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第四十三話 王都動乱・急章 復讐の行方と嘲笑

・・・の書き方(表示)を変えました。

「クリフォト、適当に薙ぎ払って」


命令一つにより動き出す冥界樹クリフォト。

意思を宿した大樹は巨大な枝葉を振り回す。すると葉っぱが揺れて、弧線を描きながら地面に突き刺さる。


大質量の葉はプレイヤーに当たり、一撃死させ、木っ端みじんと共に形を変容させる。

それは前イベントでマコトを滅多打ちにした鉄砲瓜や食虫植物の数々。

他にも葉から直接、毒ガスが漏れ出したり、破裂したりやっていることは無茶苦茶である。だが、効果は絶大。身体を打ち抜き、噛み砕き、絡めとり、腐食し、微塵となり、両軍の兵を分間隔でパーセント単位で削っていく。


「生体機動要塞とでも名付けようかしら」

「なんかエグイでやすね」

「…」(コクコク)


マウロは途方もない強さに呆れ、ネロは同意するように激しく頭を振っている。

ちなみにだが現在三人は大樹庭園の中心で優雅にティータイムを楽しんでいる。

この場所はドクターが冥界樹クリフォトに命令して作らせた全てが完全自然物の箱庭だ。テーブルもイスも紅茶に至っても冥界樹に咲かせた花から採取した蜜を利用したもの、というこだわりの場所である。


「「「ぎゃあああああああ!?」」」


クラシックの代わりにと下界から聞こえる悲鳴を耳に茶を楽しむ三名。

とはいえ、ここにもトッププレイヤーとも言うべき者が上がって来る。


「見つけたぞ!」


その者は、当たり障りない茶髪に茶眼。両手に両刃剣。パッとしない顔を見て、ドクターは―――


「誰?」

「はぁ!?」


覚えていなかった。

ドクターは悩む仕草を見せ、顎に人差し指を当てる。


「あ、思い出したわ」

「思い出したか!」

「確か、キノシタよね?」

「キ・ノ・ミ・ヤ・だ!!」

「ああ、そういえば。そんななまえだったわねキノムラ」

「だから、ちがぁぁぁぁう!」


キノミヤは仰け反ってブリッジを作る。余程、堪えたようである。

そう、彼は【模範解答】ことキノミヤである。

PVPイベントでドクターと一緒に投身自殺させられて、後に色々な人から肩を叩かれたキノミヤである。最近、ステータスは均等振りにして普通男と呼ばれているキノミヤである。余談だが名前をきちんと憶えているのはGMとマコトだけである。


して、キノミヤもトッププレイヤーを張っている者。実力は見合っている。

冥界樹の葉を避け、幹をよじ登って来たのだ。


「でも、今は貴方の相手してる程暇じゃないの」

「なぬ!?」

「ネロ」


ネロがキノミヤの前に進み出た。

いつの間にか両手には大きなチョッパーと鉈が握られている。

体の半分を覆う程に大きな刃物を持つネロにキノミヤは後ずさる。


「ちょ、ちょ、待てな。少年。その女の人、悪い人なんだ。だからちょ、ま―――」

「知らない」


高めの中性声でネロが声を発し、駆けた。

その時にはもうドクターとマウロは後ろを向いて、歩いていた。

次いで聞こえるは、金属と金属との衝突音。


ドクターは振り向かない。それが恩返しのための行為だとしても。だ。

なぜなら、少年が狂科学者のスキルを用いて不死の存在へと至った時にはもう、彼女の作品になったのだから。


(だから。だからこそ)


少年は考える。

己が救ったのが危険人物であること自体は理解している。けど、救ったのは自分の選択なのだから、後悔は無いと。

ならば、己は成す。

彼女が望むは戦闘の研究データなのだ。だったらそのために戦おう、と。


ネロは奔った。

振りむかない我が主の為に。


主人はそのことを知ってか振り向かなかった。ただ、白衣をはためかせた。

従者じみたもう一人の男は目を復讐に燃やしている。

大樹庭園を踏み歩く。


堕ちた大樹の上を歩く、彼女等は戦場を睥睨する。

そこには生ける者達が協力し、冥界樹の攻撃を凌いでいる光景が伺える。

両国の兵士達は、プレイヤー達は一時協力してドクターを倒すことを決めたのだ。


物語ならば、これは美談として語られて両国の友好の懸け橋になるところだが…


「は…は…」


嗤い声が聞こえた。嘲笑。


「ははは、はっはっははははははは!!」


その声は美しく、悍ましい。戦場にこだまする。

銀髪に揺れる、横顔を伺う下僕。


「あ、はは!ホント下らない」


不意に声に冷たさが灯った。


(ああ、悪役ってこういうことなのかしら…)


ドクターが嘲笑に飽きると、マウロが突如動いた。

手をドクターの後頭部の後ろに持っていき―――


「抜け目ないでさぁ。あっしは忘れたことはないでさ。あんたは?」


―――…矢を掴み取った。


「ふむ。オレの記憶に死体臭い男の記憶は無いな」


黄金弓に刻印の入った矢。【万矢万貫】である。

マウロは懐から透明なダガーを一振り抜いた。

透明な刀身には紫色の粘液が浮いている。


「好きにやりなさい。悔いの無いように」

「こりゃあ、しくじれねぇ命令で。(あね)さん?」

「お望みは他に?」

「いやぁ、これ以上無いでさ」


マウロは(かぶり)を振った。

その間もマウロリーは律義に待っている。


「最後のトキだ。遺言は以上かね?」

「最後とは限らねぇさ」

「そうか。ならば抗って見せろ」


両雄は吼えた。

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