第八話 パラライズドナイフ
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ドクターは現在、学者ギルドにてある実験を行っていた。
目の前にあるのは毒ポーションが注がれた桶と溝が入ったコンバットナイフが一振り。
そして当の本人はというと・・・。
「うーん・・・やっぱり出来ない・・・」
一つの問題に頭を抱えていた。
「やっぱりナイフを毒に浸すだけじゃ、状態異常が付与されたナイフを作るのは無理そうね」
その問題とは毒の状態異常をナイフに付与できないかという問題だった。
ドクターはPVP大会の参加に伴って近接攻撃を多少なりとも修めようとしていた。
(大会には強い人が出場するでしょうし、【赤紫斑毒の三角試験管】は強いけど流石に薬物だけで戦うのはキツイと思うし、近接攻撃も出来て不便はない。ナイフはサブウェポンとして扱いやすくて軽いし機動力を削がれないから状態異常を付与できたらと思ったんだけど・・・)
ドクターはナイフを扱おうと思った経緯を思い出し、今一度ナイフの情報を整理する。
「溝があるから毒は溜まるけど一時的だし、時間が経てば落ちてしまう。ナイフも毒だとマッチしないみたいだし、素材の問題かしら?となるとナイフ自体を変えるか、毒を変えるかそれとも薬の新しい素材を探しに行くか・・・」
しばし悩み込み、ハッとして立ち上がる。
「私は科学者、科学者は研究して開発する。そして【狂科学者】の職業もある。【狂医者】も医者の字が入っているから薬の開発も出来るはず!私は科学者なのだから無いのなら開発すればいい!」
自分に言い聞かせる様に自己完結して学者ギルドを出て森に向かう。
いつもより奥に奥に進む。既に森の近辺は探索仕切っているから探索で既にそういった薬草が無いことは分かっている。
無言で進み、希少な薬草や毒草があれば採取する。
一時間も進むと森が開け、山と町の様な物が見えて来る。
ウィンドウには『鍛冶と鉱石の町、ドイルト』と表記されている。
これにはドクターも心が高鳴った。
ここには鉱石・・・つまり新しい効果が見込めるかもしれないと。
更に鍛冶という事はナイフも見つけられるかもしれないと。
中に入ると所々からトンテンカンと鉄を叩く音が聞こえ、武器屋が所せましと並んでいる。
鑑定しながら進んでいると一軒の店で一振りのナイフを見つける。
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感応のナイフ STR+5
掛け合わせたものに感応して変化する『感応石』という鉱石を使用した白いコンバットナイフ。
このナイフは何も掛け合わせておらず、何かを掛け合わせて剣を作るときの基本に使用する。
ーーーーー
「おじさん!これ頂戴!」
ドクターは、「これだ!」と内心叫び、店のNPCに話し掛ける。
「これか?嬢ちゃんは鍛冶屋かなんかなのかい?」
「いや、私は科学者よ」
「おお!これは学者様でしたか!これはこれは・・・でもこのナイフは普通、鍛冶屋が買う物なんですが何に使うんですかい?」
「実験よ。私、学者だから」
「確かに、学者様ですもんね。ええとこれは・・・1万マネー丁度ですね」
「はい、これ」
「はい、確かに受け取りました」
ドクターはメニューからマネーを払い、ナイフを受け取る。
ナイフをインベントリに仕舞い、散策を再開する。
(もう、マネーが無くなっちゃったわね。どうしようかしら?後で回復ポーション売ろうかしら)
そんなことを思いながら散策をして行き、町の中央に到着する。
町の中央には巨大な鉱山が聳え立っていた。
入り口にはプレイヤーもNPCも入り乱れている。
ドクターは近場に居る人に話を聞きこの鉱山に関する説明を聞く。
どうやらここは所謂ダンジョンの様な場所らしい。
中には採掘できるポイントが有り、モンスターも闊歩しているとのこと。
近場の店で回復ポーションを売り、そのマネーでピッケルを買い、持ち物確認をして【赤紫斑毒の三角試験管】をインベントリから取り出し、魔物避けのポーションを己に使い、魔物を寄せないようにして鉱山の中に入っていく。
中は坑道にレールが敷かれ、ランプが灯されていて薄暗く、所々に採掘可能とアイコンが出ている。
「それじゃ早速」
ピッケルを振りかぶり、コツリと叩く。
するとインベントリに鉱石が入ったとアナウンスが鳴る。
その後一時間程モンスターを撃退しつつ鉱石を採掘する。
「こんなもんかしら?それじゃ、鑑定っと」
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石ころ 状態:最悪
ただの石ころ
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鉄鉱石 状態:普通
