本当の姿を見せる魔法5 別人
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こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
翌日、レイが落ち着いた頃を見計らって、ライオール殿下とロバートと俺の3人で、彼女の話を聞く。
レイは9歳以降の記憶がないため、昨日のことも全く覚えていなかった。
一通り話を聞き終わってから、ロバートがレイに尋ねた。
「セレス伯爵令嬢、何か聞きたいことはあるかい?」
「発言をお許し頂きありがとうございます。
私は秘書官の任で王宮に上がっていたと伺いました。この様なことになり、秘書官としての記憶もありません。今後の処遇はどうなりますか?」
「秘書官の仕事については気にしなくていい。セレス嬢はしっかり役目を果たした。回復するまでゆっくりしてほしい」
「できればセレス家の屋敷で過ごしたいのですが。ここに居ても、私に出来る事はありませんので」
「今回の事は王宮内で起こったことだから、しばらく王宮に留まってほしい。セレス嬢の記憶を取り戻す手掛かりがないか、現在探しているところだ。
もちろん王宮としてできる限りのことはするつもりだから、セレス嬢の希望があれば教えてほしい」
「お気遣い頂きありがとうございます。私の希望につきましては、後日ご相談させて頂きたくお願い致します」
ロバートと話すレイは昨日とはまるで別人だった。もちろん俺が知っている彼女とも違う。
表情を表に出さず、目は伏せがちで生気がない。
まるで整った顔立ちをした人形の様だ。
しかし中身が9歳とは思えない落ち着いた大人びた口調で、外見通り18歳の少女に見えた。
「セレス嬢、この度は本当に申し訳なかった。王宮としても記憶を取り戻す手助けをするつもりなので安心してほしい。
まずはセレス嬢をよく知る者に話を聞くのはどうだろうか?」
ライオール殿下が言う。
「お気遣い頂きありがとう存じます」
「それではこのクローディア公爵子息から話を聞くと良い。ユリウス頼むぞ」
そう言い残し、ライオール殿下とロバートは退出した。
後に残された俺とレイは沈黙する。
「レイ、その、体調は大丈夫か?」
俺は思い切って話しかける。
ずっと話がしたかったが、いざと言うと言葉が見つからない。
レイはぼんやりとこちらを見た。
そして目を伏せて言う。
「このようなことになり申し訳ありません。
クローディア公爵子息におかれましては私と婚約していると伺っておりましたのに、何も覚えておらず……」
「いいんだ。レイが無事なら」
レイは顔を上げて俺を見る。
一瞬怪訝な顔をしてから、表情を消して人形に戻った。
「……その『レイ』と言うのは私の事ですよね?
私がその呼び名を許したのですか?」
「えっ?ああ……」
「そうですか……。
宜しければ、最近までの私の話を聞かせて頂けませんか?公爵家でお世話になっていたと伺いました」
俺は、公爵家でのレイの様子を話した。
両親にも気に入られ、妹達にも懐かれていること。使用人にも好かれ、公爵家で楽しそうに過ごしている様子。
俺とずっと一緒に居てくれて、色々楽しそうに話してくれること。
レイは黙って聞いていた。
「私は……幸せそうですね。
公爵家の方々が良くして下さるおかげですね」
「レイの力だよ。レイは誰とでも仲良くできるから」
するとレイの身体が一瞬止まる。
驚いたように目を開き、そして申し訳なさそうに微笑んだ。
「そうですか。
私は頑張っていたのですね……」
話は出来たがどうにも距離を感じる。
無理もない。
彼女にとって俺はいきなり現れた婚約者だ。警戒されるのも仕方ないことだと思う。
しかしながらそれ以上に、レイには人を寄せ付けないオーラのようなものを感じる。
誰をも立ち入らせないという意思のようだ。
以前とは真逆の雰囲気に、俺は戸惑いを隠せなかった。
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