第十八話 薬物乱舞
ゴブリンは相棒となる!?(多分)
「『使い魔生成』ワイルドウルフは私を守りなさい!」
手に薄汚れた角を持ったドクターは再びスキルを発動する。
すると手に持った角は先ほどと同じく、溶けて地に落ち、小さな人型を取る。
小さな人型のモンスターはゴブリン。
ルキバルの近くにある草原にいる序盤の敵のモンスターで緑の肌に角、腰布に棍棒を持つ見た目でチュートリアルモンスターと呼ばれ、ホーンラビットやスライムに並ぶ雑魚モンスターだ。
そしてそのゴブリンの創造主はワイルドウルフに自分の警戒をさせる。
「なんで、お前が【召喚士】系統のスキルを使える!?」
「・・・」
野生狼にビビった一人が叫び、ドクターは沈黙で返す。
ドクターが【スキルオーブ】で取得した九つめのスキルの名は『使い魔生成』。
一番最初の職業の【召喚士】とそれらの系統が取得できるスキルだがドクターが【狂医者】の職に就いたことで取得できるようになったのだ。
「これね。はい、あーん・・・ぽいっ」
「グギャ・・・ギャ!?」
ドクターは腰のポーチから真っ赤な薬品を取り出す。
そしてその薬品をゴブリンに丸ごと飲ませる。
ゴブリンは薬品を飲み込み、五秒に沈黙し、十秒後に変な挙動をし始め、二十秒後に発狂した。
「グ、グ、グギャアアァァァアアアァァアアァ!」
ゴブリンは肉が盛り上がり、本来一メートルほどの体躯を二メートル近くに肥大化させ、目は赤く血走っている。
その悍ましい魔物にプレイヤーの包囲網は数メートル後退する。
ドクターが使用した薬品は魔草狂化薬と言い、ドクターが命名した薬品だ。
これは魔力を含んだ薬草や強壮効果のある薬草、属性を持った鉱物などのそれなりにレアな素材を深夜テンションのドクターがごちゃ混ぜにして偶然出来た薬物だ。
当初、ドクターは素材を使用したことに落胆していたが効果に狂喜乱舞した薬物だ。
効果はゴブリンの通り、筋肉の肥大化、力の増加・・・ステータス的にSTRの増加、知能の低下だ。
通常ならばゴブリンは創造主であるドクターすらも倒すであろうが今回は『使い魔生成』のスキルで産み出した為、命令は聞く。
つまるところ・・・。
「ゴブリン、あのゴミたちを蹂躙しなさい!」
「ギャ、グギャアアァァァアアァァアアァ!」
「ヒィィィ!ぎゃあぁぁ!?」「に、逃げうわあぁ!」
「退避!退避!あああ!?」「早く行けよ!はやぁぁぁ?!」
こうなる。
狂戦士となったゴブリンが巨体で包囲網のプレイヤーを殴り殺しゆく。
雄叫びを上げ、巨体で殴り掛かって来るその光景に恐怖し、包囲網を崩してしまう。
そうしまったのだ。
少なくとも全方位を包囲してドクターの行動を制限するくらいには効果があった包囲網が崩れてしまったのだ。
これによりドクターの行動は際限が無くなる。
「アハハハハハハハハハハハ!良いザマね!GMに踊らされた私の実験体が!」
ドクターは叫喚し、狂笑を上げる。
「『使い魔生成』『使い魔生成』『使い魔生成』『使い魔生成』『使い魔生成』『使い魔生成』『使い魔生成』」『使い魔生成』『使い魔生成』『使い魔生成』」
そして次々と生み出されるモンスターの群衆。
緑色の体毛のフォレストウルフにワイルドウルフの下位種、ワイルドドッグ、ゴブリン等々モンスターが生み出される。
ドクターは生み出しながら魔力回復ポーションを飲み干す。
そして取り出すは魔草強化薬。
イベント準備期間中に大量に素材を買い込んだドクターが作り出した複数ある魔草強化薬でそれを小分けにしてモンスターに飲み込ませる。
フォレストウルフは足部の筋肉が肥大化し、牙が異常に伸び、ワイルドドッグは肥大化し、爪が鋭くなり、唸り声を上げ、ゴブリンの軍団は最初のゴブリンほど魔草強化薬を試験管一本分使用してないにしろ体格が増加し、筋肉質になる。
「虐殺よ!殺しなさい!」
その掛け声と共にモンスターの軍団はプレイヤーに襲い掛かる。
殴り飛ばし、噛み千切り、引きちぎり、蹂躙する。
ドクター以外のプレイヤーは応戦し、対抗し、既に戦場はドクター対432人となっている。
「それ!逃がさないわよ!(小火球)」
油を撒き、『初級火魔法』を使用し、延焼させ、プレイヤーの退路を限定させ持続ダメージを与える。
「『使い魔生成』・・・これ飲んで」
「バウ!ギャウギャ!?」
再び生み出すのはワイルドドッグ。
そしてドクターはワイルドドッグに袋を飲み込ませ、爆裂石を咥えさせ、一つ命令を言い聞かせる。
「ゴー!」
「ギャウ!」
野生犬は逃げ、対抗するプレイヤーの中心地に駆け、そこで咥えた爆裂石を噛み砕く。
爆裂石は、ワイルドドッグの口内で爆破し、体内にある袋に引火し・・・。
ドオォォォォォォォォォォン!
ワイルドドッグは主の命をやり遂げ、四肢爆散し、周囲にも被害を及ぼす。
袋の中には火薬と毒草が入っていた。
毒草が熱で焼かれ、辺りに毒の噴煙を撒き、より被害を増やす。
そうしてドクターにより蹂躙が始まり、十数分後・・・。
「ヒッ!まっ、ちょ、ぎゃああああ!?」
戦場に残った一人をドクターがパラライズドナイフで切り捨てる。
残りはポリゴン体となり、宙に消えたか逃げ出したかのどっちかだろう。
生み出したモンスターも既にやられてしまって残るは最初に魔草狂化薬を使ったゴブリンのみだ。
『そ、そこまで!Bブロックの予選は終了だよ!エリアから転送するから注意してね!』
震えるGMの声が聞こえる。
その頃にはドクターは気分は晴れ渡っていた。
「ああ・・・スッキリした♪」
こうしてドクターの本選出場が決まった。




