第十話 爆買いと薬物の魔王の一歩
「わーお・・・これは凄い」
ドクターは解毒の薬物を各種予備も加えて作成が終わった頃、競売所を覗き込み、流石のドクターも驚愕する。
「4207万4799マネーって私一番マネー持ってるんじゃないの?」
実際それは間違えていなかった。
そうしてドクターはクレアシオン・オンラインで一番資産を持っているプレイヤーとなった。
「まあ、いっか。悪いことは無いし。じゃ、早速スキルオーブ買いに行きますか」
そう呟きながらドクターは学者ギルドを出た。
ドイルトの入り組んだ道を人を掻き分けながら進み、高価な装飾された店へと入る。
「いらっしゃいませお客様・・・こちらへどうぞ」
中に入るとキッチリとしたスーツを着た、店員が対応してくる。
店員はドクターのことをジロジロと眺め、一つ頷き、ドクターを店の中にある、大理石のテーブルへと先導する。
恐らく、見定めたのだろう。
本来【スキルオーブ】はとても高価なのだ。金を持っていないのにやって来る客など営業妨害の他でもない。
「お客様、本店へのご来店誠にありがとうございます。それにてご用件をお聞きしても?」
「今回は短剣術のスキルオーブを買いに来たの」
「短剣術ですか・・・少々お待ち下さい。・・・おい!リストを持ってこい!」
店員は何事か思考すると店の中に居る他の店員に声を張り上げる。
すると店員は装飾が施された巻物の様な物を持って来る。
「短剣術は現在値段が降下していますので値段は30万マネーとなります。他のスキルオーブをご購入したい場合はそちらをご覧下さい」
店員は目の中に見定める様な思考を載せて、値段を言う。
しかしドクターは目の中の光をキラリと光らせた。
「ちょっと待ちなさい。短剣術の現在の相場は28万マネーのはずよ!。どういう事かしら?」
下調べをしていたのだ。
流石と言う他無い。これはドクターの生来の科学者気質の確認や観察のお陰でもあるだろう。
店員は口の中で「ほぉ・・・」と呟き、一礼する。
「申し訳ございませんお客様。ここにやって来るお客様には毎回これをやらせて貰っているのです」
「何故そんなことを?訴えられる可能性もあるのよ?」
「いえ私の今居るこの店は王都にある本店の支店でありまして、本店は王族や貴族様方に、懇意にさせて貰っていますので問題ありません。ではお客様には謝罪の意味も込めて短剣術のスキルオーブを20万マネーでお売りさせて頂きます」
「そう?ありがとう。で、他にも見させてもらうわよ?」
「ええ、どうぞごゆっくり」
そう言い残し、店員は店の奥にと消えていった。
ドクターはそれを尻目に巻物に書かれた一覧表を見る。
そして目に留まる【スキルオーブ】を見つける。
それは、魔法だった。
魔法は【魔法使い】系統の職業じゃないと取得できないが一定条件をクリアすると取得出来たりもするが【スキルオーブ】だと一層値段が高い。
「それじゃ追加で『初級火魔法』と『初級水魔法』、『中級雷魔法』を買うわ」
「・・・よろしいのですか?」
最初に対応した店員とは違う店員にそう聞くと店員は確認するように視線を合わせて来る。
「勿論」
「・・・では合計で220万マネーとなります」
聞くだけの値段であった。
だが、ドクターには払えるだけのマネーがあった。
「はい」
ドクターはメニュー画面から大金の220万マネーを店員に渡す。
流石にこれには店員もたじろぐ。
そうしていると最初にドクターに対応した店員がやってきてトレーに乗せて、店の奥に持って行き逆に何かガラス張りの箱に入っている幾色もの輝きを放つ、硝子玉を渡される。
「こちらがスキルオーブとなります。スキルオーブはお客様、又は使用者が魔力を流すと取得できます。・・・他にご質問はございますでしょうか?」
「いや、ないわ」
「では、ごゆっくりどうぞ」
店員はそうして下がっていった。
どうやらドクターのことをいいお客だと認識した様だ。
そして再度巻物を眺め始めた。
「これは・・・・・・!」
十分後ドクターは邪悪とも神聖とも言える笑顔を浮かべ、あるスキルを購入する。
その時の【スキルオーブ】の値段は500万マネーだった。
「それじゃ邪魔したわね」
「いえ、ご来店ありがとうございました」
ドクターが店を出たのは店に入ってから四十分後のことであった。
その間にもいくつか【スキルオーブ】を購入していて店を出るときは店員全員で見送りされたのだった。
「ふんふふーん♪」
ドクターはいつもよりテンション高く、珍しく鼻歌を歌いながらスキップで学者ギルドに向かう。
結局ドクターが【スキルオーブ】屋で買ったスキルは九つであった。
その内三つは魔法『初級火魔法』『初級水魔法』『中級雷魔法』だ。
火と水魔法は【魔法使い】じゃないと初級以上は取得できないのであまり攻撃には使えないが雷魔法は【学者】系統であれば習得でるので攻撃にも応用できるがドクターはその用途で購入したのではなかった。
そして四つ目は『透明腕』。
半透明の腕をMPを消費して作り、操れるというものだ。
五つ目は『無詠唱化』。
魔法は本来、詠唱をして魔法を放つのだが、このスキルはその詠唱を省略することが出来るスキルだ。
六つ目は『変形』。
MPを消費して消費したMPに対して物質を変形させることが出来るスキルだ。
七つ目は『束縛』。
触れている己の物をその場に留めるだけのスキル。ものは使いようというスキル。
八つ目は『解放』。
『束縛』と対になるスキル。解放する時はなにかしら効果が上がる。
九つ目は・・・今は辞めておこう。
・・・で、結局ドクターが【スキルオーブ】に使ったマネーは合計で8763400マネーであった。
(さーてこれでイベントへの準備は万端!後は買って来たスキルで実験!楽しみだわ♪それにあのスキルの為にモンスターを狩ってこないと)
ドクターはそうしてイベントに向けて準備を開始した。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
「やっと一週間経った!」
ドクターは学者ギルドで大声を上げる。
あれから一週間たった。
その間にもドクターはせっせとモンスターを狩り、レベルを上げ、極悪な薬物を生成していた。
そしてイベント開始三十分前になった。
『イベントを開始します。イベントエリアに転送します。転移される方はウィンドウから、YES、という欄をタップして下さい』
三十分経ち、ミルルンの声が聞こえる。
そしてドクターはノータイムでYESを押した。
(ああ、やっと始まる)
ドクターの視界は暗転した。
こうしてドクターの名が売れ始める最初のきっかけとなり、【薬物魔王】と呼ばれる第一歩となるのをまだ誰も知らない・・・。




