81.ポイ
「獣どもにはもったいねぇ、お嬢ちゃんだって同じ人族に飯食ってもらいたいだろ? なぁ?」
ニヤニヤと近付いてきて私の手首を掴もうと、リーダーっぽい男が手を手伸ばしてきた。
しかしその前に男の手首をアルフォンスが掴む。
「その子は君達が手を出していい子じゃないんだよ。君達の仲間が作ってるのを大人しく食べるんだな」
ちょっとこれには私も驚いた。
アルフォンスってばいつも吹っ飛ばされているところは見ても、誰かと喧嘩しているところは一度も見た事がないから。
「おい、手を離せよ。気色の悪い猿公が!!」
アルフォンスが気色悪いですって!?
思わず立ち上がりかけたが、男の悲鳴が響きわたり、思わず動きを止める。
「ぎゃあぁぁぁぁ! 離せぇっ!! 腕が……っ、ちぎれる!!」
「間違っているからひとつ教えてあげよう。俺は猿獣人じゃなく猩猩獣人だ」
『ククク、よいぞアルフォンスよ。そのまま握りつぶしてしまえ。主に手を出そうとするやつは万死に値する』
一瞬かっこいい事を言われてアーサーにキュンとしかけたが、ここでそんな事をされては困る。
それに私の性格上、腕が千切れた状態を放置できるとは思えない。
「いやいや、そこでやられたら料理に血しぶきが入っちゃうよ。そんな男の血が入った料理が食べたいの!? もうポイしちゃいなよ」
「ははは、つまりはここじゃなきゃこいつらを引きちぎってもいいって事か」
「ひぃっ! おい、お前ら助けろ!」
ニヤリと笑ったアルフォンスに、男は怯えて仲間に助けるよう命令した。
この時点までに助けに入ってないという事は、このパーティの信頼関係はろくなものじゃないね。
「お、おい、リーダーを放さねぇとこいつ……うわっ」
仲間の一人が近くにいたユーゴを人質にしようとしたが、その手を避けて逆に組み伏せてしまった。
「こいつら……邪魔。ポイする」
ユーゴの口からポイするって聞くと、なんか可愛い。
だけど実際やってる事は手足を持って五メートルくらい先に投げる、なんだけど。
「ユーゴはやっぱりまだ力が弱いなぁ。子供だから仕方ないか。ポイ」
そう言ってアルフォンスに投げられた男は十メートルくらい飛んだ。
「アルフォンス、やりすぎ。死んだら面倒……証拠隠滅が」
「「ひいぃぃっ!」」
ユーゴが残った二人を睨むと、慌てて飛ばされた二人を引きずって自分達の野営スペースに戻っていった。
今のは完全に目撃者という証拠を消すという宣言だったもんね。
生姜焼きをお皿に取り分けながら、冒険者達の方を見ると一応生きているみたいだったので胸を撫で下ろす。
投げられた二人はポーションを飲んだようで、荷運びを含む三人に当たり散らしていた。
こちらを見ようとはしなかったけど。
「サキ、ご飯が炊けたようだぞ」
「わかった、ありがと」
仲間への信頼感ゆえか、今の騒ぎに揺るがずお米の鍋を見張っていたマティスが、尻尾を振りながら報告してくれた。
この一行で一番食いしん坊なのって、実はマティスなんだよね。
今日も美味しくできた生姜焼きを食べつつ、何気に荷運びの扱いを気にしていると、またかと言わんばかりにアーサーがフスンと鼻を鳴らした。




