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その時は本気で逃げることにします〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様、続〜  作者: みのすけ


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結婚式

お立ち寄り頂きありがとうございます。

こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。

設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。

まもなく学園卒業から1年になるという頃、リブウェル公爵子息とシルフィーユ様の結婚式が行われた。

大貴族同士の成婚で王宮も沸いていた。


シルフィーユ様とリブウェル公爵子息は家同士が決めた幼い頃からの婚約者だそうだ。


以前シルフィーユ様との茶会の席で、リブウェル公爵子息の話題になったことがある。


「長い時間を共に過ごす事で、自分にとってなくてはならない人になった」とシルフィーユ様は仰っていた。


そういう政略結婚もあるのだなと思った。


「第二王子側近のロバートが成婚の儀で忙しくなる前に結婚式を挙げたかったの」と微笑んでいたシルフィーユ様を思い出す。


きっとこの日を、待ち望んでいらっしゃったことだろう。


私とユリウス様も参列して、シルフィーユ様とリブウェル公爵子息を見守る。

想い合うお二人を見て、とても温かな気持ちになった。



これが『幸せ』な気持ちなのだろう。



結婚式が終わり大聖堂から出るシルフィーユ様は、青空に白いウエディングドレス姿が美しい。


シルフィーユ様は持っていたブーケを、ライオール殿下の婚約者ミア様に渡した。



花嫁が持つブーケを受け取った人は次に結婚できると言われているそう。

来年は第二王子殿下の成婚の儀が予定されている。



結婚式の後は披露宴に出席する。


大貴族同士の成婚のためか、高位貴族はほとんど出席していた。

私はユリウス様にエスコートされて、出席者と挨拶を交わす。


これが私達の事実上の婚約公表となり、挨拶する先々で私達も祝福された。

実際の婚約披露は、王立研究所の表彰式の後に行われる。



✳︎



その夜、私が書類を片付けているとユリウス様が部屋に来た。



明かりがついていたので気になったという。

確かにいつもより遅い時間だった。



「ユリウス様こそ、まだお休みになっていなかったのですか?今日はお疲れでしょうに」



「あぁ、何だか眠れなくて」



そう言って目を伏せた顔が気になり、私はユリウス様の頬に手を当てる。


元気がないように見える。



「お休みになれる飲み物を作りましょうか?」



私が手を離して厨房に飲み物を作りに行こうとすると、後ろから抱き締められた。



毎日の様に触れられているが、何だか様子が違う気がする。

なんか前にも似たような事があったような……。



ユリウス様は抱き締めたまま無言だった。

私の肩口に顔を埋めていて表情はわからない。



「……ユリウス様は元気がない様です。元気が出る方法を試していいですか?」


「……前と同じやつ?」


「……どうでしょう」


私が意味深に言うとユリウス様は抱き締めていた腕を解いた。



私はユリウス様の手を引いて、寝台へ座らせる。この部屋で2人で並んでかけられる場所はここだけだから。



並んで腰掛け、ユリウス様の眼を見る。



あぁ、そうだ。前もそうだった。

一緒に過ごした今なら、たぶんわかる。

ユリウス様が感じていること、それは



「ユリウス様、何が不安なのですか?」



アイスブルーの瞳が大きくなる。

いつ見ても綺麗な色。だから確信する。



「私に関することですね?

何を不安に思ってらっしゃるのですか?」



「……」



アイスブルーの瞳が揺らぐ。

ユリウス様は、私に気付かれたことに動揺しているようだ。



そう、ユリウス様は優しい人。

私に心配させないよう、いつも気遣ってくれている。


ユリウス様は端正な容姿と有能な仕事ぶり、さらに優秀な魔術師であるので、他人から完全無欠と思われがちだ。


しかし実際は他人に優しく気遣いのできる人で、年相応の葛藤を抱えている。



「今何を考えているか、教えてくれませんか?」



「……言っても、がっかりしない?」

「しません」



「……呆れるかも」

「呆れません」



「だが……」


ユリウス様が言いかけて止める。


彼の目が伏せられる。


「私はどんな言葉でも聞きたいです」


私はゆっくりと言い、ユリウス様の頬に手を当てる。

触れたところが、少し温かい。


ユリウス様は頬に添えた私の手を握る。

目線は合わない。



「……婚約を公表すれば、不安がなくなると思ってた」



「……」


「……同じ家に住んで、前よりも一緒に居るのに。レイは官吏を辞めて、公爵家に入ると言ってくれたのに」



「……」



「ずっと一緒にいたい。

レイを独り占めしたい」



「……」



「……自分でも呆れる」



「私には、苦しそうに見えます」



「でもレイに触れている時は,その気持ちも少し落ち着くような気がする」



ユリウス様とはまだ目が合わない。

こちらを見てくれない。


不安にさせている原因は色々あるだろうけど、たぶん特使の任の時の件が大きい。


手を講じなければ、私は今ここにいなかったかもしれないのだ。

あれが最善の策だと思ったが、彼に対する影響をもっと考慮すべきだった。




私は自分の身体を近付けて口付けする。

軽く、長く。


唇を離すと、ユリウス様と目線が合った。


「結婚式はまだ先なので、ユリウス・クローディア様に誓います。

私アレキサンドライト・セレスはユリウス様とずっと一緒にいます。ずっと側に居たいです」



そして彼の額に口付ける。



これは今日の結婚式で、リブウェル公爵子息がシルフィーユ様にしていたことと同じ。


ユリウス様は驚いたように目を見開く。

頬が朱に染まっている。



『元気が出る方法』は成功したようだ。



ユリウス様の変化に気付ける距離にいることができて良かったと思う。


私は微笑む。

自然に笑えるようになったのは、間違いなくユリウス様のおかげだろう。



「ユリウス様、今夜はずっと一緒にいてくださいませんか?」



「レイ、その、今そういうことを言われると……たくさん触れたくなるんだけど」



「いいですよ。独り占めしてみて、ユリウス様が私に飽きるかもしれませんし」


私は戯けて言ってみた。


「それは……ないな」


ユリウス様は少し考えるような仕草をして、やっと笑った。

私もつられて笑った。


お互いが自然と手を伸ばした。


触れ合うことで伝わるものもある。

既存の言葉では表し足りない、溢れて零れ落ちる、言葉にできない感情たち。


それは自分一人ではわからないままだった、


この感情も、衝動も、自分一人ではもたらされないものばかり。

次に繋がる話をいくつか投稿してから、個人的に一番書きたかった話を投稿する予定です。前作の時からお読み頂いている方には、よりお楽しみ頂けるかと思います。

お付き合い頂けると幸いです。


評価頂いた方々、ブックマーク頂いた方々、リアクション頂いた方々、毎回励みになります。

ありがとうございます^_^

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