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召喚された司書の相談所〜偽装結婚ですが旦那様にひたすら尽くされています〜  作者: 有木珠乃
第2章 穏やかな日常に潜む影

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第18話 青年は不審者?

「あの〜、ちょっといいですか?」


 ラモーナから離れ、一般利用者が立ちいることができるギリギリのスペースのところまでやって来ると、突然、声をかけられた。


 振り向いた先にいたのは、見知らぬ青年。だけどなぜだろう。どこか懐かしさを感じる。もしかしたら、彼の髪が茶色だったからかもしれない。


 この世界の人たちは、私のいた世界の人たちとは違い、幅広い個性を持っている人たちが多かった。人や獣人、という見た目の差というのもあるけれど、髪の色もなかなかお目見えできない色ばかりで、ここが別の世界であることを実感させられた。


 ……まぁ、グリフィスみたいなのは、別枠だけど。いや、規格外といった方が正しいかも。


「すみません。聞きたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」


 私が青年に気がつくと、こちらに向かって足早にやって来る。


 禁書区画と一般書区画の間は、ホテルのロビー並みに広いスペースが取られていた。利用者だけでなく、職員の立ち入りも制限がかけられているため、このように分かり易くしているのだ。


 けれどこの青年のように、時々ふらっとこちらにやってきてしまう利用者がいるのだと、ラモーナから聞いていた。


 だから青年の聞きたいことには聞くとして、まずは先に、ここには近づかないように注意をしておかなければ。また迷い込んだら、困るのは青年の方である。知らなかったでは済まされない場所なんだから。


「構いませんが、お話でしたら向こうでしませんか?」

「向こう、ですか?」


 私は青年の横を通り過ぎ、今し方、彼が来た方向に手を差し出した。それが腑に落ちなかったのか、青年は首を傾げる。


「利用者が立ち入ることができるのは、ここまでですから。私たちがここで話し込んでしまうと、他の利用者がここもいいのだと勘違いし兼ねません。その防止です。ご理解ください」


 柔らかい口調を心掛けながら、ニコリと笑う。誰だって注意をされるのは嫌なもの。子どもとか大人とか、そんなものは関係ない。だから気分を害さないように、やんわりと言うのが鉄則だった。


 けれど青年は不満そうな青い瞳を私に向ける。茶色い髪は懐かしさを感じるけれど、その目の色は彼を異世界人だと思わせた。


「聞きたいことが、探している本だった場合も含めてです。二度手間にはなりませんでしょう?」


 仮に迷ったのだとしても、同じことだ。わざわざ私に声をかけたのだって、図書館の関係者だと分かっているからに違いない。そうでなかったら、同じ迷子かもしれない相手に、声をかけるような真似はしないだろう。


「僕の探している本が、あっちにあるのかもしれなくても、ですか?」


 この青年……実は危ない人、なのかな? もしくはただ単に、図書館のバックヤードを見たい、とかいう利用者かもしれない。

 元いた世界でも、バックヤードツアーの企画は人気だったから。


 だけどこの奥にあるのは禁書区画。そのことを知っているのは、一部の人だから、そっちの可能性の方が大きかった。とはいえ、私の役目は青年を禁書区画から遠ざけること。なんとかして説得しなければ。


「……そうですね。もし仮にあったとしても、まだ書架に並べられない本は登録されていないため、貸出することはできません。閲覧もまた同じです」

「ほんの少しだけでも、ですか?」

「はい。利用者の方には、綺麗な状態でお見せしたい、というのが我々の気持ちですので。それにお探しの本は、どのようなものなのですか? こちらで調べることはできます」


 落ち着け、私。最近、占いばかり対応していたからか、前よりも利用者の対応ができている。このまま、レファレンスサービスに移行するのよ。


 けれど青年はすんなり答えるつもりはないらしい。まだ奥に行きたい、と青い瞳が物語っていた。


 だからといって、「はい、どうぞ」というわけにもいかないのよ!


 そう思った瞬間、脳裏にカードが浮かんだ。それもあの白いウサギのタロットカード。ソードの九だ。

 ベッドの上で、顔を覆うほど悲しむ白ウサギ。壁にかけられた九本のソードが痛々しかった。


「何か悲しいことでも?」

「え? どうして……」


 思わず口に出してしまった言葉だったが、青年は驚いた顔で私を見た。突然、変なことを言えば誰だって、と思うだろう。しかし青年の反応は違った。


 どちらかというと……見透かされた。そう、私に心の内を見透かされたと感じたのか、顔がみるみる内に青くなっていったのだ。


 あぁ、やってしまった。


 占いは怖くないもの、と思いながら接していても、余計なカードを出してしまい、その度に私は相談者を怖がらせていた。今の青年の顔は、まさにあの時の利用者と同じ顔。


「あ、あの……私!」


 一歩前に出ると、青年は後退り、しまいには逃げていってしまった。幸いにも、一般書区間に向かって。


 ついていない……。


「占い師でもない私が、占いの真似事をしたから、罰が当たったのかも」


 折角、グリフィスの提案で占いから距離を置いたのに……これでは台無しである。合わせる顔がない。だけどこんなことを相談できるのは、グリフィスしかいなかった。


 私は誰もいなくなったスペースにしゃがみ込み、一人反省会を行う。今すぐ駆け出したい気持ちはあるけれど、ラモーナの仕事の邪魔をしたくなかったのだ。


 だけどこれはこれで恥ずかしいし……寂しいよ……。


 これから新しい仕事も兼任するのに、初日から前途多難だった。

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