第四十話 王都動乱・破章 MP糸実験
これで破章は終わりです。次話からはこの王都動乱のラストに近づく急の章に移ります!
「じゃ、やっちゃいなさい。あっ、なるべく傷はつけないようにね」
無茶苦茶な要求を配下に下したドクターは休みの態勢に入る。
だが、物言わぬ半人半獣の不死者は大蛇へと相対する。
「―――・・・!」
エンシェントスネークは自身と同格、または自身以上の力を擁するかもしれない存在を相手に警戒を更に強めて、とぐろを巻く。
一方、不死半人半獣は片手斧を構えて飛び掛かりの姿勢に入っている。
「!」
下半身の半獣の力を用いて、速攻に飛び掛かる。
その速さは不死となったことで生物だった頃の限界を超えている上に、エンシェントスネークに掛かっている状態異常により優位に立っている。
片手斧は風切り音を鳴らし、首へと注がれるが、直前に鱗が逆立ち受け止める。
そして止まった隙に巨獣の体が蠢き、半人半獣の体を締め付ける。
片や、半人の腕で押しのけ半獣の馬力で逃げようとするが、片や、更に締め付けて軋みを上げさせる。
その様は特撮の怪獣決戦。
どちらも巨体のせいで余計に大迫力に見える。
しかし、この場には他にも仲間がいることを忘れてはいけない。
「「「カタカタカタ」」」
肉の付かない顎を鳴らしてエンシェントスネークの体に張り付いているのは骸骨山賊などの配下達。
鱗に武器を差し込み、一枚ずつだが剥がして行く。
エンシェントスネークは苦悶の悲鳴を上げるが、ここで離せば己が斧により断ち切られることは自明の理。自己回復能力もある為、小さなダメージは無視する。
が、またも乱戦に参入する物が現れる。
「流石に見てるだけってのもね」
インベントリから取り出した椅子に座って観戦しているドクターが声を上げる。
実験厨にして狂科学者のドクターが素直に見守る訳が無かったのだ。
(このゲームの魔法系スキルはイメージでの発動。ということはMP自体もイメージで操作出来るのかもしれない)
ドクターはそれから頭の中でMP―――エネルギー的なモノを想像し、体外に排出するイメージを思い浮かべる。
すると・・・。
「出た、わね」
≪『初級無魔法』スキルを取得しました≫
ドクターの指先からは半透明のひも状の何かが浮き出ている。と、同時にスキルの習得音が鳴る。
そして配下が足止めをしている間に糸を検証し始める。
まず最初に、糸を一定量伸ばし宙に浮遊させる。
「・・・これは面白いことが出来そうね」
MPの糸を操り、星やハートなどの形を作る。習得したばっかりのスキルを巧みに操るドクター。
細糸を編み込んでいき、一本の糸を作り、切っ先を鏃の様にする。
矛先をエンシェントスネークに定め―――射出。
高速で飛来する糸はワイヤーの様に硬く、エンシェントスネークの尻尾の鱗を貫通する。
「―――ッ!?」
「ふ~ん。応用とか色々効きそうだし、便利ね」
ワイヤーを通して尻尾を地面に縫い付けられた大蛇は力を緩める。
その隙に抜け出す不死半人半獣。
その間にもドクターは先ほどと同じく糸を何本も同時に編み込んでワイヤーを作成している。
出来次第に順次射出して地面に縫い留める。
魔力回復ポーションをがぶ飲みしているドクターは標本になった実験体に近づく。
「仲間というか従魔的なのにするのは確定だったけど自己回復能力があるなら別よね」
実験が始まる。
大蛇は体をうねらせて逃げようとするが配下達に体を押さえつけられる。
「ほいっ、と」
ドクターはMP糸を三つ編みにする。
三つ編みにした糸を近くの木に巻き付けて投擲する。
すると、糸を巻き付けた木がボコッ、と轟音を立てて抜けてエンシェントスネークに衝突する。
糸を起点に投擲することによって『投擲』スキルと『強肩』の称号を発動させたことにより、ドクターのSTRでは持ち上げられない木をも持ち上げたのだ。
それなりの太さと重量があった木をぶつけられたエンシェントスネークは牙が折れ、顔がひしゃげる。
が、そんなことも気にせずに次の行動に移る。
「よっ、ほっ」
糸を全ての手指に巻き付けて動かしてもう片方の先を骸骨山賊の四肢に結び付ける。
指を数本動かすと連動して骸骨山賊の四肢が動く。
「・・・この使い方はあんまりできそうにないけど、一応練習しておきましょうかね」
ドクターはそう呟いて大蛇へと視線を戻す。
潰れた頭部が修復された大蛇の姿がそこにあった。
「はい、次」
魔力ポーションを飲みながらワイヤーを作って握り、天に向ける。
しならせながら振り下ろす。
ビシィィィ!
鋭い音がしてエンシェントスネークの体が一部裂ける。
「斬属性系の攻撃も可能・・・っと、そろそろ始めないと予定が遅れちゃうわね」
ドクターは実験を一旦辞めて、エンシェントスネークに向かって『死霊術』スキルを発動した。
エンシェントスネークは声にならない獣声を上げて、暴れる。
無謀な抵抗はすぐに終わり、鱗が真っ黒に染まった大蛇が生まれる。
「『鑑定』」
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
PLドクターの配下:古代不死大蛇
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
「良い感じじゃない」
そしてドクターは山の主を引き連れて水山主の湖山を立ち去った。
・・・・・・最後に、源泉に何かを投与して。




