第十五話 ボスが『可哀そう』
タイトルが思いつかなかったです!
すみません!
「これ・・・だったかしら?」
お次にドクターが取り出したのは直径十数センチの金属の球体にその上から螺旋状に金属が巻かれた物体。
それを左手に持ち、スキルと魔法を発動する。
(充電)
『拘束』のスキルと『中級雷魔法』を発動すると、ドクターが左手に持った球体の螺旋にバチバチとスパークが掛かり、球体が薄い黄色に発光する。
そしてその魔法を持続発動する。
「よしっ、後は待つだけ。・・・残り・・・数分ってとこね。それじゃ逃げるわよ!」
突然、南に全力で走り出すドクター。
『オオオォォォォォオォオォォオォ!』
【百腕巨人之王】は激高の咆哮を上げ、のっしのっしとドクターを追う。
ドクターはこれを予想していたようだ。
【百腕巨人之王】は手に持った棍棒を振り回しながらドクターを追う。
振り回した棍棒は地を砕き、木々を吹き飛ばし、直撃したプレイヤーが粉微塵となりポリゴンに変わる。
(私が逃げていれば周囲に居るプレイヤーは自然と【百腕巨人之王】の攻撃に巻き込まれて倒せるから逃げてればいいだけ)
これを狙っていたドクターは軽く息を荒げながらそう考える。
「うわっ!おおぉう!?」
再び、数百メートルまで、近づいた【百腕巨人之王】が棍棒を横なぎに振るい、ドクターは素っ頓狂な声を上げながらもスライディング気味に紙一重に回避する。
その攻撃時に巻き込まれたプレイヤー数十名がポリゴンの塊となり、消えゆくのをにやけ見るドクター。
残りプレイヤー851人。
「邪魔よ!退きなさい!」
「えっ!?はっ、ぎゃあああああ」
「何だ!誰だ・・・うわああぁぁ」
進路方向にいたプレイヤーに二名をいつの間にか『透明腕』に持った【赤紫斑毒の三角試験管】の中に入った赤紫斑毒で即毒殺する。
いきなりやって来て気づいたら激痛と死、第三者からみたらあのプレイヤー二名は不憫でならない、がドクターには関係のないことだ。
ドクターは息を大きく吸い、足を高速で動かし、より早く疾走する。
『オオオォォォ!』
更に追従する【百腕巨人之王】。
「っぎゃあああ!」「うわああぁぁ!」「きゃああぁぁ!」
いつもの如く巻き込まれるプレイヤーの数々。
しかしその原因を作り出している本人はと言うと。
(おー!ヤバイヤバイヤバイヤバイ!そろそろ息切れヤバいしSPが半分を切った~・・・)
≪レベルが上がりました≫
(あっ、レベル上がった。やった)
「じゃ、なーい!」
未だ燃えている山岳地帯に居たプレイヤーが死に至り、レベルが上がったとアナウンスが鳴る。だがその本人はそれどころではないらしく叫ぶ。
叫び声を上げると共にドクターの背後から爆音が聞こえる。
既に【百腕巨人之王】が迫って来ているらしい。が。
「とうちゃーーく!」
ドクターの目的の地に到着する。
その地とは南にあるドクターが毒ポーションを垂れ流し、虐殺の限りを尽くした湖だった。
湖の水は完全に紫色となり、もはや以前の見る影もない。
ドクターは高い草の陰に隠れ、姿勢を低く対岸に向かう。
見つかりそうなものだがそこは相手がAIだったのもあろうか【百腕巨人之王】は湖の前で立ち止まり、ドクターを目を―――実際は分からいが―――凝らして探す。
その間にドクターは湖の対岸に着いている。
「もう・・・大丈夫みたい、ね」
息を荒げ、呼吸を乱すが、左手に持った球体をチラリと一目。
球体は螺旋の部分が赤白く光り、球体部分は青白く発光している。
それを確認して満足そうに頷くドクター。
(小爆発)
『初級火魔法』で小さな爆発を起こし、【百腕巨人之王】に己の位置を気づかせるドクター。
『ウオオオオオォォォォ!!』
やっとのことでドクターを見つけ、激怒の雄たけびを上げる【百腕巨人之王】。
毒で汚染された湖を気にせず横断してくる。
怒りからか【百腕巨人之王】はジリジリとHPが削れるのも気にせず湖を横断し、HPは残り35%ほどになり、湖の中腹程に歩を進めた辺りでドクターが行動を起こす。
「本題の実験を開始しましょうか!」
ドクターは球体を振りかぶり、【百腕巨人之王】・・・の前方の湖中腹へと投擲する。
投擲された球体は【百腕巨人之王】の数メートル前に着水し、当の本人は・・・。
「『解放』発動」
短く一言呟いた。
そのスキルの対象の球体は水中で沈み込みながら、ドクターのスキルに反応し、一瞬煌めき―――。
『グオオオォォォオォォォオォォォォォオォオォオオオォォォォォォォ!!?』
大爆発を起こした。
爆発により、【百腕巨人之王】は軋む声を上げ、後ろに倒れる。
それに続く湖より紫電の輝きが。
『オオオオォォォォオオォォォォォォオォォォォ!?』
再度、【百腕巨人之王】は苦悶の絶叫を上げる
そしてその現象を起こしたドクターは・・・。
「美しい・・・・・・」
恍惚とした表情で頬に手を当て、顔を上気させ自分の起こした現象を官能的な色を宿した瞳で呆然と見つめる。その一枠は歴史的な画家が描いた美女にも勝るとも劣らない光景であった。
(電気を電蓄するための球体は感応石をふんだんに使い、螺旋部には吸収用に希少なミスリルを使い、劣化なく球体部に『中級雷魔法』を充電する。そしてスキルの『拘束』で電気の密度を高め『解放』で威力を底上げし、内部に溜まった電気を放電し、水中での電気分解を起こし、気体の急速な発生膨張により爆発を起こし、【百腕巨人之王】を倒す。更に電気による熱の水蒸気爆発を起こし、追撃の攻撃を仕掛ける。おまけに電撃による感電ダメージをも起こし、更に更に毒の相乗効果も望める完璧な作戦。水中に駆ける紫電が美しいわ・・・)
実験は見事成功し、【百腕巨人之王】のHPはこれまでの耐久が嘘のように勢いよく減り、そしてHPは無くなる。
『クオオオオォォォォォォォオォォォォ・・・』
何処か悲しみを感じる断末魔を上げ、大量のポリゴンを撒き散らし、宙に消える。
≪レベルが上がりました≫
≪ドロップはインベントリに送られます≫
≪称号:『天才的雷使い』を取得しました≫
≪称号:『運営企画殺し』を取得しました≫
≪称号:『ボスが可哀そうじゃないのか!?』を取得しました≫
アナウンスが聞こえているかもどうか怪しいがドクターは未だ呆然と水が干上がった湖を見つめる。
そしてどこからか声が聞こえる。
『うそ~~~~~ん・・・倒しちゃうの?君?』
愕然とも驚愕とも賞賛とも聞こえるGMの声が聞こえた。




