第四十四話 王都動乱・終章 すぐにやられるキノミヤ
一方、ネロ対キノミヤ。
ネロは小さいながらも背丈に迫るチョッパーと鉈でキノミヤをミンチにしようとする。しかし、キノミヤもトッププレイヤー。培った技術で見事に受け流していく。
動のネロに、静のキノミヤ。真逆の二人が繰り広げる轟音の喧騒。
「マジで待てよ。少年」
「…」
聞く耳を持たない。
やはり鳴るは耳障りな金属音。
ここでキノミヤは話が通じないことを悟ったらしい。
「俺はNPC殺さない主義なんだけど…仕方ないか」
「?」
キノミヤは短く何かを囁いた。
すると右剣に火炎が、左剣に冷気が纏う。
ネロは無い心臓を震わせた。なぜならネロはドクターにより蘇った存在。アンデットである。アンデットの弱点は光属性と火属性。そして上位属性の神聖と炎属性である。つまり、キノミヤの双剣は天敵である。
「…ぅ」
ネロはスキルを発動する。
その名も『初級暗黒魔法』。闇属性の上位派生暗黒魔法の初級。
双剣に闇を纏う。これで武器での性能はキノミヤよりも優っている。
次いで、ネロの背中から何かが突き出す。
それは白い物体―――骨だ。
ネロの背中から四対の巨大骨腕が突き出ている。
「なんじゃそりゃ?」
「…」
答えない。
この異様なネロの風貌の原因はもちろんのことドクターのせいである。
ドクターはネロに対して『狂った手術』で外骨格蜘蛛という骨だけの蜘蛛をそのまま移植したのだ。ネロの今の種族名は『小骨上位不死』。上位のアンデット系モンスター。
「ま、やりますか」
キノミヤが駆けだした。接近して再び衝突。
キノミヤは双剣を構えて、コマのように回転しながら斬りつける。が、ネロは骨腕の二本を使って防御する。
「…」
「あっぶね!?」
骨腕は双剣を掴もうとしてキノミヤは速攻でバックステップ。残る六本の骨腕で捕まえようとする。モンスターを丸ごと埋め込まれたネロのSTRは300を超えている。掴まれた時点でゲームオーバー。
「…ぅ」
さらにそこへ豪剣の二刀が襲い掛かる。キノミヤは防戦一方でそろそろ負けることは明確。
「なんか普通だね」
「うるせぇぇぇぇぇぇぇ!??」
剣を捌かれたキノミヤは骨腕に押しつぶされてポリゴンに変わり、果しても負けるキノミヤであった。
場面は変わってドクター。
ドクターが対面していたのはマコトパーティーであった。
【勇者】マコト。男子男性からの評価はもう上がることはなく、二つ名は【ヤリチン野郎】だとか【もげて欲しい奴NO.1】だとか言われているマコト。
「久しぶりねえ?実験希望者かしら?」
「違うわ!?」
「そうなの?じゃあ、お帰りを」
「帰るかぁ!どうせ貴女が起こしたことでしょうコレ!」
「大正解」
「いや、止めろよ」
「だが、断る、わ」
遭って冒頭から漫才を繰り広げる二名。
そこへさらに乱入者が来る。
「これはこれはドクター様」
「「「「「え?」」」」」
その場にいた全員の声が重なった。
視線のその方向には聖職者が着るような修道服を着たミントがいた。
PVPイベント準決勝【破壊者】ミントだ。
ミントはあの後、王都で職業をリセットして、【魔法使い】を選択。その後に【聖職者】を獲得。そして二次職に【狂信者】を取り、【魔法使い】を【宗主】にジョブチェンジ。そしてついに、王都で新ギルド『ドクター職人協会総合教会』を作成した。
これがつい先週のことである。
ドクター職人総合協会は入信者もといギルド加入者は二千人を超えて、各町、街や国に支部を十以上作っている【職人】を中心とした宗教ギルドである。
その時には彼の名前は【狂信者】に変わっていた。
「え?ミント…だよね?」
「おお!これはマコト君では無いですか!」
「マコト君!!??」
マコトは顔色を変えて膝を付き、マコトパーティーは信じられないと放心する。
既にミントのドクターへの感情は信仰の領域まで行っている。
「ミント久しぶりね」
「なんという…!名前を呼んで頂けるとは…」
「聞いてる?」
「聞いておりますとも!」
「ああ、そう」
最初は驚いていたドクターも既に持ち直している。動じていない。
「私の言う事聞いてくれるかしら?」
「もちろんでございます」
「ならあの、マコト君のパーティーメンバーを足止めしといてくれる?」
「了解いたしました」
ミントはインベントリから三メートルを超す、鉄柱を取り出す。先端には鉄球が付いている。
「それ、ナンですかミントさん」
マコトパーティーの一人が声を掛けた。
「ん?これですか?これはメイスですよ」
「「「「メイス」」」」
「はい。メイスです」
ミントスマイル。
いい笑顔で対応するミント。
同時に振り回してマコトとハーレムメンバー兼パーティーを分断する。
「なっ!退いて下さい!」
「いえ、断ります。ドクター様が足止めをしろと仰ったなら私は神命に下るのみ」
ミントはパーティーとの戦闘を開始した。
「はぁ…本当になにがあったんだよ。何かしたんですねドクターさん」
「特には何もしてないはずなんだけどね」
やれやれ、と頭を振ったドクターにマコトは相対した。
ドクターはその対応に笑みを作ると指を鳴らす。
マコトはイベントの時の様に植物か来るかと警戒するが別のことが起きる。
大樹がドクターとマコトを中心に覆い隠し始めたのだ。
木のドームを作り、覆う。
形状は球体闘技場
中には木々がいくつも巻き込まれている。
「さぁ、私の実験に付き合って頂戴?」
「断ります」
「拒否権はないわ」
ドクターはパラライズドナイフを構え、同時に指にMP糸を絡ませた。
「実験開始」




