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その時は本気で逃げることにします〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様、続〜  作者: みのすけ


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後宮41

お立ち寄り頂きありがとうございます。

こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。

設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。

まもなく日が昇る。

私は公爵邸の庭の一角にいる。

この時間、この場所に警備の見回りは来ない。


今は薄明、魔法のような美しい空が見られることからマジックアワーと呼ばれる。


目の前には深い青色の空、ブルーモーメントが広がる。この色が見られるのは5分から10分程の短い時間だ。

私はそれを目に焼き付けて、気持ちを落ち着かせる。


トワイライトタイムという日没から僅かな時間は魔力が一時的に増すと言われているが、日の出前の薄明かりの僅かな時間もトワイライトタイム。


幼い頃から、私は時々この時間に魔法の練習をしていた。両親が生きていた時は母と一緒に領地の屋敷出て、いつもの場所に行く。両親が亡くなった後は一人で、薄暗い道を歩いて空を見に行く。


王都のセレス家にいる時は屋敷を抜け出すのが難しくてだんだん回数を減らし、公爵邸に移ってからは月に一度くらい、こうして空を見る。


母からは、「魔法を使う時は、空の様に澄んだ心で祈ること」と教えられた。


魔法は祈りのイメージ、澄んだ心ではないと祈りは届かず、形にならないという。漠然とした教えをできるだけ具体的に教えるために、実際に空を見せたのだろうと思う。


先程のブルーモーメントも、オレンジ色と赤色が美しい朝焼けも、いつ見ても澄んでいる。


空の美しさが日々変わるように、心の有り様も日々変わるもの。

後宮に入る前は心が荒れて、空の様に澄んだ心にはほど遠かった。だから魔法が使えなかった。


今はどうだろうか?


自分の認識する世界は壊れ、私の中は混乱した。

今は混乱は収まって、安定している。


綺麗なものを見て、後宮にいる人の心の有り様を見て、その結果紡がれた現在を知った。

色々な人の、様々な気持ちが交錯した後宮、過去を肯定し、闇い気持ちが薄まってきた私。


自分は世界をありのままに受け入れられるようになっただろうか?



たとえ魔法が使えなくとも、空の様に澄んだ心で、また祈ることができるだろうか?






体が冷えた私はシャワーを浴びて支度を整えた後に、静かに部屋に戻る。


後宮から公爵邸に帰ってきた後、私は部屋を移ることになった。ユリウス様と寝室が一緒になり、寝室を挟んでお互いの部屋が繋がっている。


私は物音を立てないように、寝台に近付く。

ユリウス様がいるので起こさないように……。


と思ったら、抱き寄せられた。


「どこに行っていたの?」


ユリウス様が不機嫌そうに言う。


「起こしてしまいましたか?」


また心配させてしまったかな、と思う。


「気付いたらレイがいなかったから。

シャワーにしては長い」


私はユリウス様の腕の中に収まる。

温かいので安心してしまう。


「居場所がわかる術で把握していらしたのでしょう?」


ユリウス様は、私に危険がなければ好きにさせてくれるのを知っている。


「まあな、でもレイの口から聞きたい」


彼は私の髪を掬い上げて口付ける。


「……昔からの習慣で、時々、明け方の空を見に行くのです。幼い頃は母と見ていました」


ユリウス様は少し驚いた顔をする。

たぶん私から両親のことに触れたのが、めずらしいと思われたのだろう。


「今度は俺も一緒に行く」


布越しに抱き締められる力が強まるのを感じる。


「はい」


私も手を伸ばしてユリウス様に触れた。



✳︎




翌る日、ルイーゼ様のご希望で王立大聖堂を訪れた。


王弟殿下にエスコートされ、懐かしそうに聖堂を見て回るルイーゼ様。


杖はもういらないようだ。今は低めのヒールの靴をお召しになっている。


足元は確かで、王弟殿下に寄りかかるようなこともなかった。


「私としてはもう少し寄りかかってくれて構わないのだけど」


王弟殿下の冗談に微笑むルイーゼ様は、花が綻ぶような微笑みを浮かべている。


見守る侍従と侍女頭は涙ぐんでいた。

辛い時でも側を離れず、長らく見守ってきた者として感慨深いのだろう。


もちろん私にとっても。

振り返れば半年以上、お側で仕えさせて頂いた。


ルイーゼ様の力になりたいと思ったのは、あの御方に自分の一部を重ねたからだ。


ルイーゼ様が王弟殿下の側で立ち続けることを、私は自分がユリウス様の側に居続けることに重ねた。


自分を変えてでも側にいたいと望み、

それが叶ったけれども自分の努力だけでは依然として足りずに、心が落ち込む。

周囲に支えてもらいながらも、

最後は自分の気持ちで立ち続けることを選んだ。


ルイーゼ様はひたむきに努力を続けられた。

弱音を吐かず、地道な訓練を黙々と続ける。

自分を律して、それでいて清らかな心根は変わらず、他人を慮る。


ルイーゼ様を取り巻く様々な思いが交錯しても、それを重荷と思わずに支える力に変えられる。ありのままを受け入れる器がある御方だった。


私はそんなルイーゼ様が生き生きと立つお姿を見届けたくて、後宮にいたのだと思う。


見届けられた今、彼女のために、祈れるだろうか?

