第二十二話 準々決勝【模範解答】忘れやすいキノミヤ
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『バトルエリアに転送します。しばらくお待ち下さい・・・』
「ああ、準々決勝が始まるのね」
一回戦目が終わり、またも調薬しているドクターは立ち上がった。
試験管をポーチに詰める。
「そういえば新しい称号貰ってたわね」
ステータスを開く。
『爆発魔』
爆発を好み、愛用する者に与えられる称号。
爆発系のダメージアップ、被ダメージダウン。
「爆発が特別好きなわけではないのだけど・・・」
ドクターはそこまで考え、自分の行動を振り返り口を閉じた。
我が身に覚えがあるようだ。
『転送します』
そこで体に浮遊感が襲い。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
『バトルエリア名、ビル街!広さは1,5キロ×1,5キロで侵入可能エリアと不可エリアがあるから注意してね!バトルスタートまで十秒!』
周りを見回す。
周囲はビルが立ち並び、大通りなどの大まかな道しか存在せず、一番の注目点は各ビルの上に大型の鉄橋が掛けられおり、移動できる点だ。
下から見た鉄橋は蜘蛛の巣にも見える。
『・・・スタート!』
始まった。
(上を取られるのは不味いし、屋上に上がりましょうか)
ビルの側面に付いている非常階段からビルの屋上に上る。ビルの上は全てのビルに鉄橋が掛けられていること以外何も特徴が無く、風が強く吹き付けている。
ビルの高さも鉄橋の長さも各々違い、一種のアスレチックになっている。
「・・・対戦相手の名前ってなんだっけ?」
屋上に上りきり、対戦相手を探している時、ドクターはふと思い、疑問を口に出す。
どうにも思い出せないらしく、唸っている。
「見つけたぞ!謎の美女!」
強風に消えかけているが確かに声が聞こえた。
ドクターはそちらを見る。ドクターの向かいのビルの屋上に鎧を着た、男が立っている。
「聞いてみようかしら・・・おーい!」
声を張り上げたドクターに男は反応した。
「なんだー!」
ノリは良いらしい。
「名前なんだっけー!」
「キノミヤだー!」
男はキノミヤ、と名乗った。
「そうそう、キノミヤよね。なんで忘れてたんだっけ?」
そう悩んでいる間にキノミヤは鉄橋を渡り、こちらに向かって来ている。
両手には同じ大きさの両刃剣が握られている。双剣使いだ。
「食らえっ!」
「・・・あら?来てたの?」
両刃を振られるがドクターはパラライズドナイフで軽く受け流す。
「対戦相手の顔を忘れるとはどういう了見だ!?」
「だって忘れちゃったんだもん」
「だもんじゃねえぇ!気にしてんだ!こっちは!」
漫才の様な会話をしながら数合打ち合う。
ドクターは思った。
(あれ?なんか、弱い?)
失礼なことだがあながち間違ってもいなかった。
キノミヤは現実世界で誰にも顔と名前を憶えて貰えず、個性を作ろうとクレアシオン・オンラインを始めた。
しかし、キノミヤは何事にも平凡だった。
テストの成績はは毎回、平均。体力テストも、中の中。ゲームの才能も凡人。
だが、キノミヤは頑張った。トッププレイヤーの試合や戦闘を観察したり、攻撃の反復練習もした。
結果、普通に強くなった。
そう、普通にだ。普通に強くなったキノミヤは他のプレイヤーから【模範解答】と呼ばれている。
それはキノミヤの攻撃や防御、回避が全て模範的な動きだからだ。
強くはなったが全てにおいて普通を最適化しただけであったためハイスペックなドクターをして弱いと思わしめたのだろう。
「貴方さぁ・・・」
「なんだ!戦闘中に!?」
当然の言葉を吐く、キノミヤ。
「なんか普通って言われない?」
「・・・」
静寂。剣戟の音だけが響く。
双剣に対し、短剣で対処出来ているのはやはり先ほどの言葉を裏付けてしまう。
「気にしてんだよ!ほっとけ!」
「ああ、そう」
より一層、剣を振る速度が上がる。
しかしそれにも対応できてしまうのが普通という事を強調しているように思えた。
「例えばほら、こんなことに対応出来る?」
「えっ?はっ、あ、ああぁぁぁ!?」
ドクターは双剣を大きく弾き、キノミヤの腕を掴み、屋上から飛び降りた。
キノミヤはドクターの凶行にビルの屋上から落下しながら悲鳴を上げる。
凶行を起こした本人は――――――。
「大丈夫?」
「なんで立ってるのぉぉぉーーーー!?」
ビルから落下するキノミヤに並走するドクターの姿が。
足には透明な粘液が靴に纏わり付いている。
粘液はスライムの粘液を熱したものだ。
スライムの粘液は熱すると強い粘性を持つ性質を持つ。
クレアシオン・オンライン内のNPCも糊などに使う。
ドクターはこれを足に纏わり付かせ、壁を歩行・疾走しているのだ。
「ちょ、おま!ギャアア!ヤバァァァァァ!?」
そしてドクターはスカイダイブしているキノミヤの胴に『軽業師』の称号を活用し、着地して更に落下を早める。
パラライズドナイフで胴を貫き、地面が迫り・・・。
グシャ
そんな擬音が聞こえ、キノミヤはポリゴンになって消えた。
≪『冷静』スキルを取得しました≫
「対戦ありがとう。・・・キノなんとかさん」
どこからか「俺はキノミヤだ~!」と声が聞こえたような気がした。
そして対戦が終わっても名前を忘れてしまうドクターだった。
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