異国の姫10
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こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
深夜、屋敷が寝静まった頃。
ここはカグヤの部屋、私はもちろん一人で部屋に居る。
カタン
暖炉の方から、小さな物音がした。
急に人の気配がする。
人影はだんだん寝台に近付いて行く。
ギシッ
寝台に体重を掛ける音がする。
すかさず私は紐を引いた。
ガシャーン
派手な音を立てて、部屋端にあったフロアライトのスタンドが倒れる。
「!」
人影が驚く気配。
バタバタバタ
ガチャ
「お嬢様、どうされました⁈」
フェンが慌てて、部屋に入って来る。
部屋の人影を見て、大きな声を上げる。
「キャーーー、誰かー!不審者ー‼︎」
部屋の人影は慌てて、暖炉の方へ姿を消す。
「どうした⁈何があった⁈」
ユリウス様と護衛が駆けつける。
「部屋の中に不審な者が居て……」
フェンが廊下で説明しているうちに、私は隠れているところを出て、寝台に移る。
私は部屋の隅のクローゼットの中に居たのだ。
そして部屋に置いてあるフロアライトの細長い足に紐をつないでおいた。侵入者が寝台に近付いたタイミングで紐を引き、フロアライトのスタンドを派手に倒した。
その合図でフェンとユリウス様が駆けつけてくれて、廊下で騒いでくれる。
その間に私は寝台の細工を外す。
寝台に人が寝ている様に見せかけるため、枕やタオルを配置し、昼間着ていた衣装を被せて、その上から布団を掛けていた。しかも布団の端から黒髪が見えるように、フェンから借りた付け毛もセットした。
明かりがついていればお粗末な仕掛けだが、暗い部屋ならそれなりに本物らしく見えただろう。
私は寝台に座って布団を被る。
震えているフリをして廊下の方で収拾がつくのを待つ。
しばらくして部屋の明かりがつく。
フェンが部屋に入って来た。
「お嬢様、大丈夫ですか?」
「……」
私は答えずに、軽く頷く。
そして廊下が静かになるのを待つ。
扉がノックされ、ユリウス様が入ってきた。
「今から別の部屋に移る。
今夜は2人一緒にいてほしい」
私は小声で答えた。
「……わかりました。それで、誰が最後に現れましたか?」
「ドレール伯爵子息だ」
隠し通路から出て行った人影は慌てて自分の部屋へ戻り、そして騒ぎを聞き付けた人を装って駆けつけたのだろう。
カグヤの部屋に駆けつけた者のうち使用人を除けば、ドレール伯爵夫妻、ドレール伯爵子息の奥方、そして時間が空いてドレール伯爵子息の順だったそうだ。
この屋敷の見取り図と部屋割りは確認済みなので、それも勘案すると……。
やはりこの部屋に来た人影はドレール伯爵子息だ。私にずっと視線を向けていた人。
だからフェンに「不審者」だと、わざと派手に悲鳴を上げてもらった。
暗闇の中、突然派手な物音がしたことといい、ドレール伯爵子息は軽くパニックになっただろう。
伯爵子息をここで捕らえるのは容易いが、彼には侵入口から戻ってもらうように仕向けた。
フェンやユリウス様がすぐに部屋には踏み込まず、廊下で騒ぐ事で、伯爵子息が逃げる時間を作った。
もちろん理由がある。
一つはドレール伯爵子息がカグヤの部屋にいることを正当化しないため。
カグヤはこの国の言葉を話せない設定だから、伯爵子息が何らかの理由をつけて部屋にいたことを正当化されると否定が難しい。
そもそも伯爵子息が結婚している身で、深夜に未婚の女性の部屋にいることを正当化できるとは思わないが、そういう隙すら作りたくない。
もう一つはドレール伯爵家の家ぐるみの不法行為を明らかにするため。明らかにする前に伯爵子息を拘束すると、警戒された伯爵に証拠を消されかねない。
不法行為については、ユリウス様が王太子殿下の名代として適切に処理してくれるだろう。
もちろんドレール伯爵子息についても。
伯爵子息をどのように処理するつもりなのか、
私はユリウス様に聞かなかった。
世の中には知らない方が良いこともあると思う。
私はユリウス様とフェンに付き添われて、別の部屋に移る。
部屋の中は予め調べ済み、盗聴はない。
部屋の外には護衛もいる。
今夜、これ以上の動きはないだろう。
私は軽く息を吐く。
結局、コウの情報の通りか。
これで彼の情報はある程度信用できると、判断できるだろう。
同時にコウからもたらされた、攫われた人達の情報が、ある程度確かだということになる。
この国の高位の者で黒い髪をしている女性はいない。攫われたのはおそらく平民だろう。
伯爵は、身分が低い者になら何をやっても良いと思っているのだろうか?
攫われた者の中に子爵家以下の身分の低い貴族令嬢が含まれている可能性も考えたが、貴族の娘が拐かされたなら相応の捜査がなされているはず。
ジーク隊長など傭兵に依頼が行くなら、現状は民間での対処に留まるということ。
となると、王宮ではまだこの件を重要視していない?
それとも王太子殿下は秘密裏に動いて、私達に何かさせようとしている?
私はまた軽く息を吐く。
今回の件、何かしっくりこない。
原因は分かっている。
王太子殿下の意図がわからないからだ。
私は何か見落としている?
だが既にシナリオは決まっている。
明日になれば、否が応でも事態は動き出す。
この役目もあと1日。
明日の夜には、全てが明らかになっているだろうか?
1人視点なので情報が偏っております。
『異国の姫』長くなってしまっておりますが、引き続きお付き合い頂ければ幸いです。
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