ごく普通な鉄鉱石。武器や防具、装飾にと幅広く活用される金属。
それなりに硬い。
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銅鉱石 状態:良
ほんの少しだけ珍しい鉱石。武器や防具、装飾にと幅広く活用される金属。
普通に硬い。
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ミスリル 状態:悪
希少な鉱石。武器や防具、装飾にと幅広く活用される金属。
とても硬くMPを流すと切れ味や硬度が上昇する。
全ての鉱石とマッチすると言われている。
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(ミスリルが出たのはラッキーね。残りは・・・ゴミね。後で売りましょう。それにしても感応石が出ないわね)
そう思っていると坑道の奥から悲鳴が聞こえる。
ドクターは何事かと様子を見に行くと、男女のパーティーだと思われるプレイヤー数名が真っ白い人型の岩に潰されてポリゴンとなって消えていくのを見る。
ドクターはズンズンと地鳴りを上げて歩く岩の塊について行きながら鑑定する。
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感応石ゴーレム 危険度:B
感応石を取り込んだまたは取り組まれたゴーレム。
状態異常耐性が高く、受けた攻撃に耐性を得る性質がある。
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(このゴーレム感応石が使われている!これで感応石を使った実験が出来る!)
早速とばかりにドクターは【赤紫斑毒の三角試験管】を振り、赤紫斑毒を生成する。
そして感応石ゴーレムに向かって投擲した。
当たった赤紫斑毒は見事に命中して感応石ゴーレムを溶かす。
赤紫斑毒は毒と言う字が入っているが実際には酸に近い性質を持ってるため状態異常耐性はあまり効果がないのだ。
そしてゴーレムが溶ける様子を眺めていたドクターはインベントリに感応石が大量に入ったのを確認してダンジョンから出る。
そして足早に学者ギルドに戻り、実験を開始する。
(まずは赤紫斑毒に砕いたミスリルを入れて溶かす)
ミスリルをすり鉢で磨り潰し、【赤紫斑毒の三角試験管】の中に入れる。
すると、ミスリルが溶けて水銀の様な液体金属状になる。
硬度が高いミスリルを溶かすのは流石特典武具と言ったところだが希少金属のミスリルをこんな使い方をしていると他のプレイヤーが見聞きしたら卒倒するほどの使用法だ。
(まず、第一段階は成功のようね・・・。じゃあ次の段階)
ドクターはそこに更に感応石をすり鉢で砕き、混入する。
これもミスリルと同じく溶けて、毒に溶かしたとは思えないほどの純白の輝きを放っている。
「成功!これで最終段階!」
思わず声を上げて作業を再開する。
純白の液体に、ある薬草を入れる。
それは。
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パララズ草 状態:最良
食べると重度の麻痺効果が出る薬草。
使用量を間違えなければかなり高額の麻酔薬が出来る。
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これを適量関係なく丸ごと入れる。
そうすると液体は金色の輝きを放ち、発光する。
それをドクターはゆっくりと感応のナイフの上から型を取り付けて流し込んでいく。
(後は乾燥するのを待つだけ!)
一時間後ドクターは慎重に型を外す。
中からは白い煙が出て来て、そして金色の輝きを放つ、感応のナイフが出て来る。
ドクターは鑑定をする。
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パラライズドナイフ 特性:極度麻痺 斬撃攻撃AGI低下付与 STR+10 AGI+5
物体との混合がしやすく硬度が高いミスリルに赤紫斑毒を混ぜた液体に更に感応石を混ぜ込み、その上にパララズ草を混ぜ劇薬となった液体金属を感応のナイフに型付けしたコンバットナイフ。
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「よっしゃー!」
ドクターは思わずといった感じでガッツポーズを取り、雄たけびを上げる。
こうしてクレアシオン・オンライン史上最も麻痺効果が付与されたナイフが完成したのだった
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