後宮5
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こちらは「婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜」の続編的な位置付けです。もちろんそのままでもお楽しみ頂けます。
設定や人物像については、前作をご覧頂けるとより楽しめるかと思います。
俺は急ぎ執務室を出る。
ビヴィ公爵子息の話だと、レイは孤児院で
院長とビヴィ公爵閣下に会ったそうだ。
そして後宮に出仕する旨を承知した。
その際に数日王都を離れたいとの申し出た。
孤児院を出たレイは大通りに向かって歩いて行ったらしい。
孤児院に入る際に、クローディア家の馬車を一旦帰していたからだ。
ビヴィ公爵家の馬車で送るという申し出も断った。
しかし令嬢を一人で帰すわけにはいかないとビヴィ公爵家の配下の者が後を追ったところ、大通りの路地を曲がったところで忽然と姿を消したそうだ。
目を離したのは数秒なので、誰かに連れ去られたわけではないらしい。
しかも魔術や魔法の痕跡は全くなかったようだ。
彼女には居場所がわかる術をかけてある。
だから行き先はわかっている。
だが思慮深い彼女らしくない行動だ。
何かあったのは間違いない。
俺はそれを先に確かめたかった。
とりあえず孤児院に急ぐ。
すると院長はレイの行方がわからないことを知らなかった。
レイとの話が終わった後、ビヴィ公爵閣下は王弟殿下に報告するために王宮に戻ったとのこと。
ならば、今頃は王弟殿下と父上との話し合いの場に同席しているだろう。
「クローディア公爵子息、この度のことは本当に申し訳ないと思っています」
院長はレイを孤児院に呼んだ理由を話した。
案の定、ルイーゼ王弟妃殿下の宮に侍女として出仕する話だった。
「その場にビヴィ公爵も同席したのです」
この件にビヴィ公爵閣下が関わっているのは半ば予想した通りだった。
ルイーゼ王弟妃殿下はビヴィ公爵家本流の家の出身で、ビヴィ公爵閣下とは従兄妹関係。
王弟殿下を支えるのが公爵家序列2位のビヴィ公爵一門なので、王弟殿下がクローディア公爵家に話をした段階で、ビヴィ公爵家も承知した内容だと思っていた。
「私も知らなかったのです。前子爵が亡くなったばかりのセレス家に、ベガ伯爵家が圧力をかけて家宝を手に入れようとしていたことを」
ベガ伯爵は数年前に廃嫡されたビヴィ公爵家の家門の貴族の一人だ。
レイが去った後に、院長がビヴィ公爵から当時の事を聞いたところ、ベガ伯爵はかなり強引なことをしたらしいことを知ったと言う。
ビヴィ公爵家の家門を振り翳し、弱い者をいたぶる様な仕打ち。幼いレイを誘拐して、主人が不在なのを良いことに家人を脅迫し危害を加えたこともあるそうだ。
それは通常取り締まられるべき事案であるが、表沙汰にならなかった。
なぜなら、ビヴィ公爵家の当時の当主がベガ伯爵家の行為を助長したからだ。
宰相であったビヴィ前公爵は、他家に介入させないよう手を回していたそうだ。
ビヴィ前公爵はセレス家を弱体化させ、ゆくゆくはセレス領まで手に入れようと考えていたのではないか、とのこと。
セレス領はクローディア領の隣だから、当時序列2位のクローディア公爵家を牽制する上でも、セレス領は好立地であったからだと考えられる。
結果として当時の筆頭家令だったセバスチャンは身体を壊してセレス家を去ることになった。
レイはそれに対して感情を露わにし、ビヴィ公爵に「協力できない」と言ったそうだ。
彼女の気持ちを思えば当然だろう。
自分よりも家人を大事にするからだ。
しかも、彼女は隠していたが当時受けた傷は今も癒えてない。
それにレイは感情を露わにすることが少なかった。
最近は屈託なく笑ったり、楽しんだりする表情を見ることができるが、本気で怒ったり悲しんだりする表情は一度も見たことがない。
淑女教育の賜物だと考えていたが、記憶を失った時のレイの様子を考えると、普段から感情を抑える力が強いのであろう。
それが人前で感情を表すくらいだから、相当に我慢のできない事柄だったはずだ。
立場を重んじる彼女が、我を忘れるくらいに。
レイは結局後宮に出仕する件を承知して、数日王都を離れたいと言ったそうだ。
気持ちを整理したいから、と。
気持ちを整理するって、また一人で抱え込むつもりだろう。
今までずっとそうしてきたのだろうから……。
もう日が暮れて、暗闇が迫っている。
俺は院長に礼を言って孤児院を出る。
御者に言伝を頼んで馬車を公爵家に帰す。
既に日が沈んで暗くなっている。
俺は居場所が分かる術の気配を探り、転移魔法で飛んだ。
転移先は深い森の奥。
星空の光も届かない暗闇だった。
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