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死神に育てられた少女は漆黒の剣を胸に抱く【WEB版】  作者: 彩峰舞人
第一章 死神に育てられた少女
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第二十一幕 ~クラウディアの憂鬱~

 ──ガリア要塞 オットー中佐の執務室


「ほう、貴官がナインハルト大佐の推薦した……」

「はっ、クラウディア・ユング准尉です! 第七軍着任のご挨拶に伺いました!」

「うむ、ご苦労。そこのソファーにかけたまえ」

「はっ、失礼します!」


 オットーの言葉に従い、クラウディアはソファーへと腰を下ろす。オットーは備え付の棚からティーカップを取り出すと、白磁器のポットに手を伸ばした。


「オットー中佐、それくらい私がやります!」


 慌ててクラウディアが腰を浮かす。だが、オットーは軽く手を挙げ拒否の姿勢をとった。


「いや、しかしながら──」

「構わん」


 オットーはクラウディアの言葉を遮ると、慣れた手つきで紅茶を注いでいく。その姿に従者はいないのだろうかと、クラウディアは内心で首を傾げた。ティーカップがテーブルに置かれると、茶葉の爽やかな香りが鼻をくすぐった。


生憎(あいにく)と物資不足でな。砂糖は切らしている。すまんがそのまま飲んでくれ」

「滅相もございません。いただきます」


 恐縮しながら一口すすり、そっとティーカップをテーブルに戻す。意識して背筋を伸ばすと、クラウディアはオットーの視線を真正面から見つめた。


「それで……オットー中佐。此度の第一軍から第七軍への移籍。詳しくお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「ん? まさか何もナインハルト大佐から訊いていないのか?」


 オットーは驚いたような顔で見つめてくる。


「はい。何も伺っておりません。随分とお忙しい(・・・・)らしく、オットー中佐に直接尋ねるようにとのことです」


 クラウディアの言葉に、オットーは苦笑する。どうやら知らず皮肉が籠っていたようだ。ナインハルトの従妹という関係性を知らなければ、出てこない笑みだ。


「そうか。では単刀直入に伝える。クラウディア准尉にはオリビア准尉──いや、今は少尉だったな。オリビア少尉の副官の任に着いてもらう」


 そう言いつつ、オットーは一枚の書類をクラウディアに差し出す。


「副官の任ですか……拝見させていただきます」


 クラウディアは受け取った書類に目を走らせる。そこには暴突の異名をもつザールエルの殺害に始まり、ガリア要塞に潜入した密偵二名の捕縛及び殺害。さらにはほぼ単独でのランブルク砦奪還といった華々しい功績が挙げられていた。

 最早ちょっとした〝英雄〟だ。しかも、僅か十五歳の少女によって成し遂げられたと記述されている。

   

「あ、あの……これは全て事実、なのでしょうか? いくら何でもこれは……」

「まぁ、そう思うのも無理はない。だが、そこに書かれている内容は全て事実に即している。だがな」


 そこで言葉を切ると、オットーは深い溜息を吐く。


「何か問題があるのでしょうか?」

「……そうだな。まず書類を見てわかったであろうが、武力という一点においては何の問題もない」

「それはもちろんわかります。では、ここに書かれていない。何か別の問題があると言われるのですか?」


 クラウディアが尋ねると、オットーは我が意を得たとばかりに大きく頷いた。


「クラウディア准尉の言う通りだ。オリビア少尉は、礼儀(・・)常識(・・)に欠けている人間でな。正直かなり手を焼かされている」

「はぁ。礼儀や常識ですか……」


 何と答えていいかわからず、クラウディアはそのまま言葉を返す。礼儀や常識と言われても、漠然としすぎているからだ。


「閣下はそれが可愛いなどと……いや、何でもない。今の失言は忘れてくれ」

「は、忘れます」

「すまんな。クラウディア准尉も知っての通り、我が軍はカスパー砦の奪還に向け、着々と準備を進めている最中だ。今回の作戦の要は、オリビア少尉が握っていると言ってもいい。そのためにも、少尉を補佐する優秀な副官が必要なのだ」

「……無礼を承知で申し上げますが、別に私でなくてもよろしいのでは?」


 優秀な人間なら第七軍にいくらでもいるだろう。そう思いながらクラウディアが尋ねると、オットーはあっさりと首を横に振る。


「少尉の手綱を上手く引けるような人材となるとそうはいない。あれは見た目だけは立派だが、中身はとんだじゃじゃ馬だからな。それに、同性同士なら何かと融通も利くだろう。色々と苦労をかけるかもしれないが、よろしく頼んだぞ」

