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第三十四話 王都動乱・序章 目には目を

やっと!やっと!10000ポイントを超えました!

皆様、本当にありがとうございます!

辰砂(しんしゃ)という鉱石を知っているだろうか?

辰砂は不透明な赤褐色の塊状、あるいは透明感のある深紅色の菱面体結晶として産出する。

中国の辰州―――現在の湖南省近辺―――で多く産出したことから、「辰砂」と呼ばれるようになった。日本では弥生時代から産出が知られ、いわゆる魏志倭人伝の邪馬台国にも「其山 丹有」と記述されている。漢方薬や漆器に施す朱漆や赤色の墨である朱墨の原料としても用いられた。

そして何よりもの特徴はその別名にある。

辰砂、別名”()()()()”。

それが辰砂の別名だ。

賢者の石とは中世ヨーロッパの錬金術師が、鉛などの卑金属を金に変える際の触媒となると考えた霊薬である。人間に不老不死の永遠の生命を与える至高の神薬(エリクサー)とも考えられていた。

錬金術に置いて賢者の石は最上位の理想に当たる。


また、辰砂は()()の原料にもなる。

水銀―――少量でも触れたり、接触している空気を吸ったり、摂取するだけで死に至る、唯一の液体金属―――の原料である辰砂をダンジョンから見つけたドクターは当然保存していたが今回の公爵暗殺依頼に伴い、虎の子を出したわけである。


どういうことかと言うと、水銀は昔に賢者の石と同等の物と考えられていたのだ。

その猛毒の水銀を辰砂にスキルで包めばもうそれはこの世界においても正真正銘、賢者の石に見えたのだろう。

だからこそ、不老不死の妙薬、その賢者の石を欲した公爵と暗殺法としての水銀は一致したのだ。


先程の悲鳴が聞こえたのはドクターがついさっき出て来たディアロス・ポリガルド公爵邸からだ。

竜の血肉を喰らい、二百年もの年月を生きた超人も内部からの猛毒攻撃、さらにドクターの持つ称号の『万毒の王者』をフルに活用したからには耐えられないようだった。

【槍鬼】はこうして二百数十年の生涯を閉じた。

だが、それは周辺国家、通称“帝国”のラインライト王国侵略の抑止力になっていた“英雄”の一人の損失に他ならなかった。公爵ともなれば情報の拡散は止めようにも怒涛の勢いで加速することだろう。

そんなことはつゆ知らずドクターは足を止めずに公爵邸から離れるが―――


「いたぞ!あいつだ!こっちだ、こっち!」


王国の英雄、はたまた王国貴族の爵位第一位の公爵を暗殺した相手を()がすはずもなく、公爵の私兵と憲兵がドクターを追い、やって来る。


「ヤバッ!逃げなきゃ!」


見つかったドクターはスラム街に向かって走り始めた。

街中での逃走劇。飛び交うのはそっちに行ったぞ!、や二番通りに向かえ!、等の怒号と弓や、スリングショットから放たれる石などの投擲物の数々。

ドクターは走りながらもインベントリから布を一枚取り出し、顔に巻く。顔バレ防止のためだ。

顔を見せて公爵邸に顔を出して行った時点で顔バレをしそうなものだが、この世界に監視カメラなど無く、あるのは民衆からの情報を頼りにした似顔絵と魔法による紙への転写がほとんどだ。ながら公爵邸には【剣士】や【守護兵】しかいなかったので問題はなかったが街中だとそうもいかないのだ。

あちこちから民衆やイベントか?と顔を出したプレイヤー達を押しのけ、スラム街に突入するドクター。

そこに飛燕の速度で何かが飛来する。


「あぐっ!?・・・矢?」


ドクターの右片足が吹き飛び、激痛に顔を歪め足元を見る。

そこには金の装飾がなされた銀の矢があった。

吹き飛ばされた足は数回、汚いスラム街の地面を跳ね、ポリゴンに変わり空間に消え、背景には憲兵の怒声。


「こんなとこでっ、捕まる訳にはいかないのよ・・・!」


アップデートの【現実遊戯】により死亡するとデスペナルティにより、ログインが三日出来なくなるのだ。ゲーム好きで現在ニートのネトゲーマーのドクターは三日も出来ないなど我慢出来るはずもない。


回復ポーションで状態異常の出血を回復し、赤いモザイクの掛かった断面を止血する。

『使い魔生成』スキルを発動して、ワイルドウルフを生成。のしかかる様な形で騎乗し、逃走を開始した。


ほどなくして残った片足を引きずり、スラム街の陰に逃げ込む。

未だ、ドクターは逃げ切れずにいる。

スキルにより生み出したワイルドウルフもまたも謎の銀矢により撃ち抜かれ、落馬ならぬ落狼し、なんとか逃げ込んだのがマイホーム付近の陰の薄闇だった。

兵たちはスラム街を閉鎖して、ネズミ一匹通さない体制である。

逃げ場はもうないと思われたドクターに気配が近づく。


「少年?」


気配の正体は先日ドクターがスラム街にマイホームの下見に来訪していた時に襲ってきた少年であった。

無表情なその少年はドクターの肩を持つと、よろけながら歩き始めた。助けるつもりのようだ。


「いいの?貴方まで死ぬわよ?」

「・・・」


いつかの様に無言で反応しない。ただ一つ頷くのみ。

そして幸運にも兵に見つからずマイホームに到着した。

やっと、と油断したところでドクターの『予知・狂眼』に反応が。

スキルにより、矢の射線はくっきりと表され、ドクターの心臓を狙撃していた、と同時に青い空に瞬きが光る。


「!?」


かくしてドクターは電脳世界より三日と言うひと時姿を消す・・・はずであった。

窮地を救ったのは少年であった。

少年はドクターを突き飛ばし、回避させた己が貫かれる。運の悪いことに矢は少年の臓器を抉り、貫通する。【狂医者】の職業を持つドクターにすら助けられない状態に至っていた。

だが、その行為は無駄ではなかった。

ドクターは反動でマイホームに入り、貫かれた少年も後々引き込む。

片足を失ったドクターはこと切れた少年を見下ろし、ポツリと内を吐く。


「・・・・・・礼には礼で返さなきゃ、ね」


それは感謝と怨嗟と自責の念が籠っていた。

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