貴女の選ぶイケメン貴族ランキングで5年連続No.1の偉業を成し遂げた私に嫉妬するのは当然だが、事実を事実と認められんのは悲しいなぁ?」
そんなアンケートとってるのかよこの国……。若干憐れみのこもった目で俺を視てきたが、残念なことにこの脂ぎっしゅなおっさんからはイケメンの面影を感じ取れない。
「ライリーフ君、その方の言っている事は事実です。 その、今少し太……ふくよかになられていますが、かつては奥方と王国一の美男美女カップルとして名を轟かせていました」
「嘘ん」
「ニャー」
いつの間にかセレネを抱えて側に来ていたソフィアの言葉は信じがたい物だった。
バカな、これが痩せればイケメンだと? そんなんでいいなら俺だってモテモテになってないとおかしい。よってダウト!
「ソフィア殿、かつてではなく今もだ。間違えないでもらいたい。おっと、そういえば妻と撮ったベストショットの1枚を持ち歩いているんだった。貴様にも特別に見せてやろう」
「いや、別に見たくないんだけど」
「ふふふ、遠慮することはない。この完璧な美しさのハーモニーを堪能できる事を神に感謝しなさい」
「だから別に見たくな……やだ何このイケメン」
隣の女性もめちゃくちゃ綺麗だが、それを上回る華やかさを放つイケメンが目に飛び込んできた。
ここからどうすれば目の前の肉だるまに変貌できるんだ? 全く分からん。
お? よく見ると赤ん坊を抱いているが、これが行方不明の一人息子だろうか? 見た感じ産まれて2、3月と言った所だが、この時点で俺よりイケメンなオーラを放っている。3歳のこいつと比べられれば、俺が完敗するのは必然と言えるだろう。
「どうかね? 完璧な家族写真の感想は?」
「時の流れって残酷っすね」スッ
「ふん!」ガシャーン
ストレージから手鏡を取り出して見せた所、0フレームで叩き割られた。
事実を事実として認めてないのは自分じゃねーか。
「はぁ……はぁ……ふぅ、いきなり危険物を取り出すとは、礼儀知らずめ」
「危険物って……まぁおたくにとってはそうなのか」
「……ふっ」
「何がおかしいんだよ」
「いやなに、やはり貴様は私の息子、シリウスではないのだなと。そう思っただけだ」
「……」
「あの子はとてもクールな子だった。今のようなコミカルなやり取りなど想像もつかないくらいにな。……時々思うのだ。私達が期待を懸けすぎたせいであの子はいなくなってしまったのではないかと」
「……」
「あの子は何でも出来た。泣き言も言わず嬉々として稽古も勉強もこなすあの子に、私達はエイルターナー家始まって以来の天才だと手放しで喜んだが……子供らしい事は何1つさせてやれなかった」
「……そうか」
「ふん、詰まらんことを聞かせたな。……これを持っていけ」
これは、鍵? 一体何処の鍵だろうか?
「エイルターナーの屋敷の鍵だ」
「は?」
「勘違いするなよ? 貴様にくれてやる訳ではない。もし、もしもだ。シリウスを見つけることがあったなら、その鍵を渡してもらいたい。私達はお前の帰りをずっと待っていると、そう伝えてくれ」
「いや、でも……」
「これは依頼だ。冒険者風情が500万コルを集められるものか。もし息子を探し出してくれたなら、報酬としてその時点で残っている支払いは全てこのエイルターナーが受け持ってやろう。わかったら素直に受け取っておけ」
ハァ……そう言うこと言われると断れないじゃんか。この肉だるまめ、10年以上前に失踪した子供を探せってのにその報酬じゃ割りに合わない。
「仕方ないからその依頼引き受けてやるよ。ただし!」
「ただし?」
「俺があんたの息子見つけるまでに痩せておけ。その見た目じゃ見つかってもショックでまた家出されるぜ?」
「うぐっ……い、いいだろう! 貴様がシリウスを見つけるより早く完璧なプロポーションを取り戻してみせるとエイルターナーの名の元に誓おうではないか!」
「見つけた時痩せてなかったら支払い+俺に手間賃100万な」
「ふん! エイルターナーを舐めるなよ? その100倍くれてやるわ!」
「ヒュー!(物理的に)太っ腹~!」
ピコン!
《新たなクエストを開始しました》
《王城の修理資金を調達せよ》
達成条件
・残り5,000,000コル
《シリウスの輝き》
達成条件
・シリウス・エイルターナーの痕跡を探れ
やれやれ、面倒なクエストを引き受けちまったぜ。だが引き受けてしまったからには見つけ出してやるさ。待ってろよ、シリウス・エイルターナー!
「んっんん! お二人共、少しよろしいですか?」
「何かねソフィア殿?」
「和やかな雰囲気の所、このような事を言うのは恐縮なのですが――王の御前ですよ、控えなさい」
「「あ"っ」」
その後、存在を忘れられた王様は拗ねてしまわれたとさ。
二つ目のクエスト、実は主人公以外でも発生します。
発生条件はLUKが1000を超えた状態でエイルターナー公爵と会話することです。
髪色が似てる、声色が似てる、そして娘だったらこう育っていたかもしれない等々。割りとガバガバな判定で過去を語り始めます。
ただし、エイルターナー公爵は基本城の中や屋敷にしかいないためクエストフラグを立てるのは難しめなのです。




