異国の姫11
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こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
翌日、ドレール伯爵から謝罪があった。
昨晩カグヤの部屋に侵入した不審者は見つからなかったそうだ。
伯爵からは警備の不手際の詫びとして、
カグヤにドレール領を案内したいとの申し出があった。
カグヤは伯爵の申し出を受け入れる。
「森を散策したい」とリクエストして、動きやすい靴を用意してもらう。
そしてカグヤはドレール夫妻に、ナユタ領との境にある森を案内してもらうことになった。
案内してもらった後、そのまま隣国に向けて出立する予定だ。
ユリウス様は王太子殿下の名代として、護衛と共に領地の視察に行かれる。
そちらにはドレール伯爵子息が同行するとのこと。
そのため、朝食後はユリウス様に別れを言い別行動になる。
ユリウス様は別れ際に私の手の甲に口付けた。
微かに居場所がわかる術の気配がする。
また心配をかけていると思うと心苦しい。
私は彼に言葉をかけられないから
精一杯、微笑む。
避けて通れないことなら、私は彼と一緒に進もうと思う。
今や、彼はそう思える人なのだ。
カグヤとフェンは馬車に乗り、護衛を伴い、ドレール伯爵夫妻の馬車の後ろをついて森に向かう。
この森を北に抜けると港町、
南に抜けるとナユタ領に出る。
当初はドレール領を突っ切る形で国境に向かう予定だった。
しかし私は昨晩襲われそうになったことを理由に、ナユタ領経由で国境まで行くことをお願いした。
ナユタ領経由だと、ぐるっと迂回して国境に出るので時間がかかるのだが、フェンがカグヤの護衛2人に掛け合ってくれてすんなりOKが出た。
フェンが私の身を守るつもりなのは分かっている。
昨日出した条件も速やかに履行してくれた。
私が出した条件は2つ。
1つは「シャンパンに薬が入っていた件の証拠を押さえること」
こちらはフェンが押収して、ユリウス様に引き渡してある。
もう1つは「カグヤの部屋に侵入者が来るから対処を手伝ってほしい」ということ。
私は寝台にカグヤが寝ている様に偽装したいと言い、偽装工作に使えるものがないか探した。
私とフェンの持ってきている荷物まで広げて、使える者がないか確認する。
その際に、彼女の荷物を見た。
彼女の荷物には侍女としての服の他に、カグヤと同じような衣装が入っていた。
さらに化粧道具の他に長い黒髪の付け毛が入っていたのを見つけて、思った。
たぶん私に危険が迫った時に、フェンが身代わりになる指示が出ている。
濃い化粧をするのも、身代わりになった時にわからないようにするためだろう。
だから私は付け毛だけ借りて、寝台の偽装に使った。
長い黒髪がなければ、彼女は安易に身代わりにはなれないだろうから。
部屋が盗聴されているか調べて欲しいとフェンに頼んだのは、彼女を確かめたかったから。
王太子殿下が供として指定する侍女だから只者ではないにしても、何に長けているかは分からない。
だから試した。
彼女は要領良く、盗聴の魔導具が設置されそうな所を探していた。
彼女は何らかの訓練を受けている。
状況判断も申し分ない。
でも魔術は使えないようだ。
魔術が使えれば、ユリウス様の様に盗聴を無効化できるはず。
だけど……
一晩考えて、フェンのことが余計に分からなくなった。
彼女なら最初から姫役ができるだろう。
むしろ私より異国の姫役が適任のはずだ。
出身を濁したことからも、実際に異国の出身である可能性は高い。おそらく昭国だろう。
夕食会の時の知識量からしても妥当な判断だ。
フェンは我が国の言葉を優雅に使いこなす。
マナー講師の様な見本的な仕草、高い教養。
おそらく昭国である程度身分のあった人。
なぜ侍女役なのか?
彼女の年齢が、私より上に見えるから?
フェンはまだ20代後半くらいだろうか?
20代後半といえばユエ執務官を思い出すが、彼より年上だろうか?
私は昨日借りた黒髪の付け毛を思い出す。
この国で黒髪の付け毛を使用するのは、舞台役者くらいだ。なぜなら高位の令嬢は明るい髪色が多いため、夜会等で着飾る場合でも付け毛は明るい髪色になる。
だから王宮で使用している付け毛を、身代わり用に持たされたと言うわけではないだろう。
どちらかというと、フェンの私物と考えた方がしっくりくる。
黒いサラサラとした髪で手触りも良かった。
その髪を触れば、良く手入れされていたのだとわかる。
しかも長さがあった。
カグヤが寝ていると偽装できる程に。
つまり長い時間、大事にされていた人の髪。
あれはフェンの髪だろうか?
もしフェンが自分の髪を切って付け毛に仕立てたとして、切る前は腰くらいの長さだったことになる。
私はふと、ヤン殿下を思い出した。
彼も綺麗な黒髪だった。
黒曜石の瞳を思い出す。
あれから半年程経ったのか……。
「……ねえ、フェン。
貴方の名前はどなたが付けたの?」
「お嬢様、急にどうされました?」
「『フェン』って素敵な名前でしょう?
この役目も今日までだから、聞いておきたくて」
「名前をお褒め頂き、ありがとうございます。
父がつけました」
「お父様は素敵な名前をお考えになるのね」
その時、フェンの顔に一瞬動揺が走った。
しかしすぐに何もなかったかのように振る舞う。
私は軽く息を吐く。
ようやく違和感の正体が分かった。
いや、なんで今まで気付かなかった?
気配に頼って思考を疎かにするなんて、なんて不甲斐ない。
今回の件は、何が必然で、何が偶然なのかを考えるべきだった。
そして王太子殿下の意図を知る。
殿下はなんてことを考えるのだろう。
私が殿下の期待通りに動くと、見込まれていたのだろうか?
ならば過大評価も良いところだ!
でも事態は、殿下の予想を外れた方向に進んでいる。
ここからは成るようにしかならない。
私に残された時間は少ない。
殿下は私に「好きにしてよい」と仰った。
ならば、その言葉通りにさせて頂こう。
この時点まで、きちんと命は遂行した。
私もユリウス様も、そして彼女も。
いつもありがとうございます。
『異国の姫』長くなってしまっておりますが、引き続きお付き合い頂ければ幸いです。
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