85.次の目的地
「いやぁ、助かりました! もし橋がなければ往復で半月は無駄になるところでしたからね。こちらは感謝の気持ちです、どうぞお受け取りください」
商人のおじさんはなぜか私に謝礼金の入った袋を渡すと、何度もお礼を言いながら去って行った。
どうして一番年長者に見えるオーギュストではなく、私に渡したのだろう。
「それは商人ならではの目利きのせいじゃないかな? この群れで誰が長なのか見抜いたんだろう。見た目に惑わされずに本質を見抜くなんて、きっと彼は大成するだろうね」
まだ気絶しているアルフォンスを片手で掴み、川向こうから引きずってきたオーギュスト。
「アルフォンスは……、あ、うん、大丈夫なんだね」
オーギュストの笑顔の圧力に納得するしかなかった。
けど、ちょっと待って、今何かおかしい言葉が聞こえた気がする。
「……んん? この群れの長って……もしかして私!? 私が長なの!?」
叫ぶような私の言葉に、みんなキョトンとしている。
何を当然の事を言っているのかと言わんばかりに。
『主、この者らは我の眷属ぞ。ならば我の主が長になるのは当然の事ではないか』
「あ、あ~……そういう理屈かぁ。でもまぁ、実質マティスが長っていうか、代表だよね。家長でもあるわけだし、私だとこの世界の事よくわからないし」
「どちらかというと、私はサキの補佐のつもりだぞ。アーサーとサキの望む通りにするためのな。さぁ、みんな馬車に乗ってくれ、今なら休憩をはさんでも二つ先にある町まで行けるだろう」
マティスに促され、皆が馬車に乗り込んだ。
受け取った謝礼は一旦空間収納に入れておこう。
「それにしても、国境なのに何もなかったね。サショイノ王国とナトリ王国の国境には塀と建物があったのに。もしかして橋が壊れてたせい?」
「それもあるかもしれないが、元々国境であっても同時に大量の人や物が通れない場所は重要視されないんだ。戦争だと敵が一気に押し寄せると大変だが、こういう橋の所だと移動も制限されてしまうからね。それに各町や村で身分証の確認もしているというのも大きいだろう」
パスポートなんかもない世界だからか、国の出入りに関しては厳しくないようだ。
確かにナトリ王国に入る時も、塀はあるものの建物に誰もいなかったもんね。
「なぁ、あんたらの目的地って結局どこなんだ?」
ずっと黙っていたシリルが口を開いた。
あまり自分から話しかけてこなかったから、いい傾向だ。
「そういえばマジョイル国に行くとしか聞いてなかった気がする、国内に入ったけどまだかかるの?」
「えっとねー、サキに話しても地図読めないからわからないだろうってマティス兄ちゃんが言ってた。フェンリルが顕現する前の時代に審判者をした魔女がいた森っていうのは覚えてる? あと一週間くらいかな?」
「え? あ、あー……聞いたような、覚えてないような……」
リアムの説明に記憶をたどってみたが、かなり怪しい。
私の返答に呆れた目を向けてきたが、この世界にきて覚える事が多すぎるせいだし!!
しかし神様が転生させたという人がいた所には興味がある。
お約束な日本文化にかぶれた町になってたり……。
だけど九千年前だとかなり変化してそうだなぁ、日本も千年ちょっとで平安時代からスマホが当然の文明なわけだし。
あと一週間、それまでに日本を思い出すような文化が発見できるかなぁ。
わくわくしながら馬車に揺られた。