これからも幸せでありますように、と。



ルイーゼ様は満足されたらしく、王弟殿下と一緒に大聖堂を出てくる。


入り口に立ち止まったタイミングで私は指を鳴らした。


パチン


「あら?」

「これは……」


お2人の頭上から花びらが降り注ぐ。

白、ピンク、黄色、水色、、


「まるで、私達の式の時と同じだわ」

「ああ、思い出すな」


花びらは侍従や侍女頭の頭上にも降り注ぐ。

もちろん私にも。


言葉はいらなかった。

感嘆の表情でそれぞれが思いを馳せている。



私は天を見上げて思った。


私はまた空の様に澄んだ心で祈ることができる。

だから魔法が使える様になったのだ。


魔法は祈りのイメージ。


ルイーゼ様の幸せを祈って、彼女の記憶の中にある幸せなイメージを具現化した。


ルイーゼ様はこの場所で、幸せな結婚式を挙げられた。

皆に祝福された時に見た光景を『幸せ』なイメージとして、ずっと大切にしていたのだろう。


これもまた綺麗なもの。

人の心の中に見る、綺麗なもの。


花びらは一頻り振り、触れると雪の様に消えた。


「セレス嬢の仕業か?」


王弟殿下が悪戯そうな顔で仰る。


「僭越ながら、サプライズさせて頂きました」


「大義であった」


王弟殿下はにかっと笑った。

王族らしくない顔に、殿下本来の気持ちを表してくれていると思う。


「殿下ったら、子供のようなお顔をされてますわ」

ルイーゼ様もくすくすと笑っている。



幸せな光景だと思う。


最後に見れて良かった。

この場所に立ち会えて。


その数日後、私は王弟妃殿下付き侍女を辞して、後宮を後にした。



✳︎



後日、ルイーゼ様の御懐妊が伝えられる。


王太子殿下はやれやれという顔をしていた。


「叔父上はやっと王族としての責務を果たす気になってくれたらしい。

叔父上は自分が子を成すことで王位継承の争いが起こることを危惧していらしたんだ。

そんなことを気にすることはないのにね。

そもそも今は王族の人数が少なくて、側妃を迎えろとか煩く言われるくらいなのにさ」



フェン王女の一件後、王太子殿下は私に対しては遠慮せずに言うようになっている。



「だって愚痴を言う相手がいないだろう?」


王太子殿下は飄々と言う。


「側近の方々がいらっしゃるではないですか?」


私は呆れたように答えた。


「彼らにとって私は主だからね。

愚痴っぽい主なんて嫌だろう?」


最近の王太子殿下は楽しそうだ。

貴族の膿を出し切って清々しい気持ちらしい。


「殿下、私も一応臣下の一人ですが」


私はため息を吐きながら応じる。


「では臣下の君に頼みたいことがある。

王妃宮からしばらく侍女として仕えてほしいと依頼が来ている。

あと王弟妃宮からも、時々顔を出してほしいとのことだ」


王妃陛下から出仕の意向がある旨は、お義母様を通じて伺っていた。

ユリウス様が不機嫌になるのでしばらく黙っているようにとお義母様は仰っていたが、王太子殿下を通じて要請があれば、ユリウス様のお耳にも入っているだろう。


「出仕の時期は、ご相談させて頂いてもよろしいですか?」


断れない案件なので、こちらとして最大限の譲歩を引き出す。


「いいよ、結婚式後の休暇の時期はどうせユリウスが良い顔をしないだろうしね」


王太子殿下もやれやれという顔で応じた。

お付き合い頂いている方々、いつもありがとうございます。これで後宮編は終わりです。

完結まであと4話、登場人物達のこれからを見届けて頂けると嬉しいです。最後までご一緒できれば幸いです。


評価頂いた方々、ブックマーク頂いた方々、リアクション頂いた方々、メッセージ頂いた方、毎回励みになります。

誤字報告も助かります(活動報告でお礼申し上げております)。

いつもありがとうございます^_^

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