第二十四話 決勝戦【勇者】&【勇者】視点
機械工学と錬金術どっちが好きですか?
『さあさあ!皆!遂に決勝戦だ!』
「「「ウォォォォォォォォォォ!」」」
GMの声がドクターの個室に聞こえ、歓声も響く。
ドクターは作業を中止して、個室のテレビを見る。テレビにはプレイヤーが手を振り上げ、興奮しているのが見える。
「決勝戦、ね・・・」
感慨深く、呟く。
これまでの戦いの記憶を漁る、ドクター。
それ以上にストレスの記憶が蘇る。主にGMや運営関連でそれなりに苦労している記憶。
「・・・やめましょう」
記憶を振り払った。
『それでは、決勝戦で戦う雄姿を紹介するよ!』
「あらっ?」
次の瞬間、ドクターは転移する。
転移先はコロッセオ上空。浮遊しているドクターの近くにはもう一人男がいる。
浮遊している二名を見上げるのはプレイヤー13910人。
見上げると同時に爆音の歓声が反響する。ほぼ全てのプレイヤーが歓声を上げている。
『まず、一人目!最弱職と言われている【学者】系統で成り上がった狂った女性!ドクター!』
「「「キャアアァァァァァア!!」」」「「「ワァアアァァァアァァ!!」」」
男女関らず歓声と悲鳴が上がる。
「ドクター!さまー!殺して下さい!」「踏み付けて下さい!」「実験体にして下さい!」
「・・・・・・」
何か聞こえたかな?とドクターは一部、歓声を無視する。
『続いて二人目!サービス開始直後に僕が手掛けた世界級依頼を一日でクリアしやがった特殊職【勇者】こと、マコト!』
「「「「「ブーーーブーブーーー!!」」」」」
ブーイングの嵐。
浮遊している男は何か叫ぶが、声は届かない。GMが声を消していることに本人は気付くのだろうか。
『それでは、決勝戦を開始するよ!』
「「「オオオオォォォォオオォォ!!!」」」
『二人も準備ヨロシク!バトルエリアに転送するよ!』
浮遊している二名の体は透明になる。転送される。
(次はどんな勝負になるのかしら。楽しみだわ)
ドクターは凶暴に、美しく、口角を吊り上げた。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
「ここは・・・ルキバル?」
ドクターのバトルエリアの第一印象は始まりの町、ルキバルであった。
見た目はそのまま写したように、NPCの町人も普通に通行している。
『エリア名、ルキバル!全員知っていると思うけど、ここは始まりの町だよ!規模は本物と全く同じ!NPCは本物のデータコピーだから巻き込んじゃっても大丈夫だよ!カウントダウン開始!』
GMの声がコピーされたルキバルに響く。NPCには当たり前だが聞こえていない。
対戦する両者は同時に準備を開始した。
一方はインベントリからモンスターの素材を取り出し、もう一方は一振りの長剣を取り出した。
『・・・スタート!!』
遂にクレアシオン・オンライン内で現在の最強を決める戦いが始まった。
「『使い魔生成』」
ドクターの初手は『使い魔生成』。
手に握られてるのは真っ黒い蛇の鱗。鱗は膨張して縦長のひも状になり、鱗が生える。
全身に鱗が生えた、ソレは前頭部らしき場所がパックリと開き、牙が生える。
「行きなさい隠密鱗蛇」
全長約一メートルの光沢の無い、真っ黒な蛇は町の人混みの足元を蛇行して進む。
隠密鱗蛇。森に生息する、真っ黒な鱗を持つ蛇で隠密の能力に長けているという特徴を持つ。
(こいつで最初に相手を見つけなければいけないわね。早く見つけてくれるといいけれど・・・)
思いを胸に己も物陰に隠密し、敵を見つけに行動を開始した。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
『・・・スタート!』
僕はいつもウザいGMの声を聴き、試合が始まったことを改めて再確認する。
インベントリから、長剣を取り出す。これは、ミルが作ってくれた僕専用の攻撃と耐久特化の長剣だ。
油断なく剣を構えて、町の中を進む。
「さてさて、あの綺麗な人探しに行こうかな」
そう言った瞬間、背中に怖気が走った。
パーティの皆から冷たい目で見られてるイメージが浮かんだ。
皆、可愛いんだけど何故か僕が女の子と仲良くしようとすると不機嫌になるんだよね。
「なんでだろう?」
声に出してみたけどやっぱり分からない。
・・・それにしても本物とそっくりだな~この町。NPCもコピーとは思えない。
GMも技術は一流なんだから性格さえ治せばなぁ・・・。
そんなことを思っていると背後から見られている感覚がした。
ゾワッってした。
「どこからだ?」
このエリアはコピーだから僕のことを見る人は居ないはずだか見ているとすれば一人しか居ない!
「そこだっ!」
視線の先に駆けて剣を繰り出す。確かな感触を感じ、切っ先を見る。
「これは・・・蛇?」
真っ黒な蛇がぐったりと突き刺さっていた。
そして次の瞬間影を感じて空を見る。
「なんじゃこりゃぁぁぁぁ!?」
思わず、そんな絶叫をした。
だって僕の目の前には大量の透明なスライムが降って来ていたから。
てか、なんでスライム!?しかもこの種類のスライム見たこと無いんだけど!?なんで泡立ってるの!?
「炎竜巻!」
『中級火魔法』で火の渦を起こして、蒸発させる。
幸い、この種類のスライムは魔法に弱かったみたいだ。
それにしてもこのゲームの魔法は自由度合って良いよね。このゲームの世界では決まった魔法が存在しないんだから。
どういうことかというと、この世界は名の通り、クレアシオン。つまり、創造という意味でこのゲームでは「火の玉出したいな・・・」と思い、『ファイヤーボール』などとやると魔法が発動するんだよね。
そしてその創造の振れ幅を制限するのがスキルにもあった『初級火魔法』や『中級雷魔法』で、この『初級』や『中級』により、創造した魔法の発動ができるかどうかをAIが判断し発動できるという訳。
他にもこれらの『初級』などの【階級】には威力の増減や規模も比例して、例えば『初級』では小さな火の玉が『中級』では火の渦を呼び起こしたり、なども出来て、MPの存在は使いたい魔法の規模や速度、威力により使われる。
だから【魔法使い】の職業は【階級】の制限が広かったり、MPが多かったりなどの設定があるらしい。
「ナニアレ?」
魔法スキルの設定を思い出していると、人混みの向こうから巨大な影が出て来る。
「ゴブ、リン・・・?」
恐らくゴブリンっぽい何かがこちらに向かって来ていた。




