98.神力
「昨日は嬉しくて深く考えなかったが……、これは下手すると大騒ぎになるかもしれないな。一応私がAランクだから……、いや、それにしもこれは……」
森の家から装備を持ってきた翌日、夜は私とアーサーだけ転移して、朝になって向こうのキッチンで作った朝食を持って戻ってきたのだが、渡した装備の前でマティスがウンウンと唸っていた。
「おはようマティス。どうしたの?」
「おはようサキ、昨日もらった装備なんだが、低ランクのシリルはもちろん、Aランクの私でも使っていいのか迷ううくらいの業物だと思うんだ」
「え? だけどみんなが使わないなら、ずっとあの家に死蔵されたままだったでしょ? せっかくちょうどいいのがあるんだから使えばいいじゃない。むしろ使わなきゃもったいないよ美術品じゃないんだから」
「まぁそうだが……。これって魔銀だよなぁ」
「いらないなら売っちゃう? いい物なら高く売れるんじゃない? それより朝食持ってきたから食べようよ! サンドイッチだけど、調味料が一味も二味も違うから美味しいよ!」
「あ、ああ。皆を呼んでくる」
「じゃあ、私は並べておくね」
アーサーに聞いたところ、神力を使いこなせるようになると、この世界の物質を使うのであれば自由に物を作れるらしい。
そのせいか、時間停止機能の保存庫の中に日本クオリティのマヨネーズがあったのだ。
という事は、私も使いこなせるようになれば作れるって事。
それこそ材料がこの世界に存在さえしているのなら、入れるだけ混ぜるだけのレトルト調味料も……ふふふ。
とうとう異世界でお約束の料理無双が私にもできる時が!!
「サキ、おはよ~」
「おはようリアム」
リアムを筆頭にユーゴとシリルもリビングダイニングにやってきた。
森の集落にあったダイニングテーブルは大きいので当然置いてきている、という事で野営と同じく木箱を並べてその上に朝食を準備してある。
「サキ、ありがと」
「どういたしまして、今日は森の家にあった物を色々試したかったからね」
いつもは一緒に朝食の準備をしているので、ユーゴにお礼を言われた。
道中はお店や宿の食堂を使う事が多かったけど、普段は頑張ってるから楽をする日があってもいいと思う。
みんながサンドイッチを食べ始めると、みんな無言なのにアーサーが口の周りを舐め始めた。
つまりは無言になるほど集中して食べているという事だ。
やはり森の家にある物を使えば勝てる!
「なんだこれ、すげぇ美味いぞ!」
「本当だね、いつもと違う!」
「ん、美味しい」
「確かに一味も二味も違うな。装備と言い、魔女はすごい人だったようだ」
「本当だよね、私も早く神力を使いこなせるように頑張らなきゃ!」
「「「「…………」」」」
「ん? どうしたの?」
なにやらみんなが固まってしまった。
『そういえば神から神力をもらった事を言ってないのではないか? 我には話してくれたがな』
マウントを取るかのようにドヤァと胸を張るアーサー。
「言ってなかったっけ?」
私の言葉にコクコクと頷く四人。
その後、神力を持つ方に対等な口をきくなんて、と言い出したマティスを説得するのに一時間ほどかかった。