「はっ、オリビア少尉の副官として、しっかりと補佐していきたいと思います!」


 クラウディアの返事に、オットーは少しだけホッとした表情を浮かべた。


「うむ。オリビア少尉には、クラウディア准尉が挨拶に訪れるのを伝えてある。おそらく今は自室にいるだろう。後で顔を出してやってくれ」

「は、では、早速ご挨拶に伺いたいと思います」

「そうか。なら話は以上だ。下がって構わない」

「はっ、失礼します!」


 クラウディアは退出すると、深い溜息を吐く。オットーの態度から察するに、かなりの面倒事を押し付けられたのは間違いないようだ。


(私に相談もなく、勝手に話を進めおって)


 自分を推薦したナインハルトに内心で恨み言を言いつつ、クラウディアはオリビアの自室へと向かった。



 ▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼ 



 オリビアの自室にたどり着いたクラウディアは、身だしなみをチェックする。特に問題ないと判断し、目の前の扉をノックする。部屋の中から鈴の音のような声が返ってきた。


「クラウディア?」


 いきなり自分の名を呼ばれたことに戸惑いつつも、クラウディアは声を張り上げる。


「はっ、本日付でオリビア少尉の副官となりましたクラウディア・ユング准尉です! 着任のご挨拶に伺いました!」

「うん。オットー副官から訊いているよー。入って」

「はっ、失礼します!」


 扉を開けたクラウディアは、目の前の光景に息を飲む。人形のような顔立ちの少女が、ベッドに寝そべりながら本を読んでいたからだ。思わず見惚れていると、オリビアと目が合う。床に散らばっている本を踏まないよう注意しながら、慌てて敬礼をする。


「私はオリビア。これからよろしくね!」


 オリビアはベッドから起き上がると、笑みを浮かべながら敬礼を返してくる。そして、何事もなかったかのようにベッドに戻ると、再び本を読みだした。


(……え!? それで終わり!?)


 一瞬、何か試されているのかと思った。だが、どう見ても夢中で本を読んでいるようにしか見えない。ふと先程訊いたオットーの言葉が頭によぎる。とりあえず副官の任に就いたからには、オリビアのことをよく知る必要がある。

 そう考えたクラウディアは、軽く世間話をすることにした。


「あ、あのーオリビア少尉? 随分と沢山の本がありますね」

「ん? ……アシュトンから面白そうな本の話を訊いて、王都から取り寄せたんだ。おかげでパウル中将から貰った報奨金が全部無くなっちゃった。本って高いんだね」


 オリビアは本から視線を外すことなく答えた。クラウディアはその言葉に呆れながらも、めげることなく話を続ける。


「オリビア少尉はとても本がお好きなのですね。ちなみにアシュトンさんとはどのような方なのですか?」

「……クラウディアもオットー副官と同じことを言うね。アシュトンはアシュトン。人間だよ」


 オリビアは初めて本から視線を外すと、不思議そうな顔でクラウディアに目を向けてきた。その美しい漆黒の瞳に、冗談を言っているような〝色〟は見えない。


(なるほど……これは中々に大変そうだ。ナインハルト兄さんめぇ。この埋め合わせは必ずしてもらうからな)


 クラウディアは内心で毒づきながらも、表情は努めて神妙に振る舞う。


「確かにオリビア少尉のおっしゃる通りです。〝当たり前〟のことを訊いてしまい、申し訳ありません」


 深々と頭を下げるクラウディアに対し、オリビアは首を横に振る。


「ううん。別にいいよ。でも不思議だよねー。何でみんなわかりきったことを訊くんだろう? ……やっぱり私の言葉って、わかりづらかったりする?」

「いえ、決してそのようなことはございません」

「そう……ならよかった。挨拶はもう済んだでしょう? 下がっていいよ」


 そう言うと、オリビアは三度本を読みだした。最早これ以上の会話はできそうもない。クラウディアは、寝転がっているオリビアに向けて敬礼する。


「では、失礼いたします! 何かございましたら、すぐにお声をかけてください!」

「うんわかったー」


 クラウディアは退出すると、壁にもたれかかりながら本日二度目となる深い溜息を吐く。そして、踵を返すと、まっすぐナインハルトの部屋へと向かっていった。

お読み頂きありがとうございました。

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