表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
130/136

15-9

「……」


「……」


森の中で木に寄りかかって休んでいたガブリエルは気配を感じて、目を開き飛び起きると剣に手をやった。


だが、自分の前にしゃがみこんでいる者達を見とめると、愉快そうな笑い声を上げる。


「何だ、おまえらか」


小さな生き物達は腰に手を当ててガブリエルを仰ぎ見ると、尖った歯を見せて笑った。


「騎士ガブリエルのお陰でヤウン・エレージアは安泰だ」


「ウルゲルミールの悪魔の手先共も尻尾を巻いて逃げ出すぞ」


「女王様がお待ちかねだ」


よく見ると、裸の者も腰巻を纏っている者も、鷲の羽のついた矢の入った矢筒を背負い、背丈より大きな弓を手に持ち、石で作った短剣を腰に提げている。


鋭く尖ったフリント石の鏃が付いた槍を持っている者などもいて、中々勇ましそうだ。


ガブリエルは長い三つ編みを背中に垂らし、鳥の羽や貝殻で飾りつけた帽子を被った生き物に尋ねた。


「そのウルゲルミールとかいう奴らのことをもっと詳しく教えてくれ」


生き物達はガヤガヤと口々に話し始めた。


「騎士ガブリエルと同じ位の丈がある」


「……」


「あんなに醜悪な生き物はいない」


「我々の骨を砕く尖った歯を持っているぞ」


「鋭い爪の付いた長い手を持っているぞ」


「……」


「黒くて毛むくじゃらだ」


「鼻がひん曲がりそうに臭い」


「……」


「狡賢くて卑怯な生き物だ」


ガブリエルが笑い出す。


「そんなに皆で話されたら何が何だかさっぱり分からん。そいつらは熊か?」


「熊? いやいや、そんな可愛いものではない」


「武器を扱うのか?」


「棒切れや石ころじゃ敵わない」


そして、小さい者達はガブリエルの前に立って歩き始めた。


「女王様の所にご案内しよう」




馴染みのある大木の下に妖精の女王はいた。


「騎士ガブリエル、召集命令によく応じてくれた」


女王は疲れているようだった。


顔色も灰色がかって見えたし、記憶にあるよりずっと小さく細く見えた。


「姉上を悩ませている奴らのことをもう少し詳しく教えてください」


女王はガブリエルの言葉に頷くと手を叩いた。


控えていた家来が駆け寄ってきて女王の前に跪いた。


「食事を持ってまいれ」


それを聞いてガブリエルは嬉しくなったが、持ってこられた果物と菓子を見るとがっかりした。


妖精達は肉は食べないのだな。


俺が今必要としているのは、油の滴る鴨の丸焼きなんだが。


仕方がない、腹が減っては戦もできぬ。


そう思ったガブリエルは菓子に手を伸ばした。


だが、口に入れた途端、目を白黒させて慌てて飲み下した。


女王がガブリエルの顰め面を見て可笑しそうにする。


「どんぐり粉の菓子だ。騎士殿の口に合わぬか?」


「土壁を砕いて水で捏ねて焼いた味ですね。そっちの林檎をもらいます」


果物を齧りながら女王が敵について語るのを聞いていたガブリエルは、話が一段落すると尋ねた。


「そう言えば、あの岩の上の死んだ騎士は誰ですか?」


女王はガブリエルを大きな金色の瞳でじっと見つめて答えた。


「あれはこれから其方がなり得るもの、そして其方がなり得ない者だ」


「そんなこったろうと思って武具を借りました」


「夜の世界の魔力が篭った武具。今は亡きデッカルファル族の鍛冶師ヴェリュンドゥルの作ったものだ」


「ふーん、ご利益がありそうですね。そろそろ出かけますか?」


女王は立ち上がると控えている家来に合図する。


辺りに角笛の音が響き渡り、バラバラと武装した妖精達が口々に叫びながら集まって来た。


「出陣だ!! 出陣だ!!!」




重たい袋が騾馬に積まれた。


ダネールは金を守らせる為に10人の兵を出した。


その他にワルローズから来た者達全員がガブリエルを迎えに行くことを望んだ所為で、城の中庭は馬と人とでごった返している。


「私も行くわ」


その声に馬に乗ろうとしていたセズニが振り向くと、小姓の格好をしたメルグウェンが目を輝かせ、寒さに頬を染めて立っていた。


セズニは仕方がないという風に頭を振って言った。


「ガブリエル殿は貴方がここで大人しく待っていることを望まれますよ、なんて言っても無駄ですね」


「もう待っているのはうんざりだわ。城主殿が無事な姿を一番に見たいの」


「分かりました。だが、絶対に私の傍を離れないことを約束してください」


「約束するわ、危ない真似はしないって。でも父上には内緒よ」


メルグウェンは悪戯っぽく笑うと、厩に向かって駆け出した。


その後姿をセズニと見送ったドグメールが目を細めて言った。


「姫のあんな元気そうな顔を見るのは随分久し振りだな」


「分かっているか? 無事ガブリエル殿を連れてこの城に戻るまで油断は禁物だぞ」


「大丈夫だ。二度とへまなどするもんか」


ドグメールがセズニを安心させるように肩を叩く。


先頭の兵がダネール家の紋章を描いた旗を手に門を潜ると、残りの者達も次々と門を潜り、跳ね橋に蹄の音を轟かしながら城を去って行った。


メルグウェンは両脇をセズニとドグメールに守られ、金を積んだ騾馬の後に続いた。


後少しでガブリエルに会えると思うと、気が急いて堪らない。


どうか、どうか全て上手く行きますように。


今日も朝から曇っており、今にも雨が降りそうだ。


神々様、お願いです。


城主殿が無事私の許に戻って来ますように。


メルグウェンは手綱をしっかりと握ると、馬の腹を軽く蹴り騾馬に追いついた。


その頃ダネールの城では、侍女がメルグウェンのベッドに横たわっている者に驚き叫び声を上げていた。


「城主様!! 城主様!!! 姫様が!!!!!」


自分がいなくなったことに直ぐに気付かれないように、メルグウェンは羽根布団を縄で縛って自分の服を着せ、ベッドに寝かせて置いたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