第四十一話 王都動乱・急章 戦争開始
―――二週間と数日後
ドクターは眼下の兵士、徴兵、プレイヤーの軍勢を見下ろしている。
この軍勢はつい昨日、通称【王国】と【帝国】にいるプレイヤー全員に配布された国級依頼の結果である。
王国側には王都防衛のクエスト、帝国側には王都侵攻のクエスト。
このゲームの設定には王国と帝国は仲が悪いという公式設定もあったことによりプレイヤーはそのシナリオに沿ったものかとほとんどのプレイヤーが速攻で受けたが、一部、疑問に思ったプレイヤーも居た。
その疑問とはクエストの受託画面に公式番号が無かったことだ。
クエストには公式が定めた番号が存在しているが今クエストには番号が存在しなかったのだ。
その理由とは―――
「まさか、ユニーククエストになっちゃうとはね」
ドクターのせいである。
ドクターが起こした行動の理念はただの一つの言葉に収まる。
復讐である。そして八つ当たりの対象とは【万矢万貫】。復讐と言っても本質は八つ当たりであり、ゲーム世界で救われたからといって普通はそうはならないだろう。
だからこそ、これはただの八つ当たりであり、ドクターの義理である。
というか、そもそもこれは復讐でもなければ八つ当たりにすら該当しない。
その理由はドクターの隣にいる存在が根源である。
「ねぇ、貴方もそう思わない?ネロ」
ドクターの隣にいる全体的に色が灰色の少年が頷いた。
ネロと呼ばれた少年は顔を上げて顔を晒す。
その顔はスラム街で【万矢万貫】から助けてくれた少年と全く同じであった。
その少年ことネロはドクターが『死霊術』で蘇らせて『狂った手術』で見た目を整えた使い魔である。
そうしてネロは使い魔になったが、使い魔であると同時に従魔でもある。
先日ドクターはネロの為にスキル屋で【調教師】系統の職業スキル、『従魔契約』を231万マネーで購入している。ちなみに資金は現在進行形で競売所で稼いでいる。
『従魔契約』のスキルの効果はモンスターを従魔として契約でき、名を授けることが出来るスキルだ。
これが『従魔契約』の真骨頂とも言える。
そもそも【召喚士】がモンスターを召喚できるのに、【調教師】などと面倒な手順を踏む職業があるのか。それは『従魔契約』により契約したモンスターを強化出来るのだ。
名を授かったモンスターはステータス値がおおよそ1.5倍になるのだ。
かくしてこれはドクターの復讐や八つ当たりではなく、ただのやり返しである。
だが。
だが、どうして。強いとはいえ一プレイヤーのドクターが戦争などを起こせたのか。
その方法とは、単純明快に帝国と【万矢万貫】を煽ったのだ。
まずドクターはマウロに帝国へ【槍鬼】が死んだと情報を流し、長年【王国】と仲が悪い【帝国】へ戦争の抑止力になっていた英雄の一人が死んだと伝え、戦争への導火線をちらつかせた。
そしてその後ドクターは王国の王都近郊の村や集落、農村が税として作物を育てるために使用している川の源流―――水山主の湖山―――へと趣き、主を使い魔にした・・・あとに、以下の物を湧き場に垂れ流した。
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除草薬グレート・スペシャル 状態:最良
除草薬を魔改造した除草薬。名前はふざけているがこの除草薬を植物に一滴垂らすだけで半径一メートル以内の植物を枯らしてしまう程の効能がある。
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これのせいで税として納める作物がなくなった農村等は兵士から懲罰を受けたがドクターにはなんのその。
で、このことがあり、王国の景気や相場は大破綻。火の粉が散った。
帝国はそのことを知り、侵略の一件へと漕ぎ付け、導火線に火が付いた。
そこにドクターの意図を察したマウロが【万矢万貫】の周辺の貴族や大商人などの権力者に『【万矢万貫】が近頃荒れている帝国を討伐する』という噂を流し、それは直ちに急速に権力者のネットワークへ広まり遂には王族までに広がり、ラインライト王国の国王は【万矢万貫】へと帝国軍討滅の王命を下した。
結果的に大爆発を起こした。
まぁ、【万矢万貫】は英雄なだけあっておかしいと思ったのか周辺を調査。
【槍鬼】と同じく公爵の権力を持つ【万矢万貫】は見事にマウロのことを突き止め、マウロは頭を矢ですっぱ抜かれた。
けど、しかしその頃ドクターの持つ、マウロより担保に貰ったペンダントが発光し、死亡したマウロの方向へ光の線を紡いだ。
ペンダントを解体して原理を調べたいドクターはその気持ちを押さえて緊急事態だと、マウロへと直行し―――。
「やっぱりマウロはいい仕事したわね」
「いや~、それほどでも」
ネロの反対側からも声が響いた。
そこにはアンデット化したマウロがいた。
「これでネロとマウロの弔い合戦になったわね」
「死んでいるのにこうしていて弔いになるんでやしたら」
マウロはおどけて、ブラックジョークならぬアンデットジョークをかまし、二人に見事にスルーされた。
「でも、殺るわよ。【万矢万貫】」
「「はっ」」
晴れて従魔になった二体は敬礼し、ドクターは大胆に、不敵に、笑みを吊り上げた。




