93.曾祖母の友人
「君はエルフを見るのが初めてなのか? まぁ、外界に出ているエルフは少ないから仕方ないが」
「初めてですっ! みんなは会った事ある!?」
偉い人の風格があるせいで、思わず敬語で答えてしまった。
興奮気味にみんなを振り返ると、なぜか戸惑いの色が。
「いや、初めてだけど、エルフよりも珍しいサキとアーサーがいるから驚かないというか……」
ためらいがちにシリルが店主と私達を見比べる。
店主は何の事かと首を傾げながら私とアーサーを見た。
だけど私なんて普通の人族だし、アーサーは……フェンリルだ!
「そっか、そういえば千年に一体だけだからレア度でいえばアーサーがダントツだっけ」
「いやいや、レア度で言えばサキの方が上だろう? 過去にもいたフェンリルより、唯一の異世界人って事忘れてないか?」
マティスが呆れた目を向けていた。
あ、そういう事ね。私ってば種族以前に生まれた世界が違ったんだった。
「だけど生まれた場所が違うだけで、普通の人族じゃない? 見た目だと珍しくもなんともないでしょ?」
苦笑いしつつ頬を掻いていると、驚きで目を見開いた店主がふらふらと私に近付いてきた。
「い、異世界人……? 君は異世界から来たのか? 審判の魔女と同じように……」
店主の言葉に今度はこちらが驚いた、今ハッキリ審判の魔女って言ったよね!?
「あっ、もしかしてエルフは長生きだから魔女本人を知ってるとか!? だったらオーギュストとアルフォンスに教えたらすごく喜ぶんじゃない!?」
喜ばしい情報に、パチンと両手を合わせた。
「ははは、いくらエルフが人族より長生きとはいえ、九千年も生きられないさ。普通のエルフで長寿で五千年、ハーフエルフだと千年生きられるかどうかかな。私が審判の魔女を知っているのは、曾祖母が審判の魔女……カミーユと友人だったらしくて、当時の曾祖母の手記が遺っているんだ。カミーユはこの世界に生まれる前は別の世界にいたらしくて、君が今座っているその椅子の形もカミーユが教えてくれた物を元に造っている」
「この椅子が魔女の!? ふぉぉ……、時代の生き証人……! そっかぁ、人族だと遠い昔だけど、エルフだと三、四世代前になるんだね」
「そういう事だ。さて、注文は椅子だけでいいか?」
「えーっと、注文は他にもダイニングテーブルとベッドを五台は必要かな。急ぎはそれだけで、後は追々って事で」
「ふむ、……それと君が異世界人だというのは本当かという返事を聞いてないのだが? そしてフェンリルという言葉も聞こえたのは気のせいか?」
「聞き違いでも気のせいでもないですよ、私は審判の魔女が前世で住んでいた異世界から来たので。それにこっちのアーサーはフェンリルですし」
さりげなく話を戻されたが、今後も色々話を聞かせて欲しいという下心から、本当の事を話した。
しかし、私の目論見とは逆に、私が色々話すはめになるのはもう少し後の事。




