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第五十二話 六色属性腕

「下がりなさい」


一喝された、武者髑髏は引き下がった。

巨人はHPが減るにつれ、自動回復力が上がり、耐性も上昇した。

ジリ貧だった戦局が、巨人に傾き始めたからか、ドクターは引き戻しという選択をしたのかもしれない。守る壁が無くなったが、ドクターは揺ぎ無く。


「魔法実験から」


ドクターが意気揚々と、インベントリから取り出したのは、短杖。

尻に紫の宝石が付いたシンプルな装飾の短い杖。

軽く一振りして、頭の中で呪文名を唱える。


属性腕(エレメント・アーム)超魔(オーバー・マジック)


ブゥン。機械音にも似た、音声エフェクトと同時に、ドクターの背後に現れる六本の腕。それぞれの色を持ち、それぞれの力を持っている。


一つは、炎で創成された腕。炎熱の力が籠っている。紅朱。

一つは、水流で成された腕。激流の力が籠っている。紺碧。

一つは、雷で創成された腕。電撃の力が籠っている。黄金。

一つは、力場で成された腕。崩壊の力が籠っている。透明。

一つは、毒で創成された腕。万毒の力が籠っている。紫紺。

一つは、生気が抜かれた腕。憎悪の力が籠っている。漆黒。


指先を、巨人に向けて、六つの腕は浮遊する。どれも敵意を実らせている。

生気の無い腕以外は、全てエネルギー体で出来ているのだ。

スキルの『透明腕(レイスアーム)』に魔法スキルの属性を、腕の造形に押し留めたが故の結果。MPを多量に使い、生まれた腕は高密度のMPで編まれている。


「Go」


号令一斉。腕は一挙に巨人へ迫る。悪意を満ちさせて。

巨人が、振るった拳を受け止めたのは、透明な拳。

大質量の、青巨人腕は人間のそれよりも幾分でかい透明の拳で止められた。物理的ではなく、エネルギー的に。透明な腕の直前で、力が拮抗していた。

さらに、受け止められた巨人の腕が、崩壊していっているのだ。

無属性を密度高にし過ぎた為に、全てを分子レベルに崩壊させる力を得た。

拙いと思ったか、巨人は、腕を引き、口を開く。

攻撃を防いだ透明な腕は、巨人の力に堪えられなくなって、自らが崩壊し、消える。


吐息(ブレス)系の能力も持っているのですかな…?」

「可能性大ね。ま、任せなさい」


巨人の口から、白銀の粒子が漏れ出る。極寒の冷気を纏っていた。

口内には、白光が集束し、力を蓄えているのか、風圧が押し寄せる。

数秒後に、口からビーム砲にも似た、ブレスが発射され、ドクターたち一行を狙う。ブレスは、高レベルモンスターの限定された種が扱える能力。ブレスと言えば、ドラゴンなどの竜種が代表的だが、青の巨人のような、ジャイアント系モンスターが使えるのは、珍しい例。

しかしして、その威力は推し量る必要さえ無い。

高速で放たれた、ブレスは、ドクターのバリア手前で別の腕に止められた。紅朱の腕。


「私のMPの殆どを注ぎ込んだ、合成スキル魔法。簡単に破られるものではないわ。例え其れが、レイド級だったとしても、ね」


今日で何度目かの、MPを回復するポーションを飲み干したドクターが言った。言っていることは何一つ間違いなく、現実の事。

今さっき、現在起きていることも、現実。

紅朱の腕が、零度を超えるブレスを防御している。事。

マイナスに到達したブレスと、溶岩を凝縮した如くの紅朱腕。

両物が激突した結果のなど一目瞭然。

大差の気温度変化と、蒸気が立ち込め、辺りに散布される。

最終的に、共に消えることで、終わった。雪山の惨状は酷いことになっている。雪が溶けるどころか、地面が溶けて、融解すら始まっている。


―――お、おっかねえ…


マウロは今の十分間内で八回目となる痛哭を心中で告げた。

ミントは、カメラに類似した道具で、撮っている。顔は喜悦に満ちて、満足そう。


「今度はこっちの番よ」


一気加勢。

ドクターが反撃に出た。残った四本の腕で。

まず、飛来したのは、紺碧色の腕。鈍足ながらも先行して、編成突撃。他の腕は隠れるようにして飛行。


「OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!」


崩壊跡が残る右腕を温存して、左腕で殴る巨人。

おっとまた、巨人が悲鳴を上げる。次はなんと、肉が抉れた。

激流渦巻く水が押し込められた腕は、ドリルにも勝るとも劣らず。

だかこれも、やはり、消失。力に能力が耐えられなかった。

巨人は苦悶のうめきを溢す。長続きしなかったのだ。見えた肉片へ、紫紺の腕が突っ込んだのである。ドクターお手製の劇薬猛毒謎薬品物が無茶苦茶に混合させられて出来た腕は、巨人の体に作用した。

血肉に溶けると同時に、肌が泡立ち、肉が脈動し変色する。血液は凝り固まった。

巨人の顔の筋肉は硬直した。動きも鈍くトロい。


「OOOOOOOOOOOOO…!」


遂に名運尽きたかと思われた、巨人は猛る。

銀雪が体に纏わり、形成す。武者髑髏と同じような、形の武装。

一方で、北欧の全身鎧のデザイン武具であったが。

濃縮された、雪は透き通った武具へと転じた。硬度は、高級金属を超越する。

ドクターは無言で、腕を振るった。連動して、漆黒の腕が巨人の足へと、武装の上から絡みついた。途端、弾けた。トマトが破裂するような音で、だ。

黒いモヤが広がり、巨人の動きを九割以上止めた。

恨み辛みを懲り固めた、呪いの腕は、代償にすることで、如何なる状態異常をも引き起こすのだ。今回は、AGI低下のバッドステータス。強化された巨人の動きを止める働き。

間隔開けずに、黄金の腕が巨人の顔面へと突撃した。

言うに及ばず、電撃の応酬。麻痺の状態異常と、大ダメージを植え付けた。


コンコン


つま先を地面へ、立てる音。音源はドクター。

喜悦に頬を釣り上げて、ドクターは宣告する。


「ちょっと、本気出しましょうかね」

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