第三十七話 王都動乱・破章 狂科学者は暗躍する
これからは少しだけ投稿が遅くなります。すみません・・・。
試験があるのです・・・。
「あっしは【万矢万貫】を殺す・・・までは行かなくても失脚ぐらいはさせるまで死ねないのでさ。そんなあっしに何をやれと仰せでございやしょうか?姉御」
復讐心による黒い感情とドクターへの尊敬、無力な己に皮肉を込めた返事にドクターは・・・。
「私にもね、恩人がいるのよ。死にそうになった時にね」
「恩人?・・・もしかして」
「それから先は想像にお任せするわ」
たった三日間居なくなるだけなのに、我欲の為に生きたいと願った願いを10万マネーで命を賭して救ってくれた少年を想起するドクター。
その顔が、表情が哀愁を漂わせ、怒りを孕む、ドクターが自分に重なったのかマウロは嘆息して、
「・・・復讐、でやすか?」
「そう。私にもその【万矢万貫】とか言う奴に借りがあるものだから」
そう問い、間髪開けずにドクターは答えた。
呼応するかのように生命を宿す義足、【屈服せし巨人王の義足】の疑似的な血管が脈動した。
マウロは己が父親の仇が、力を持つこの女性と同じ復讐相手なのかと思い、少しだけ心を躍らせた。。
「そ、それであっしは何をやればいいんでさ・・・?!」
自分で思っていたより精神は高ぶっていた様だ。とマウロは早口になった自分を恥じた。そして目の前の彼女の言葉を待った。
「まずは、その【万矢万貫】とやらの周辺に戦争に参加するとか情報や噂を撒きなさい」
「戦争、でやすか?」
「そう。で、その次にはどうにかして帝国に【槍鬼】が死んだと同じく情報と噂を流しまくりなさい。それで私と貴方の復讐の場は完成するわ」
マウロはドクターの話を聞き、咀嚼し、覚悟を決めたかのように頷いた。
眼は爛々と輝き、ヘドロの様な思い、濁った光を携えながら。
「姉さん何処へ?」
「私もちょっと準備を、ね」
ドクターは席を立った。
「それならばこれを持ってて下せえ」
「・・・・・・これは?」
ドクターが渡されたのは錆びてはいたが中に少年と二人の男女が描かれたペンダントであった。疎いドクターであってもこればかりはマウロにとって重要な、それも家宝や宝物に匹敵する価値を有すると悟った。
「それはあっしが幼少の頃になけなしの金で魔道具で撮ったらしいものでさ。真ん中の餓鬼があっしでさ。それで・・・それで・・・左があっしの父親で右があっしの・・・病んで死んだ母でさ」
「そう・・・」
魔道具はプレイヤーで言うマジックアイテムと呼ばれるものだ。
この世界では前程にも述べた通り、かなり高価である。
それがスラム街に住んでいるマウロが持っているということは幼少期かなり両親に愛情を注がれていたという事に他ならない。
「それを担保に持ってて下せえ」
「確かに預かったわ。貴方の思い」
ドクターはそう言い残し、何処かへと去った。
きっと何かしらを成しに行ったのだろう。彼女が無意味なことをしたことはないのだから。
マウロも重い腰を上げて、酒場を出た。
向かう先は帝国に居る偶に情報交換をする商売仲間の情報屋と通話出来る場所。
帝国の彼になら任せられる。と。
「さァ、何をしてくれるか見せてくだせぇ。姉さん。あっしはいつでも待っていやすから」
情報屋の自信に満ち溢れた背を見せた彼女への呟きは乾いた空気に消えていった。
これから三週間後、クレアシオン・オンライン内、プレイヤー数千名を巻き込み、NPC数万名を動員した国級依頼『帝国戦争・対王国』と国級依頼『王国防衛・対帝国』が始まるとは誰が予想出来たであろうか。
混沌を振りまくまで残り、504時間・・・・・・。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
「ここが王国周辺の農村、ねぇ・・・」
情報屋との会合から数時間後ドクターは王国近辺にある農村集落や農村を駆け回っていた。
「おや、学者様ですか?ここは何もないところですがごゆっくりどうぞ」
「好きにさせて貰うわ」
農民のAIがドクターに気づいては「学者様」「学者様」と呼び掛けては去って行く。この世界はポーション類がやたら少なく、ポーションは体力―――HP―――をすぐに回復出来、魔法を扱うものでなくとも高額ではあるものの買えるからしてポーション類を製造、販売する【学者】系統の職業の者を尊敬し、崇拝するのだ。
だが、それがプレイヤーということもあるだろうが挨拶してしまう。そうしてしまうのだ・・・それが狂った科学の学者であっても・・・だ。
「ふふ・・・」
聞く者の不安を煽る声で軋むかに笑うのは女学者。
それを農民は友好の証として受け取り、にこやかに笑いかけ、接す。農具を持って作業に戻る。この広大な畑を耕すのだろう。のんびりと、ゆっくりと朗らかに作業をする。
これから起きる二つの不幸を知りもしないで。
それよりも知っているだろうか?
戦争で一番被害を被るのは農民や町人だという事に。




