呼び出しの理由
ちょい短め
ちょっとした騒動を華麗に乗りきった俺は、ついに王の住まう城に運びこまれた。
「結局最後まで簀巻きにされたままでな!」
「あぁ、すまん。下ろし時を見失ってな」
ようやく地面に下ろしてもらえたが、移動中ずっと俺の頭の上にいたセレネはまだ自分で歩くつもりはないらしい。
「そこ気に入ったのか?」
「ニャー」
「地味に首にくるから下りてほしいんだけどなぁ……」
「それじゃ俺は帰るぞ。お前さんはここで人が来るまで待っていろ」
「あれ、バルザさんも残るんじゃないのか?」
「俺はアドベントに戻って報告書を書かなくちゃならんからな」
マジかー。城で知り合いもなく1人っきりで放置とか、場違い感が凄くて居心地悪いんですけどー?
てかそろそろここに呼び出された理由を教えてほしい。
そんな事を考えているとドアが勢いよく開き1人の騎士が入って来た。
「貴様がライリーフとか言うやつだな! さっさと着いてこい!」
それだけ言うとスタスタと去っていった。はは、説明一切無しですか。
「ほれライリーフ、呼ばれてるぞ」
「うへー。やっぱ行かなきゃダメなのか……」
「当然だろ。騎士様直々のお迎えとあっちゃ従う他ないさ。それに早くしないと……」
ドスドスドスドス!
「貴様ァ! 何故着いてこない!」
「あちゃー、遅かったか」
「マジかー……」
ちょっとその怒り方は理不尽過ぎませんかねぇ?
「あ、ライリーフ君! 本当にごめんね! ちょっとタイミングが悪かったって言うか……本当にごめん!」
せっかちな騎士に着いて行った先にはソフィアがいた。
謝って来るってことは今回の呼び出しの原因はソフィアにあるってことなのだろうか?
「えっと、ソフィアは俺が呼び出し食らった理由が何なのか知ってるのか?」
「貴様ァ! ソフィア様にタメ口とは何様のつもりだァ!」
「いいんですエインガー。それは私が許可したことですから」
「何ですとぉ!?」
驚き、そして俺を射殺さんばかりに睨み付けてくるせっかちな騎士。
おかしい。この短いやり取りの中でせっかちな騎士の俺へのヘイトが跳ね上がったぞ?
「フシャー!」
「ぬぅ!?」
その殺気にあてられてセレネが騎士に威嚇を開始した。爪が頭皮に刺さってめっちゃ痛い!
「エインガー! セレネちゃんが怖がってるじゃないですか! 貴方は部屋から出ていきなさい」
「そ、そんな……考え直して下さいソフィア様! 部屋に得体の知れない男と二人きりなどとォ!」
「む、ライリーフ君は私の友人です。得体の知れない男なんかじゃありません。それにセレネちゃんもいるんですから二人きりじゃないですよー」
「くぅ、可愛い……!」
「おいあんた、心の声漏れてんぞ」ボソッ
「はっ!? う、ぐぅ……わ、分かりました私は部屋の外に待機しています。何かあったら直ぐに、直ぐにお呼び下さいね!」
よし、邪魔者は去った。これで漸く呼び出しの理由を教えてもらえるぜ。……てかセレネ、いい加減爪引っ込めてくれない?
「エインガーったら顔が真っ赤になっていましたね。職務中にお酒でも飲んだのでしょうか?」
「あの呟きは聞こえてなかったのか」
「何がですか?」
「いや、何でもない。それよりここに呼び出された理由を早く教えてくれ」
「そうですね。実は――」
エイリアンを倒した後、緊急事態が発生したので戻って来るように命令を受けたソフィアは即座に城へと帰った。
そこで王族が代々飼っているペットが行方不明になったと言う事を知らされる。
そして運の悪いことに王族が代々飼っているペットとはうちのセレネと同じフォーチュンダークだったのだ。
つい先程まで俺達と行動していたソフィアは、つい俺の事を話してしまったらしい。
元々フォーチュンダークは王族しか飼ってはいけない決まりがあり、誘拐の可能性もあるとして俺が呼び出された。
ソフィアの話は大体こんな感じだった。
「俺、おもっくそ犯罪者扱いやんけ」
「一応プレイヤーだってことは伝えてあるから、セレネちゃんが王族からいなくなった猫じゃないって分かれば罪には問われないと思うの。……私が口を滑らせたばかりに、本当にごめんなさい!」
「ああ、いいよ。間が悪かったなんてのはよくあることだしさ」
しかしセレネがメインの呼び出し理由だったとは……。フォーチュンダークって飼い主に幸運を運んでくれるんじゃなかったのか?
主人公にイライラな騎士はエインガー君だけじゃありません。
最強の騎士にしてめっさ可愛いソフィア嬢にはそりゃー多くのファンがいます。
そんなファン(騎士)達の前で「うぅ、私のせいでライリーフ君が捕まっちゃうかも」とか「ライリーフ君は許してくれるかな……」とか主人公の名前を普段の騎士モードではない少女モードで呟いていればヘイトが集まるのも当然である。
おまけ
ファン(騎士)達の会話
A「クソ、ライリーフって野郎は一体何者なんだ?」
B「俺達のソフィア様の御心をああも乱すなんて許せねぇぜ」
A「噂じゃ王族からフォーチュンダークを盗み出したってはなしだぜ?」
C「マジかよ!? とんでもない悪党じゃねぇか!」
B「……もしやソフィア様がああも気にかけるのはフォーチュンダークの力なのでは?」
A、C「「それだ!」」
A「つまりフォーチュンダークさえ手に入ればソフィア様にあんなことやこんなことをしてもらえる……?」
B「訓練の終わりにタオルで汗を拭いてもらえたり!?」
C「落馬したときに手を差し伸べてもらえたりも!?」
A「飲みかけの水筒を差し伸べて「お前もちゃんと水分をとらないとダメだぞ?」とかァ!?」
「「「Foooo!!」」」
王国は今日も平和である。




