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召喚された司書の相談所〜偽装結婚ですが旦那様にひたすら尽くされています〜  作者: 有木珠乃
第1章 偽装夫婦の日常

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第12話 相談だけでなく本も

「タロットカードから三枚、アドバイスをもらいますね」


 白いウサギのタロットカードをシャッフルして、テーブルの上に三枚並べた。


 向かい側に座るのは、同僚ではなく相談者。裏面に置かれたタロットカードを興味津々で見つめていた。それと共に緊張感も伝わってくる。


 一カ月前のあの日、私は同僚を占うつもりで出勤すると、なぜか休憩室ではなく、図書館の一角に設けられた、現在相談所として使っている、即席部屋に通されたのだ。


 しかも占う約束をしていたのにもかかわらず、テーブル越しに座ったのは同僚ではなく、館長。それも、『まずは私を占ってもらってから判断する』というのだから、ますます何がなんだか分からなかった。


 どうやらヘルガは同僚を巻き込んで、図書館内に占い部屋を作るつもりだったらしい。あわよくば、図書館の名物にしようとしていたとか。


 確かに、この図書館は閑古鳥が鳴いている。そのせいで、建物の修繕もままならず、収蔵されている本も寄贈本だかりで、新規に購入できていない有様だった。


 新刊なら本屋で買え、と思う者もいるだろう。しかし誰もが本を購入できるほど裕福ではないのだ。この世界は、私のいた世界よりも、本屋の敷居が高い。


 そこに、あの美丈夫こと、グリフィスが鎮座しているのだから、尚更、この街の本屋は高嶺の花と化していた。本人は自覚していないようだけど。


 ともあれ、そんな困窮している図書館に、本来ならば私のような者が司書として入ることはできなかったはずである。いくら伝手を頼ったからといっても、難しかったことだろう。


 それとも、グリフィスのあの顔の美しさがそれを可能にしたのかしら……まさかね。仮にそうだとしても、私でお役に立てるのならば、少しは貢献したかった。


「占いじゃなければ、ね」

「どうかなさいましたか?」

「えっ、あっ、なんでもありません」


 いけない。今は目の前の相談者に集中しなければ。


 私はタロットカードを左から捲った。


「ワンドのエース、ソードのエース、そして最後はカップのナイトですね」


 占いだけど、ここはあくまでも相談所として相手に向き合っているため、タロットカードは正位置のみを採用している。逆位置だと、相手を不安にさせてしまうかもしれないからだ。


 特に今回の相談者は陶芸家で、「家業を息子に継いでほしいのですが、どうしたらいいですか?」というものだった。けれど占いでどうこうできる話ではなかったため、まずはルノルマンカードで相談者と息子さんの関係性を見てみたのだ。


 九枚展開で出たのは、騎士、鎌、紳士。本、魚、指輪。ネズミ、十字架、月だった。


 おそらく、出だしでトラブルになったのだろう。騎士は吉報の象徴だけど、今回は関係性を聞いている。紳士のカードは、性別関係なく、相談者の相手を示しているため、間の鎌と一緒に読むと、そのように捉えることができた。


 けれど真ん中の段を見ると、本は秘密、魚はお金。指輪は契約とかがあるが、ここは仲直りを望んでいるように感じた。その指輪が紳士のカードの下に出ていることから、これは息子さんの想いなのではないだろうか。


 次に下段だが、ラストに月があるので、そんなに悪い関係には見えなかった。ネズミと十字架は捉え方によってはストレスや不安、となるけれど、上段でトラブルがあったことが窺えるので、これは逆に当たり前の感情に思えた。


 誰だって仲直りをする時は不安だし、ストレスも発生する。相手が許してくれなかったら、どうしようと私も思うからだ。


 だからタロットカードで「息子さんが仲直りを望む、もしくは継ぎたいと言って来た時のアドバイス」を聞いたのだ。

 相談者は職人気質の持ち主で、息子さんとの話し合いも、よくカッとなってしまうらしい。出たカードたちを見て、私は胸を撫で下ろした。その気持ちを汲んでくれたかのようなカードが出たからだ。


「まずはこのワンドのエース。こちらは挑戦を。ソードのエースは自分の手で切り開く意味を持っているカードです。つまり、息子さんのやる気を認めてあげることですね。最後のカップのナイトも同じことを言っています。新たな局面を迎える息子さんを受け止めて、と」

「つまり……どういうことですか?」

「急かさない、ということです。職人さんとして、早く息子さんに伝授したいお気持ちはあると思いますが、急かさず相手の準備ができるのを待ってください、とカードは告げています。もしかしたら、息子さんも意固地になっているのかもしれませんね」


 似た者同士だと、対立してしまうからだ。けれど、ただ待てというのは難しい。


 私はそーっと相談者の様子を窺った。


「意固地……意固地かぁ。俺も見覚えがあるからなぁ」


 相談者は頭を掻きむしり、何か自分の中で納得したように、自身の足を勢いよく叩いた。それがよく響いたため、部屋の外で待機していた男性の同僚が顔を出す。


 占う時、どうしても相談者と二人きりになってしまうため、用心として控えてもらっていたのだ。ヘルガたちのお陰で、占いの結果は自己責任としているが、時々文句を言いに来る人がいるための処置だった。


「分かりました。アイツの腹が決まるまで、俺もじっと待ってみます。根比べと思えばいいってことですから」

「大変かと思いますが、無事に仲直りができることを祈っています」

「こちらこそ、ありがとうございました」

「もしもよろしければ、図書館にも陶芸関係の本がいくつかあります。トラブルになった原因は、存じませんが、タロットカードが出した三枚は、どれも新たな挑戦とも読むことができます。何か仲直りになるような本が、もしかしたら見つかるかもしれませんので、是非、覗いてみてください」

 

 そもそも、エースが二枚出ただけでも凄いのだ。小アルカナの中でも始まりを表すカードが二枚も出た、ということはそれだけお二人の想いが強く反映されているということ。だから衝突してしまうのかもしれなかった。


「……なかなか商売上手だな」

「宣伝もしなければ、ここで占いをする意味がありませんから」

「それもそうか。だけど折角来たんだ、ちょっくら覗いてみますよ」

「ありがとうございます」


 今度は私の方がお礼を述べた。そう、図書館で占いをするのは、これが目的だった。正確にいうと、ヘルガたちが新たな集客として考えた方法、といった方が正しい。一カ月前、同僚と一緒になって、懇願して来た理由でもある。


 素直にそう言ってくれれば、私だって貢献したのに。占いは恥ずかしいし、毎日知らない人を相手にしているのはストレスだけど、図書館のためなら我慢できる。


 私だって、本が好きだから司書になったのよ。これくらい役に立ってみせるわ。

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