第十九話 休憩と日常回と後輩君の登場フラグ
「『送還』」
本選出場が決定した後ドクターはスキルの『使い魔生成』の副次能力で筋骨隆々となった哀れなる(?)ゴブリンを魔法陣を介し、異空間へと送還する。
消え際に敬礼していたのは気のせいだろう。
『そろそろコロッセオに転送するよ!』
GMの声が聞こえると同時にドクターの体は光に包まれる。
その数秒後には視界は光に埋め尽くされた。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
目を開けると無数の視線。
(うわっ!)
心の中で驚愕の声を漏らすドクター。
どうやらBブロックの試合を見た、プレイヤーがドクターのことを一目、見に来たらしく、その場に出て来た本人は格好の的となった。
次いで荒れるは雑言と質問の嵐。
「ねえねえ君可愛いね。うちのパーティ入らない?」「あの薬どうやって作ったの?」「【学者】系統だよね?なんで【召喚士】のスキル使えたの?」「あの爆発するやつ売ってよ!100000マネーで買うからさ」
言葉の波を切ってアナウンスが鳴る。
『やっと全部のブロックが終わったよ!本戦トーナメントは現実時間で二時間後だよ!じゃあね!』
「ログアウト」
GMの言葉が終わり次第、ドクターはゲームからログアウトした。
流石のドクターも烏合の衆は相手にしてられないということだ。
全員、ドクターの容姿、薬物が目的だったのがドクター自身がよく分かったのだろう。
(私はソロで行くつもりだしね)
『ログアウト処理中です。しばらくお待ち下さい・・・使用サーバー日本・・・データを保存・・・ログアウト完了しました。お疲れ様でした。ごゆっくりお休み下さい』
狂華は目の開ける。
眩しくて目を閉じる。目を慣らして開ける。
映るのはいつもの家の光景。
「よいしょっと」
ベットから起き上がり、頭からヘルメット型本体機器を取り外す。
「アチッ!」
赤熱した本体を触り、思わず手を放す狂華。
それもそうだ。狂華は楽しみ過ぎてイベント開始の一週間の準備期間中からほぼ毎日、トイレと食事以外ログアウトしておらず、ぶっ通しでクレアシオン・オンラインをやっていたのだから。
「もう、汗だくじゃない・・・」
起き上がった狂華は自分の着ている服が汗で濡れていることに不快感で顔を歪ませる。
脳波技術を駆使したVRMMOは戦闘中だと脳が興奮状態に陥り、発汗や過呼吸が起きたりすることがある。
そして狂華は研究者時代の頃過度な綺麗好きと白好きで、私服は白を基調にした服が中心に家の内装も白一色、研究者を辞めた現在でも白衣を十着持っている狂華であった。
「シャワーでも浴びようかしら」
狂華は脱衣所に行き、服を脱ぐ。
脱衣室には布切れ音がシュルシュルと響く。
そしてドクターはバスルームに入る。
バスルームは10平方メートルはある、巨大な湯舟にはライオンの首が延々とお湯を吐き出している。
「はふぅ~」
おっさん臭い息を吐きながら狂華は湯船に浸かる。
湯が溢れザバン、と音を出す。
「さてと・・・」
狂華は風呂場に持ち込んだスマホを開き、メッセージアプリを開く。
一件着信が来ている。
宛先:先輩
件名:先輩へ
本文:どうっすか?あげたクレアシオン・オンライン面白いすか?実は俺も始めることにしたんです!
次の販売予約したんで来月までには来るらしいっす!届いたら一緒にやりましょうよ!薬で人助けをする正義の味方みたいな?どうっすか?
「はぁ~・・・後輩君め、餞別とか言ってたのに結局自分がプレイするじゃん・・・」
溜息を吐き、狂華は返信する。
宛先:後輩君
件名:自分でもやるのかよ
本文:予約するくらいなら自分の分も買っとけ。それにあまりゲームをし過ぎると教授に怒られるぞ。
あと、後輩君とはプレイしません(断固)一人の方が楽だし、楽しいし、ヒーローとかヤダ。私は悪役が良いしね。それじゃガンバ
「これで良しっと」
狂華は湯舟から上がり、バスルームを出る。
赤銅の様に赤くなった白磁の肌をバスタオルで拭きながら、お腹が空いたなと考える。
時計を見ると午前十一時ニ十分。
ログアウトしてから十数分経っている。
「何か作ろうかしら」
白生地のジーパンに白の半そでを着た狂華は冷蔵庫の中を見ながら呟く。
冷蔵庫から冷凍パスタやトマト、バジル、その他諸々を取り出す。
パスタを解凍し、茹でている間にトマトやミンチ肉、玉ねぎなどでトマトミートソースを作る。
パスタとソースを絡めてバジルを載せれば完成。
「モグモグ・・・美味しい」
食べ終わったら狂華はベットに戻り、ヘルメット型本体を被り、横たわる。
ゲームを起動した。




